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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部第五章 帝都騒乱

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答え合わせ

「今回の事、全て仕組んでいたんですか?」


「何の事だい?」


 宮殿に戻った昭弥はラザフォードを詰問した。


「考えてみると都合が良すぎませんか? ラザフォード大臣が帰領している間にサインされてユリアは処刑される寸前だった。しかし、ユリアが妊娠していて処刑されないことを知っていた。でないとあんな事は出来ませんよ。サインが偽物だと言ったのも都合が良すぎます。ガイウスがそんな小手先の手段で動くとは思えません。本当は自らサインしたのでは?」


「まさか」


 ラザフォードは昭弥の問いをはぐらかした。


「本当に帰領している間に偽造されてしまったんだよ。それより鉄道が混乱しているから早く職務に復帰するんだ。復帰許可は出ているよ」


「むっ」


 昭弥は答えが無かったことに不満だったが鉄道が混乱しているのは事実だったのでその場をあとにした。


「流石に鉄道バカじゃないか」


 昭弥が出て行ったのを確認してラザフォードは呟いた。

 確かにサインに針穴を入れるか入れないかで使い分けている。基本的に公文書には入れているが幾つか政治的な理由などで入れていない公文書もある。

 それらの書類に石田屋の忍者達を使って針穴を追加させた。

 短時間で警戒厳重な元老院に入り目的の文書を見つけて穴を開けるという任務を成功させる彼らはなかなか優秀だ。

 これからも贔屓してやろう、程度にラザフォードは考えていた。


「じゃあ私には教えてくれますか?」


 すれ違いで部屋に入って来たエリザベスがラザフォードに尋ねる。


「いいよ。家に帰ってきてくれるのなら」


「却下」


 エリザベスは出された条件を即座に無表情で拒否する。


「だから自分の予想を話して正か否か答えて貰う」


「どっちにしろ話すことに変わりないのでは」


「え?」


 ラザフォードの呟きにエリザベスは睨み返す。


「段々母さんに似てきたな」


「あんた相手だとこうなるわね」


 二人とも諦めの表情になるがエリザベスは直ぐに尋ね始める。


「全て仕組んだとは思わない。サインに関してはいつか利用できると思って用意していたんでしょう。今回のような事を想定していた可能性は低いけど用意していた道具を利用した程度でしょ」


「だとしたら何か非難されるような事があるかな」


 自分に非がないような言い方でラザフォードは尋ねた。

 結果的に助かったんだからそれで良いんじゃないのか? と言外に訴えていた。

 無邪気に尋ねるラザフォードに苛立ちを感じたエリザベスは語気を強めつつ言う。


「否決することは出来なかったの? あなたがサインしなければ成立しなかった」


「無理だっただろうね」


 ラザフォードはエリザベスの言葉を認めるように、ガイウスを罠にかけたことを認めるように理由を答え始めた。


「あの時は陛下への市民の心証が悪かったからね。市民の意思に従ってあそこでサインをしなければ確実にクーデターでも起こして実行された」


「じゃあ、どうして最初から使わなかったの?」


「どういう事かな?」


「惚けないで。サインが偽物だと訴えるならユリアが呼び出されたところで登場すれば良い。帰領というのも大方嘘でしょう。ガイウスを騙すために影武者を帰しただけで貴方自身は帝都に潜んでいたんでしょ。何時でも元老院に登場できるように。なら、ユリアが捕まったときに出てきたら良かったでしょう。幾らユリアが妊婦で処刑されないと言っても母体に何が起こるか分からないのよ」


 エリザベスは再び睨み付けた。


「確かに出来ただろうね」


「じゃあどうしてやらなかったの。収監される前なら救えたし、脱走もせずに済んだ」


「だからだよ」


「どういう事?」


「陛下が捕まらないと昭弥が助けに行かないだろう」


 意表を突かれたエリザベスが黙る中ラザフォードが尋ねる。


「救出前の状態で二人の仲が進むと思うか?」


「……ああ、そうね」


 尋ねられてエリザベスは合点がいった。

 確かに婚約したとは言え、ユリアと昭弥の歩みは亀のように遅い。プロポーズしてから二年以上も放って置いたのだしユリアもユリアで気が付いていなかった。一応、二人の間に子はいるが、あの鉄道キチガイは何らかの切っ掛けで鉄道へまた突っ走る可能性が高い。

