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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部第五章 帝都騒乱

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告発

「……は?」


 ガイウスの間抜けな声が元老院の議場に響いた。

 ラザフォードが自ら署名した内閣の決定書を、自分は賛同していない、サインしていないと否定した。


「……何を言っているのですか」


「私は決定書にサインをしたことはありません」


「嘘を言わないで貰いたい! 私は数日前、確かにラザフォード大臣、貴方の屋敷に行きサインを受け取った筈だ」


「そのような事はない。私は明確に拒絶した」


「何を言いますか! ここにキチンと貴方のサインがあるではないですか!」


 先日ラザフォードがサインした決定書をかざしてガイウスは迫った。

 目の前で交換条件を出してきて領地と引き換えとはいえ、サインをしたことに変わりは無い。


「少々、拝見しても宜しいでしょうか」


 ラザフォードはガイウスの持っている文書、自分のサインを見て答えた。


「やはり、これは私が書いたものではありません」


「な、何を」


 なおも否定する態度にガイウスは怒りを募らせたが、ラザフォードは我関せずと話し始める。


「このラザフォード。才無き身ながら宮内大臣という要職に就かせていただいております。能力不足ゆえ事業を立てることは出来ませんが、せめて大過なく勤め上げようと日々の職務には細心の注意を払っております。故にサイン一つでも誰かに悪用されぬよう工夫を凝らしております」


 ラザフォードは一度息を整え、人々が自分の言葉を頭に入れる間を与えると再び話し始めた。


「私は公職に就いて以降、サインを真似されて悪用されぬよう公文書へのサインに関しては末尾に針の穴を付けるようにしております。全ての公文書にです。それがこの文書のサインにはありません。お疑いなら元老院に保管してある公文書をご確認下さい」


「直ぐにラザフォード大臣が署名した書類を確認しろ」


 ガイウスが命じると書記官達が大急ぎで元老院内の書庫に駆けだして書類を確認しに行く。そしてラザフォードがサインした公文書を持ってきた。


「ありました! どれもサインの末尾に針穴があります」


 場内はどよめくが昭弥は冷めた目で見ていた。閣議で何度かサインする様子を見ていたが針穴を付けるような行為は無かったはず。隠れてやったのかもしれないが、昭弥の元にやって来る公文書に針穴があった覚えは無い。

 注意して見ていなかったのだろうが、恐らくラザフォードは文書の性質に応じてサインを針穴入りと無しを使い分けていたのだろう。

 そして、例の公文書をサインするときワザと針穴を入れずガイウスを罠にかけるつもりだったのだろう、と昭弥は察した。

 一方、書記官の報告を聞いたラザフォードは口火を切る。


「諸君、今ここに不正が明らかになった。帝国宰相ガイウスは皇帝を補佐する身でありながらそれを怠り、それどころか退位を企てた。私がそれに反対するとサインを偽造し私が帰領したのを良い事に内閣の決定だと言って不当に陛下を逮捕監禁し処刑しようとした。帝国の選良である元老院を騙し不正に権力を乱用する。これほどまでの極悪人を許しておくことは出来ない。私は今ここにガイウスを告発する!」


「な、何の罪で! しょ、証拠はあるのか!」


 狼狽えるガイウスにラザフォードは公文書を盾にして反論する。


「証拠はこの公文書だ。貴様がサインを偽造した偽りの文書をもって元老院と帝国を欺き陛下を監禁し殺害しようとしたことは明白。これ以上しらを切るというのか!」


「だ、だが元老院の議決を得ている」


「内閣の承認が無ければ無意味だ。そもそもガイウス卿、貴方は宰相を務める資格が無い」


 ラザフォードは振り返り議員に向かって訴える。


「諸君! 帝国の法に照らし合わせれば、査問が開かれた上、証拠を挙げた上で行われなければならない。しかし元老院における非礼はともかく、オーレリー様襲撃を命じた具体的証拠が無い。元老院への非礼に関しても登院停止、重くても禁固数ヶ月の罪だ。にもかかわらずいきなり処刑は重すぎる」


「しかし市民が求めている」


「感情の赴くまま欲望の赴くまま行うのは獣であり千年以上続き築き上げた帝国の法を貶すものだ。ガイウス、貴方は帝国宰相の身でありながらそれを止めず、寧ろ助長したのは不実であり職務怠慢、反逆に等しい」


 ラザフォードはガイウスに反論する余地を与えず、まくし立てる。


「諸君! ここに不正と不実は暴かれた! これを放置する事は正義を蔑ろにするものである! 諸君! 正義を成せ! 有線放送で帝国の市民達もこの会話を聞いている。ここで何もしなければ市民の非難を浴びるぞ!」


