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防壁

 集まった部隊30名と共に、僕らはビルドニージ北側の街道の入り口から魔物が屯している場所を目指した。

街道は平坦な道を10キロほど歩くと林道に入り、やがて登山道に変わる。

この街道は、そのまま前線基地まで続く。

それまでに峠が二ヶ所あり、魔物が占拠する峠は幸い初めの比較的緩やかな方であった。

二つ目の難所の峠を越えると道が分かれ、片方はリュンヌという街に続く。

僕らは魔物を討伐した後、そのリュンヌで一泊して前線に向かうつもりだ。


一行は8キロを歩いた辺りの、緩やかな坂の終点で一時休息を取った。


「これから峠越えだな」


僕の声に、一同は頷く。


「峠で魔物と戦うのは、体力勝負かもね」


マイナが、持ってきたパンをちぎりながら言う。

それから脇腹の小物入れからバターを出して、パンに塗る。

バターはカロリーが高く塩分もあるから、体力勝負には持って来いだ。

彼女が言うように、今回の魔物との戦いは誰もが体力勝負と考えている。

もちろん、マイナと会った時のような不測の事態が起こらないとも限らない。

それも想定してはいる。

しかし、情報によれば、魔物は小型から中型らしい。

それらがまちまちに、峠道を占拠しているという。

何が出てもいいように、僕とマイナは大型に対抗するための太刀も携帯して来た。

けれど聞いた話の限り、必要ないようにも思える。


「雄貴、これ」


レイスが、持っていた水筒を僕に差し出した。

僕はありがとう、と一言添えて、それから水筒の水を飲んでレイスに返した。

レイスは葵やマイナにも同じように水筒を渡した。

今日はそこまで暑いわけではないが、だからこそ気付かぬ内に水分不足になる可能性もあるし、この先どこで魔物と戦う事になるか分からない。

レイスはそれを見越して水分補給を促してくれた。

また、万一の為に水筒を多めにバックパックに詰めて来てもくれた。

こういう気回しがレイスは得意なようで、本当に助かった。

実際、葵も僕も持参した水筒二つのうちひとつは空で、もう一つも既に半分より少し多い程度だ。

レイスは本当に頼りになる。


休憩後、峠道に入った僕らは、40分ほど歩いて初めて魔物に遭遇した。

小型の猪のようなその魔物は、今まで戦って来た僕らにとっては倒すことが容易だった。

峠の頂上までは、そこから2時間ほどの道のりである。

魔物とは、それからも度々遭遇した。

弱いとはいえ、気を抜けば怪我は必須なので油断は出来なかったが、山頂近くまで、体力的には余裕があった。

と、そこまで順調だった僕らは、山頂の標札がある広場に差し掛かる手前で、今まで見たことのない数の魔物の群れがいる事に気付き足を止めた。

身を隠しながらその数を数えると、ざっと50匹近くいる。

僕ら討伐隊は30人。

魔物の強さはさほどでもないから、今見えている魔物を倒す分には困らないであろう。

問題は、他に魔物がいる可能性があるということだ。

マイナと初めて出会った時がそのいい例である。

この光景は、その時と似ている。

あの時、最後の最後に強力な魔物が姿を現し、僕は窮地に陥った。

初めは小物が多かったのにである。

だから、少し不安になった。

ただ、身を引くわけにはいかない。

その場合も想定したから、太刀を持参した。

僕らが前に進むには、戦うしかない。

武器を太刀に持ち替えて、意を決した。


「皆、行けーっ!!」


討伐隊のリーダーが叫びながら、剣を掲げて魔物の群れに飛びかかる。

それに呼応するように、討伐隊の剣士は皆魔物の群れに斬りかかった。


僕も剣を振りかぶり、魔物に斬りかかる。

剣が魔物にがっ、と引っかかる感覚がして、それから暴れる魔物を剣を引いて締める。

魔物とはいえ生き物だ。

斬る感覚は生々しく、気持ちの良いものではない。

それでも、そんな事を考える余裕がないくらい必死に斬り続ける。

集中して必死に魔物を切っていたが、やがて、さっきまで群れていた魔物の数が半分以下になっている事に気付いた。

あと少しだ。

そう思って心を振るわせる。

そうして、僕が4匹目に斬りかかった時、討伐隊のリーダーが


「一旦引け! 下がれ!!」


と叫んだ。

その声はどこか恐怖に満ちていた。

理解の進まぬまま急ぎ引き下がり、木陰に身を隠す。

僕ら討伐隊は、初めに身を隠していた場所に退避した。


「雄貴、あれを、、、」


マイナが隣で囁く。

彼女らしからず、声は弱気だった。

その指差す方向を恐る恐る見ると、1匹の獣が姿を現していた。

全長は5メートルはある。

虎のような姿に長く鋭い牙を持っている。

同族であるはずの小型の魔物をあっさり蹴散らしながら、僕らの姿を探しているようであった。


素直な恐怖が僕の心を襲う。

死と隣り合わせで戦っている事を、否が応でも実感せざるを得ない。


僕ら討伐隊は、この巨大な魔物を前に、立ち向かう機会を伺うしかなかった。

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