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防壁 2

僕らが木陰に身を隠して、10分は経っただろうか。

その魔物は、暴れ回っていた巨体を鎮めて、辺りを冷静に見渡している。

僕らを探しているのであろう。

さっきまで僕らが斬っていた小型の魔物は、その魔物が暴れている内に全滅した。

鋭い牙に刺されたり、その体躯に突き飛ばされたり踏まれたり、見るも無残な散り方だった。

きっと僕らも、戦い方を選ばなければ同じ末路を辿るだろう。

少なくとも、真正面からは戦えない。

誰かが犠牲になるかもしれないと、この場にいる討伐隊の誰もそう思っていた。

動きがゆっくりならまだしも、5メートル以上の大きさでありながら、その動きは闘牛のように激しく、かつ素早い。

本当なら作戦を立て直したい所だが、魔物は僕らを探しているようで、迂闊に動けなかった。


その魔物は、辺りをひと通り見回すと、踵を返して自らの住処に戻る姿勢を見せた。

だが、姿が見えなくなるまで油断は出来ない。

そう思って気を引き締めていた矢先の事だった。


「ガサッ」


討伐隊の誰かが動いた音だった。

その音が聞こえてしまったのか、魔物は再び僕らの方へ向き直り、明らかに音がした方向を睨んだ。

そして一瞬の沈黙の後、魔物は高らかに吠え出した。

その音はゴオオオオともヴァアアアとも取れる、地響きする程の凄まじい物であった。

危機を感じたリーダーが、街の方角に向けて二人討伐隊のメンバーを向かわせている。


「新式の武器を頼むっ!!」


僕らは、これほどの大物と戦う事までは想定出来ていなかった。

だから、新型の武器を持って来なかった。

その新式の武器とは、火縄銃である。

火縄銃を実戦で使う技術を磨いた人物が多数おり、シミラとの戦争の最前線では火縄銃は実戦投入されている。

その火縄の名手は、ほとんどが最前線に向かっているが、ビルドニージに20名ほど街の守備の為に残っている。

彼らを呼び寄せるのだろう。

問題は、それまで持ち堪えられるかだ。


大声で吠えた魔物は、討伐隊のひとりが身を隠す木に突っ込んで行く。


「う、うわあああああ!!」


その恐怖からか、その隊員は木陰から飛び出してしまった。

間一髪で避けたが、魔物が激突した木が衝撃で折れ、彼はそれに足を挟まれてしまった。


「.....!!」


声も出せず恐怖で震え上がる彼を、その魔物は踏みに向かう。

その時、隣が物凄い速度で動いた。

マイナだった。

葵との連携で、その剣は陽の光のように光っている。

マイナはそのままの速度で魔物の足に斬りかかった。

魔物は、少しだけ動きを止めた。

その隙に木の下敷きになっていた討伐隊員を救い出す。


だが、魔物はマイナの攻撃を食らっても、動きが鈍くならなかった。

続けて近くにいた討伐隊に突進しようとしている。

僕は、覚悟した。

これは苦しい戦いになる。

一歩間違えば死ぬかもしれない。

逃げることも一瞬頭をよぎった。

だが、逃げた所で突進を諸に食らって助からないだろう。

戦うしかない。

そう思って、剣の柄を握った。

そして、なるべく気づかれぬよう無言で魔物に斬りかかった。

剣は当たり、小型の魔物ならこれで致命傷を与えられるほどのしっかりと、魔物の横腹を斬りつける。

しかし、ほとんど切れなかった。

魔物の皮には、引っ掻き傷程度の傷しか残らなかった。


「ぐっ...」


直ぐに引き下がって木陰に隠れて、息を整える。

前に比べれば、落ち着いて戦えるようになったものだ。

隠れて直ぐに呼吸は落ち着いた。

しかし、勝ちの見えない戦いが目の前にある。

マイナが必死に魔物を切りつけているのが、木の陰から見えた。

マイナだけではなく、討伐隊のリーダーをはじめほとんどが魔物を必死に斬っている。

しかし魔物には、そこまで致命傷を与えられていなかった。

僕も必死に走って魔物を斬りつけに向かう。

斬っても斬っても中に食い込まないその皮を少しでも斬ってやろうと、死に物狂いで斬り続けた。


気が付けば、日は傾き始めていた。

持久戦と化した魔物との戦いは、ひとりの討伐隊員をきっかけに、一気に優位が傾いた。

息を切らしながら斬っていた隊員が、やがて限界を迎えて地に手をついた。


「避けろ!!」


僕を含めた周りの討伐隊は、必死に助けに向かう。

しかし、必死に走って剣を振りかざした時だった。


ドン、という鈍い音を立てて、その隊員は宙を舞った。

そのまま地面に叩きつけられて、彼は動かなくなった。


同時に、討伐隊全体の士気が落ちたのが分かった。

リーダーとマイナは、引き続き必死に間合いをとりながら戦っている。

しかし他のメンバーは、たった今見た光景に絶望したようだった。

僕も、正直に言えば戦いたくはない。

この光景を見て、戦意を削がれない訳はない。

魔物はそれを察したのか、怖気付いて動けなくなった僕ら一部の討伐隊員に向かって物凄い勢いで突進してくる。


「雄貴!!」


遠くでマイナが叫ぶ声が聞こえた。


マイナ...。

そうだ、マイナは仲間だ。

仲間が必死で戦っているのに、僕は何をしているのだろう。


怖気付いてる場合か今は。


僕は魂を鼓舞した。

もう一度動き出し、戦うと心に決めた。


魔物の動きを何とか見極めて、僕は身を横に投げた。

魔物は、そのまま僕がいた位置の後ろにある木に激突した。

そして直ぐに向き直り、今度は狙いを想現法の使い手達に向け、物凄い勢いで突進した。


「葵!!!」


避けろ、と言いたかった。

しかし、僕の位置と足では間に合いそうもなかった。

魔物は速度を緩めることなく、葵達に突っ込んで行く。

なす術なく、葵達は立ち尽くしている。

ここまで旅をしてきた仲間を失うかも知れない。

僕は本気でそう思った。


「ズバァン!!」


しかし、そこに間に合ったひとりの剣士がいた。

よく見ると、青と黄の鞘を身につけている。


巨大な魔物に一人立ち向かったのはマイナだった。

マイナの一撃で、魔物は弱点の腹を突かれて向かう方向を変えた。

しかし、マイナは魔物の突進の勢いを諸に受けて、木に背中を強打して意識を失っていた。


マイナの一撃で勢いを少しだけ緩めたものの、まだ魔物の動きは早かった。

魔物は再び、僕らの方に向かって突進してくる。

僕は死ぬ覚悟で魔物に斬りかかり、気付けば傷だらけになっていた。

僕をはじめ討伐隊のメンバーは、もう戦う気力がほぼ残っていない。

マイナの決死の一撃にも関わらず魔物はまだ動きが早く、言いようのない怒りと虚しさが心を襲った。

ここまで無力なら、初めから戦うべきじゃなかった。

この状況の中で思ってはいけないことを思ってしまった。

弱音は命取りだ。

必死で心の中のその言葉を掻き消して立ち上がる。

こうなったら、せめて葵とレイスは無事に街に返さなければ。

残りが8人になった討伐隊の戦士で、必死に食い止める決心をした。


その時であった。


物凄い空気の震えと共に、辺りが火薬の匂いで満ちた。

魔物は、苦しむ様に吠えている。


この場にいる誰もが、その瞬間希望を持った。


鉄砲隊が到着したのである。

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