(38) 現状の技術・知識を調べると
(38) 現状の技術・知識を調べると
「まずは今のこの世界の一般的な技術や知識の発達段階の把握、だよな」
何をするにしても、まずは現状把握が重要である。
昔の偉い人は言いました、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」だと。あれは戦の心構えではあるけれど、戦以外の事柄でも応用可能な名言である。
そう方針を決めたヴァルトが、自身の記憶や教導院に貯蔵されている書物、導師や兄たちと話をしたりし、数日間かけて情報を集めた結果知りえることができたのは、前世からすると呆れかえる技術や知識の現状であった。
「……まぁ、魔法があるからなんだろうけど。
それにしても、さすがにあまりにもいびつな発達の仕方をしてるよなぁ」
自室のベッドで横になりながら、手元の手帳にメモを書きこんでいるヴァルトは、思わずそう呟いてしまう。
そう、技術や知識の発達の仕方が、あまりにも歪なのだ。
――たとえば、薬学や高層物の高速建築技術、田畑や道路の整備技術や鉱物の加工技術などであれば、魔法によるサポートも有るせいか凄まじいものがある。
例をあげれば、薬学などは毒劇物の分類や症状の分析、研究などはしっかりなされているし、さらに外傷や病の治癒に使う霊薬という薬などは、高価なものでは患部に振りかけるだけで失った手足を再生させたりあらゆる病を解消するものまで存在していた。
これは王族貴族の身を守るためにも、毒劇物の研究には重犯罪者を使って人体実験を行うことが許容されているからであった。しかも、即死でさえなければ被験者が死にそうになったりのたうち回っているうちに治癒の光魔法をかけて治療を行い、その治療が終われば再度同じ相手に同じ素材の別の配合量のものを与えて効果の違いをみて研究するといった実験が行われているからである。また、治療薬については、こちらの世界での化学といっていい魔力と素材を合成して行う錬金術による研究の結果、さまざまな効果の薬が生まれていた。
また、建物の建築技術や田畑や道路の整備技術、鉱物の加工技術などは土魔法を活用することにより、巨大な土人形を重機や建築機械のように用いることで、人力だけでは数ヵ月や年単位でかかるような建築でも数日から2~3週間で済ませることが可能であったし、土魔法により田畑の開墾作業や道路を平らに均したりといったことが当たり前のように行われていた。
他にも、鉱物の加工技術については鉱石から特定の物質だけを土魔法で抽出したり、複数の鉱物を均等に土魔法で合成したりといった技術が編み出されていた。
そういったようにモノづくりの技術は発達しているのだが、一方で数学や物理学といった科学理論の方に目を向けると、こちらは逆にあまり発展していない様子である。
そもそも数学自体が一般的には足し算引き算だけしか利用されておらず、掛け算割り算レベルをまともに扱えるのは高等知識を学んだ学者や賢者、積分や微分、代数学に至っては存在自体どうやら認識されていないようであるという始末であった。
物理学に至っては、調べた結果、ヴァルトが思わず遠い目をしてしまうほどである。
なにせ魔法が存在し、物理学が時折捻じ曲げられているっぽい世界だ。発生する現象で不可思議を感じることがあっても、魔法のせい、魔術のせい、魔物のせい、精霊のいたずらやなんらかの魔力が影響してるのだろう……などといった言葉で終始されてしまっており、物理現象に法則性や検証を行おうとすること事態が端から放棄されている様子すら見受けられた。そして実際に、そういったものの影響によって検証しようとしても常に同じ結果となりえないことがあるため、そりゃ研究者が研究する気無くすわ、とすら思えてきてしまう状況である。
そのため、この世界では経験則的な事柄で、なおかつ見た目にもわかりやすく把握しやすい事柄だけが受け入れられ研究されてきた歴史的背景があるらしく、歪な技術・知識の発達が起きているようであった。
云わば、いちいち結果が何故起きるのか、ということをきちんと検証しようとするよりも、手法や経験として「こうなればああなるっぽい」という先人の経験の積み重ね、ほとんどおばあちゃんの生活の知恵的なものだけが、技術、学問として行われてきており、考えるより感じろ、脳筋バンザイ職人芸ブラボー!といった形で発達してきているのである。




