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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第六部 新婚旅行と外の国
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140話 どの魚を育てるのか

 何事もなく夜は過ぎ去り、朝になった。

 早起きした私は、水平山向うから日が昇ってくるのを眺めた。

 これが頭上を一周し、また海の向こうに消えていくのだ。


 シサイド王国の景色は、どれも絵になるな。

 絵画的素養が無い私だが、この風景が美しいということだけは分かる。


 もしかすると、セントロー王国も外国の人々にはこのように見えているのかも知れない。

 慣れてしまえば、気づかなくなってしまうものだ。

 我が開拓地だって、森の緑の美しさは大したものであると自負している。


『ピョピョ』


「むにゃむにゃ、せんぱーい」


 おっと、二人が目を覚ました。

 寝ぼけ眼のナオが、私の背中にくっついてくる。

 完全に目覚めるまで、しばらくはこの状態だ。


『ピャァー』


 ナオの頭の上にディーンがよじ登り、元気に鳴いた。

 地竜の子は朝に強いようだ。




 朝食は我々の世話係が用意してくれる。

 果実を潰して作ったというパンと、やはり果実の類をスライスしたサラダ。

 これをお茶とともにいただく。


「準男爵はコーヒーを召し上がられますか?」


「コーヒー? ああ、確か王都で流行っていた嗜好品だったね。いや、私は結構だ。強い覚醒効果と軽度の依存があるそうじゃないか」


「じゃあ先輩、二人ではんぶんこしてみません? わたし、ちょっと興味があります!」


 ナオが言うならばと、コーヒーを頼むことにした。

 出てきたのは、真っ黒な液体である。

 なるほど、大変よい香りがする。


「どれどれ」


 ナオが早速、ふうふうと吹き冷ましてから口をつけた。


「うえー、にがーい」


 顔をしかめる。


「では私もいただくとしよう……。ふむ。香りを楽しむもので、味は砂糖などで調整するのだろうね。ここにミルクと砂糖がついている」


「入れます!」


 ナオは、ミルクの方が多いんじゃないかというくらい入れて、砂糖もたっぷり。

 甘くしたコーヒーをニコニコしながら飲んだ。

 私は砂糖だけ、少し入れて飲む。


「ああ、なるほど。王都のお歴々が嵌るわけだ。知覚が広がったような感覚だぞ、これは。だがこれは一種の興奮効果に過ぎないだろう。どこかの血流を早めているのだろうな。それはどうやって? 化学的な作用が、働いているとすれば……そうか、血管を収縮させて血流を早める……」


