日常に現れた転校生(2)
キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン
一限目を知らせるチャイムを最後まで聞き終えた俺は教室に入る。慌ただしく椅子を引く音が聞こえていたが、その頃にはもうほとんどの生徒が自席に戻っていた。
早く席に着けという数学教師のやる気のない注意を聞き流しつつ着席し、『数学Ⅱ』と書かれた教科書を机から引っ張り出す。
ふと気になって隣を見ると、天ノ目の机の上にも数Ⅱの教科書はあった。しかしそれは俺たちの使っているものとは若干異なる装丁のものだ。
「ああ、転入生――天ノ目の教科書はまだ揃っていないんだったな。来週には揃うと思うが、今週は悪いが隣の席の奴にでも見せてもらってくれ」
そんな数学教師の無責任な言葉にも「はい、分かりました」と丁寧に返した天ノ目は、申し訳なさそうに、遠慮がちにこちらに身体を向けてくる。
クラスメイト達は皆一様にこちらに視線を向けようとしたが、その前に教師が「はいはい、とりあえず授業を始めるぞ」とさっそく黒板に授業内容を板書し始めたため、書き写すのに必死でそれどころではなくなったようだ。
一方、もちろん現在進行形で天ノ目から視線を向けられている俺はとても困っていた。先ほどの挨拶であんなことを言った俺に遠慮しているのか、天ノ目は自分から席を近づけようとはしてこない。……これは俺の方からいくべきだろうか。
「そっちにくっつけてもいいか?」
もたもたしていては授業がどんどんと進んでしまうので、俺はそう言って、返事を待たず机を動かす。
「は、はい。ありがとうございます」
俺の言葉が意外だったのか、いいか?と聞いたくせに許可を得る前に実行していることに驚いたのかは分からないが、天ノ目は一瞬目を丸くして、すぐに慌てて机の上を片づけ礼を言う。
「……気にするな」
極力少ない言葉で、しかしできるだけ不愛想になりすぎないよう気を配ったつもりだ。
机をくっつけ天ノ目が見やすいように教科書を差し出す。俺が見づらくなることを気にした様子だったが、必要ないと伝えるため無視した。
視線を教卓に向け、遅れを巻き返すため急いでノートをとる。いつもより少し雑になってしまうが許容範囲だ。
そんな俺の様子を見て、天ノ目も自分の作業を開始する。授業内容が新しい範囲に突入したこともあり、授業に集中していたため、お互い必要以上に相手を気にすることはなかった。




