防壁 4
鉄砲隊の人に運ばれて街に着いてから、僕は2日ほど寝ていたらしい。
病室で目を覚ますと、横には葵とレイスがいた。
「雄貴...!!」
葵は、泣きながら僕の布団に伏せる。
レイスは、その様子を見て安堵したように表情を緩ませていた。
「二日ずっと、病室にいたんですよ。」
レイスが優しい声で言う。
それから、持っていた花を窓の方に持って行った。
花は、白と黄色のガーベラを二輪ずつ。
色味鮮やかで、優しい気持ちになる。
「退院は三日後で、すぐ動いても問題ないと言ってました。」
旅を中断しなくて済むと知って、少しほっとした。
二日も寝ていたのに、それは幸いである。
「道は、どうなった?」
「もう前線まで全通してます。長旅になるけど行けますよ」
僕が退院したら、直ぐに向かわなければ。
この先どうなるかは知らないが、僕らにはやらなければならない事がある。
シミラとの戦いに臨むこと。
その戦いの後、元の世界に戻れるかは分からないが...。
それでも、やらない選択肢はない。
あと一歩のところまで、僕らはなんとかたどり着く事が出来たのである。
最後まで旅をすると心の中で決め、これからも共に旅する仲間を見たとき、ある事に気付いた。
「あれ、マイナは?」
僕が聞くと、二人の表情が明らかに曇った。
聞かなくても、それで彼女がどんな状態かは想像出来てしまう。
最後にマイナを見たのは魔物討伐の時で、確か気を失ってしまっていた。
恐らくはそれから、目覚めてないのだろう。
「街に戻って来て以来、眠ったままだよ」
葵が、至って静かに言った。
眠ったままということは、最悪の事態は避けられたように思うが、同時にある不安もある。
彼女がずっと目を覚さないという事。
考えれば考えるほど、寒気がしてくる。
一番前線で戦って来た彼女には、故郷で待つ恋人がいる。
それなのに、二度と意識が戻らないというのはあまりにも不条理だ。
危険を承知で旅を続けて来たとはいえ、そんな事があって良いはずがない。
勝手に悪い方向に考えた所で、ふと思った。
仲間の僕らがマイナの無事を信じられないのは、とても彼女に失礼である。
この事はシミラとの戦いが終わるまで、きっと目を覚ますと信じて考えない事にするべきだろう。
つまり、彼女の目的を僕らが代わりに果たすのである。
今の僕らには、それしか出来ない。
「マイナは、どこにいるの?」
「教会の近くの病院だよ」
僕が回復したら、旅を再開する前に顔を出そう。
実は彼女から、僕は手紙を預かっている。
葵とマイナが仲違いした時に貰った。
内容は知らない。
彼女はその時、ただ葵が自信をなくしたらその時に渡して欲しいとだけ言った。
恐らくは、葵の為に書いた励ますような内容の手紙だろう。
マイナはそうして僕らを気遣ってくれたり、戦いの先頭に立って、自ら危険を顧みずに進んでくれた。
僕らは、彼女に導かれたと言っても過言ではない。
だから、今度は僕らが彼女のために恩を返すべきであろう。
そもそも、彼女が旅をして来た理由を知っているなら、止まる事は出来ない。
無事に帰って、マイナと話せる事を願って歩を進めねばならない。
心からそう思った。
それから、僕らは少しの間雑談をした。
「とりあえず、雄貴の意識が戻って良かった」
レイスが言う。
それから、ゆっくり休んで、と言って、葵と共に出て行った。
静かな病室にひとり。
昼間にしては優しい、暖かい陽が差していた。




