回復魔法
「みんなの怪我は、俺の治癒魔法で治したから、安心してくれ」
「おや」
眼鏡を掛けた痩躯の50代くらいだろうか目付きの鋭い男が話しかけた。
「もし良かったら、治癒魔術の話を聞かせて頂けませんか?」
「なんだ、あんた?」
聞き返した主人公の服の袖を引っ張った第三ヒロイン夜風が小さく言った。
「お前馬鹿か? あの人はIPS細胞の研究で有名な山中教授だろ」
「えっ、あの人が? 本物?」
「ええ、山中です」
「うわっ」
いつの間にか側へ歩みを進めていた教授、マッドサイエンティストの様な鋭利な眼光で主人公を見据えて言う。
「それで治癒魔術の過程を、詳しく、教えて頂けませんか?」
主人公は困っていた。主人公だけでなく、作者も困っていた。読者のみんなにどれだけ馬鹿にされても構わない。だけど「それが、君の考えた治癒ですか・・・・・・」と教授を落胆させたくない。というか、ぬるい「はんたじい」小説の世界に、なんで世界屈指のノーベル賞受賞の実在人物、リアリズムを扱う専門家が登場してしまったんだ。気の迷い、若気の至り、ほどがあるだろ。
「どうかしましたか」
「ひぃっ」
眼光が、治癒魔法の虚飾を引き裂いていく。観察され、検証され、評価される。駄目だ、世界が、モタナイ。
「あの」
「どろんでござるよ」
主人公は夜風と世界の縫い目を走って逃げた。
――リアリスト――あれが本物の、科学ッ!!! 魔法!!! 劣等生!!!
「もう駄目だ・・・・・・」
「え?」
「あんな『ホンモノ』を見てしまっては、もう誰にも『回復魔法』なんてッ、使う事は出来ないんだよ!!!」
「そんな」
「終わりだ、敵対勢力との小競り合いも、俺すげえも、冒険は、今日で終わりだ」
「冒険せずに、明日から一体、どうする」
「・・・・・・分からない、夜風さえ良ければ、これからの事、一緒に考えてくれないか」
「」
山中教授と体操の内村航平と羽生義治だけは小説に登場させてはならない。