 何としても距離を縮めようとエリザベスは悩んでいた程だ。


「二人の仲が進展するようにあえてあのタイミングでやったんだ。処刑も延期せざるを得なかったろうし」


「まあ認めざるを得ないわね」


 二人の仲を側で見ているエリザベスは認めるしか無かった。奥手すぎる二人は離れることは無いが近づくのが遅すぎる。


「けど、悪趣味ね」


「でも、この方が面白いだろう」


「結局それか」


 ラザフォードが昭弥とユリアを弄るのを趣味にしているのはエリザベスは知っている。だが今回はたちが悪い。役に立ったとしてもだ。


「もう良いかな」


「最後に一つ、どうして二人に肩入れするの? ユリア達を切ってガイウスに乗り移ることも出来たのに」


「何故聞く?」


「理由が分からないと何時裏切るか分からないから。貴方の場合、状況が変われば裏切るような行動をしかねないし」


「娘のため」


「嘘吐くな」


 絶縁突きつけているエリザベスだが長年この親の娘をしていただけに父親の行動や思考はある程度知っている。娘のためというのは本当だろう。だがユリアを助ける理由にはならない。ユリアは娘エリザベスの幼馴染みだが、ラザフォードはいざという時に娘を助ける名目で容赦なく斬り捨てる人間だ。


「やれやれ、そこは感激して欲しいな」


 ラザフォードは認めると話し始めた。


「帝国は現在鉄道中心に動いている。鉄道のお陰で発展し、国家存続の根幹となっている。で、巨大化している訳だが、それを最も効率よく動かしているのは昭弥であり、もはや彼は要だ。昭弥が鉄道から抜けるとあっという間に鉄道省も国鉄も瓦解するだろう。多少、生き残るかもしれないが誰がやっても崩壊するだろう。つまり誰に変わっても鉄道を維持することは出来ない。ガイウスが鉄道大臣のポストを手に入れても彼らに活用出来る人材はいない」


 鉄道行政を動かす事がどれほど困難か身を以て知っているラザフォードの言葉には感情が込められていた。


「その昭弥の後ろ盾であるユリア陛下がいなくなるのは困る。これが理由だ」


「利害の一致ということ」


「そうだ。不満か?」


「いいえ、恨み辛みとか感情とかで訳の分からない行動を取られるよりマシよ」


「そういうことだ。それにしわくちゃのガイウスより二人の方を弄る方が面白い」


「結局それか!」


 エリザベスは叫んだ。


「そんな事のためにこれだけの事を仕掛けたのか! やる必要があったのか!」


「まあ、無かっただろうね」


 渋々ながらラザフォードは認めた。


「なんだかんだと上手くやってしまいそうなんだよね。あの二人なら。リグニアを離れても」


 意外な言葉にエリザベスは固まった。だが考えて見れば正しい言葉だ。

 帝国から追われても未開の地に逃げてユリアが切り開いて昭弥が開発する感じになるだろう。今回はエリザベスとラザフォードが留まれるように策を練ったが二人が帝国を捨て去っていてもおかしくはなかった。


「……二人をリグニアに引き留めるために計画したの」


「まあね。二人のお陰でリグニアは発展できたし、それ相応のお礼はするべきだよ。仇では無くキチンとした形で。だから邪魔するガイウス達にはご退場を願った訳」


「……つまりリグニアの方が二人の足枷になっているの?」


「国が大きいと富も大きいし力も大きいけど責任も大きいからね。それを見てしまってね。年長者としては支えなきゃいけないな、と考えてね。邪魔者の排除程度はしないと、と考えて動いた訳」


「そうだけど」


 鉄道の利権を得ようと蠢く元老院議員が多かったのは確かであり、昭弥の邪魔であったのは確かだ。計画に遅れは無かったが種々の妨害により多大な労力を浪費していたのもたしかだ。我田引鉄の言葉の通り、自分の領地に鉄道を引いてくれ、うちの町に特急を止めてくれと言う貴族が多くその調整に昭弥が疲れていたのは確かだ。

 そんな無能共を一掃することにエリザベスは反対しない。ラザフォードのやり方がえげつないが。


「それに恩知らずにはなりたくない」


「確かに」


 昭弥は望んでこの世界に来た訳では無く、自分たちが無理矢理連れてきたと言っても過言ではない。しかし、彼のお陰でルテティア、そしてリグニアは今までにない繁栄をもたらした。

 なのに昭弥から鉄道を私利私欲のために取り上げて追放しようとする貴族達などの旧勢力にはエリザベスも嫌悪と恥を覚える。


「戻れる見込みが無く、いまこの国に骨を埋めようという彼を見捨てる訳にはいかない。少しでも過ごしやすいようにゴミを捨てて、掃除しておくのが私の役目だと思うのだけど」


「まあ正論だけど」


 部屋掃除のように言うラザフォードだが、彼の言う掃除とは一〇〇名以上のガイウス派議員を嵌めて帝国の敵に仕立て上げ、討伐し滅ぼすことを意味するのだが。しかも現在進行形で実行されつつある。


「さて事後処理を始めますか。私が行った事だしね」


 そして何の気負いも無く事後処理、ガイウス派反乱への対応を始めた。

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