「ひゃーっ! 先輩、わたし、なんでもできるきがしてきましたよー!」


 コーヒーの覚醒効果がてきめんに効いて、ナオが勢いよく立ち上がる。

 彼女がコーヒーにはまらないことを祈りたいな。

 依存性のある嗜好品は、それが手に入りづらい土地に住む人間には、はまらないに越したことはないのだ。


 しばらくしても、ナオがずっと元気なままなので、このまま今日の仕事に出かけることにした。

 コーヒーの効き目というものは、存外長いものなのだな。





「今日は、養殖に使う魚を選んでもらおうと思いまして」


 本日も我々の案内役を務めるオーラス将軍。


「お魚ですか! まかせてください! やるぞー!」


 オーラスは、妙にテンションの高いナオを見て察したようだった。


「もしや奥方、コーヒーに免疫がない?」


「初めて飲んだはずだ。私も初めてだったがね。そもそも、コーヒーはセントロー王国では生産できないんだ。だから、とても高価な嗜好品になる」


「なるほど、それで……。じゃあ、奥方はあまりコーヒーは飲まれない方がいいでしょうなあ」


「全くだ」


 とりあえず、元気過ぎるナオがあちこちにふらふらと向かっていきそうで危ないので、マルコシアスに乗せておくことにした。


「頼まれてくれるかね」


『その質問に答えよう。ナオが危なっかしくて見ていてハラハラするから、我の上に乗せておけ』


 魔狼も私と同じ気持ちだったようだ。

 ということで、彼に任せておくことにする。

 ナオはマルコシアスの翼で固定され、その上から動けなくなった。


「わーん、動けないですよー! 先輩のいじわるー!」


「今のナオは正気ではない。コーヒーの効き目が抜けるまではそのままだ」


 それでは仕事を始めよう。

 目の前に並べられたのは、今朝獲って来たという魚たちである。

 それぞれの性質を、手乗り図書館で調べていく。


 この手乗り図書館には、セントロー王国にある限りの知識を入れているのだが、魚の知識については少々心もとない。

 ほぼ、海が存在しないかの王国では、豊富な魚知識など得られるはずもないのだ。

 自然と、記録は伝聞や推測ばかりになる。


 だが、私の手乗り図書館は、本来記録されていないはずの知識にアクセスし、引き出すことがある。

 ナオに命を与える術式を私に与えた時はそうだった。

 そして今も……。


 手乗り図書館が光り輝く。


「あっ!」


 オーラスや、漁師たちが驚いて声を上げる。


「懐かしい光です!」


 ナオが笑顔になる。彼女にとっては、始まりの光でもある。


『大体どれも養殖できる』


 光り輝いた末に、大雑把な知識が出てきたな。

 だが、どれでもいい、という知見が得られたことは重要だ。

 あとは、養殖のしやすさが関係してくるだろう。


 用意されたのは三種類の魚だ


 シーバード、と呼ばれる真っ青な魚は、流線型の形をしている。

 シサイド王国の沖合を周遊しており、よく国民の食卓にも上がるらしい。

 生態まで明らかになっているメジャーな魚だ。


 バルーンフィッシュは、丸い魚だ。

 攻撃されると、さらに水を吸って丸くなる。

 美味な魚だが、身の内に毒を含んでおり、調理に手間がかかる。


 シースネークは、細長い魚である。

 高級魚であり、美味で脂の乗った肉は、シサイドの人々にとって最高のごちそうだ。

 ただ、その生態はよく知られていない。


「シースネークが養殖できたらちょっとしたものですな」


「バルーンフィッシュでもいいよな」


 シサイドの人々が、期待に満ちた表情をしている。

 だが、ここは選択肢は一つだけであろう。


「シーバードの養殖で行こう」


 私が告げると、皆は目を丸くし、次いでガッカリしたようだ。


「準男爵、どうしてシーバードなんです? 高級な魚を養殖できたほうが、みんな喜ぶでしょう」


「それはだね、オーラス。今回の養殖の目的に叶うのがシーバードだからだよ」


 私は彼の質問に答えた。


「生態が明らかになっている……。それはつまり、この魚の生殖、産卵、稚魚が育つまでがシサイドでは知られているということだろう? 彼らを育て、増やしていくことはそう難しくはあるまい。そして、この国ではごく一般的な魚だ。増えても困ることはない」


「なるほど……。そうか、我が国の人口増加に対処するためでしたな。だとすると、高級魚なんか育てても意味がない」


「ああ。それに、生態が明らかでない魚を養殖するには、海で泳いでいるものを獲ってきて、それの身を太らせることになる。だが、彼らは生まれた段階では無数の稚魚であり、それらは自然によって淘汰され、漁によって獲得できるものは生き残ったごく一部に過ぎない。水産資源の総量は変わらないわけだ」


「おお、確かに!」


「では、この淘汰される分を養殖によって増やせばどうなる? これは、水産資源の総量が増えるということだ。これによって、増えた国民の胃を満たすことができるようになる。漁師の君」


「あ、あっしですか!?」


「ああ。シーバードの生育期間はどれほどかね?」


「ええと、稚魚から成魚になるまで、大体半年かそこらですね。三ヶ月もあれば食える大きさになります」


「自然環境で、餌を探して動き回る必要があればそれだけの期間だ。人間が餌を与え、労せず食料を得られるならば、食べられるような大きさになるまで、もっと短い期間でもいけるかもしれないぞ」


「おおーっ!!」


 漁師たちからどよめきが上がる。


「じゃあ、餌はどうしましょうか」


「そこはこれから研究だね。一つ一つ試していくとしよう」


 さて、本格的に、シサイド王国の養殖事業が動き出すぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] おそらくはシーバード≒トビウオ、バルーンフィッシュ≒フグ、シースネーク≒ウナギ、と言ったところでしょうか。
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