日常に現れた転校生(3)
キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン
授業終了を知らせるチャイムが鳴り、一・二時間目が終了。
「どうもありがとうございました」
号令が終わり少しして、先生が文字を消し終える寸前にノートを取り終えた天ノ目は、思い出したようにそう言って、俺に教科書を渡してくる。
「ああ。……面倒だから席このままでいいか?」
それを受け取りつつ尋ねと、一瞬何のことだか分からない様子だった天ノ目だが、今くっつけている席のことだと気づき、
「はい、お願いします。すみません、ご迷惑をおかけして」
承諾した後、申し訳なさげにそう言って、曖昧に笑みを作った。
彼女からは言い出しづらいだろうと思い、俺の方から提案してみたのだが、その気遣いは正しかったと見ていいだろう。
「気にするな。……やっぱりお前、几帳面なんだな」
「はい?」
脈絡のない俺の言葉に、困ったように首を傾げる天ノ目。
二時限目と三時限目の間の休み時間はわずか五分。天ノ目の下に集まってもろくに話せる時間もないだろうと思い、俺は席を立たずに次の授業が始まるのを待つことにした。別に話をする必要もないのだが、あまりにも不愛想でよく知りもしない相手に借りを作るのは、天ノ目にとってストレスに感じるかもしれない。
そう思い、適当に話題を振ってみたのだが、なかなかコミュニケーションとは難しいものだ。
「その色ペンとか、ちゃんと一本一本に何色なのか書いたシールを貼っていたり、物ができるだけ重ならないように整理していたり。かなり几帳面なのかと思ったんだが……違ったか?」
天ノ目の机の上に並べられている筆記用具を指さして言う。
「いえ、まあ、そうですね。こうしておいた方が効率的ですから」
天ノ目は少し困ったような様子でそう言って、曖昧に笑った。
「確かにな。……でもお前、意外とこだわりも強いんだな」
「? なんのことですか?」
次なる話題をすかさず提供する。なかなか俺もつかんできたぞ。
「だって、せっかく効率的にするためにわざわざカラーペンにシールまで貼っているのに、前で先生が使っていた色とお前がノートに同じところを書き写していた色が違っていたから、お前の中で何か決まりでもあるのかと思って」
たしか集中力を上げる色は青色だったか。そういう話を聞いたことがあったので、てっきりそういう理由なのかと思ったが。
「ああ、いえ、同じ色のペンが手持ちになかったので違うものを使用しただけです。私自身にそういったこだわりは特にありません」
「そうだったのか。適当なことを言って悪かった」
「いえ。……それにしても凄い観察眼ですね。そんなに細かなところまで見られているとは思いませんでした」
天ノ目は感心したようにそう言って、貼り付けた様な笑顔を浮かべる。これは……
「いや、たまたま目に入ったから気になっただけだ。あまりジロジロ見ていたつもりはないが……不快に感じさせてしまったなら悪かった」
先生にできるだけ見ていてやってほしいなんて言われたので、少し意識して観察していたが、ストーカー扱いされるのはごめんだ。
「あっ、い、いえ、そういう意味で言ったわけではありません。純粋に驚いたというか感心したというか。ですので、その」
困ったように、慌てたように言う天ノ目。どうやら別に責められているわけではないようだ。
「そうか。嫌われたわけじゃなくて何よりだ」
適当言いつつ時計をみると、あと少しで三時限目が始まる。
俺はそれだけ言って机の中から英語の教科書を取り出し、先ほどと同様、天ノ目が見やすい位置に置いた。
「あ、ありがとうございます」
「……いや、どうせ今週中はずっとこうなんだ。一々礼なんて言わなくていいから」
毎時間毎時間礼を言われていては気恥ずかしいし、いい加減面倒だ。
「は、はい。……すみません」
なぜ謝られたのか分からないが、これ以上の馴れ合いは不要だろう。
キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン
俺がそう判断し姿勢を正して前を向いたちょうどその時、三時限目開始を知らせるチャイムが鳴った。それを合図に、俺は意識を授業に向ける。
既に、隣で教科書に目を這わせる天ノ目のことは意識の外だった。
「……鋭い人は、苦手です」
だから小さく漏れ出た鈴のような声が、俺の耳に届くこともなかった。