「……ラ……」


 議員を扇動し自分を悪者に仕立て上げるラザフォードに向かってガイウスは罵り声を上げたかった。だが、急激な展開と状況逆転に心が追いつかず声帯が麻痺する。

 しかし頭の中では感情と記憶が勢いよく回り始める。


「ラ」


 会談の時、既に自分――ガイウスを嵌めるためか。交換条件を出して下ったように見せかけたのはガイウスに降ったように見せるため、サインに疑問を持たせないためか。

 下手に出ていたのは、自分たちを罠に嵌めて一網打尽にするため。

 帰領したのも自分が巻き込まれないため、ユリアを捕まえて投獄させるため、偽文書の内容を実行させてガイウス自身に権力を不正行使させるためか。

 宮内大臣でありユリアの妊娠を知っていて直ぐに処刑されないことを知っていたから賛成に回ったというのか。

 全ては針穴の無いサインを渡し、執行させた後、サインが偽であり公文書を偽造した罪、皇帝を殺そうとした反逆罪の汚名を負わせるため。


「ラアアアアザアアアアアフォオオオオオオドオオオオオオッッッッッッッ」


 最初から自分を謀った事を、自分以上の悪辣さを持って嵌められた事を、手のひらの上で転がされていた事を、ガイウスは悟りラザフォードに恨み言を叫ぶが時既に遅かった。


「た、謀った宰相に正義の鉄槌を!」


「悪人共に制裁を!」


「帝国を私にした連中を捕まえろ!」


 利用された事に怒った議員がガイウスを糾弾し始める。

 既に不正を指摘された上に、市民が聞いていると言われては糾弾しない訳にはいかない。彼らはあらん限りの声でガイウスを糾弾する。

 だがガイウスの子飼い達もここで降っては命が危ないので対抗するしかなく、つかみ合いとなり大乱闘となった。


「貴様!」


 ガイウスは頭に血が上りラザフォードを襲おうとした。


「止めなさい!」


 ユリアが前に出て牽制する。

 ガイウス派の議員が前に出てきている上、昭弥達も守らねばならず攻めることは出来なかった。


「大臣として頼む。この危急を鑑みて愛国の兵士よ。ここに来たまえ」


 元老院は言論の場であり、少数の衛兵を除き武器を持つことは許されない。何より兵士を引き連れてくることは許されない。元老院の要請が無い限り。

 だが宮内大臣の要請が出された。


「お言葉を聞いて帝国の為に参上したっす!」


 駆け込んできたのは外にいたブラウナーが手勢を率いて乱入する。


「陛下をお守りしろ!」


 続いてマイヤーも親衛隊を率いて突入してくる。

 議員達も貧弱な者達ではない。軍務に就くことが議員になるための条件であり多少の戦闘の心得はある。

 議場内は大混乱となった。


「ガイウス!」


 その中で凛としたユリアがガイウスの前に出てくる。

 親衛隊やブラウナー達のお陰で昭弥達の安全が確保出来たこともあり、前に出てくることが出来た。


「くっ、退けっ」


 状況が劣勢であることを認めたガイウスは踵を返して議場から逃げ出した。

 追いかけるべきなのだろうが間に人が入っており駆け抜けるのは無理だった。

 敵味方入り乱れての大乱戦では無理にユリアが動けば味方にも被害が出てしまう。

 そのため見逃すしか無かった。


「陛下、ガイウスは取り逃しましたがガイウス派の議員を捕らえました」


 ブラウナーとマイヤーが手勢を引き連れて捕らえたガイウス派の議員を捕まえた。


「首領ガイウスに関しては残念ながら元老院の外にいた諸侯の私兵に阻まれ逃走を許してしまいました」


「直ぐに手配書を出さなければならないな。そのまえに」


 ラザフォードはユリアに振り返って尋ねた。


「陛下、今真実が明らかになりました。この場に居る議員、大臣は偽の公文書により陛下を害そうとした国賊。いかが処罰いたしましょう」


 ラザフォードの声に捕らえられた議員達は震え上がった。

 偽の公文書を不正に行使して皇帝を害そうとしたとされてしまっては大逆罪にあたる。

 その場合は処刑以外に無く、ノヴァ・カステッルム・コロルへ送られて即刻処刑となってしまう。

 だがユリアは哀れむような表情で穏やかに議員に告げた。


「議員の皆さん。貴方方はガイウスの示した文書を本物だと思っただけでしょう」


「そ、そうです」


「サインを確認した方は居ますか?」


「い、いいえ、演台でガイウスが掲げるだけで近くでは見せては貰えませんでした」


「ならば致し方ありません。内閣で全会一致したと言われてしまっては貴方方は帝国の慣習法に従い信じるしかありません。貴方方は元老院議員として帝国の為に働いただけなのですから」


 ユリアは近くに引きずり出された議員の方にそっと手を置いて宣言した。


「私は貴方方を許します。議員の皆様が、この件で処罰される事はありません」


「諸君!」


 ユリアの言葉が終わるとラザフォードは大声で伝えた。


「我らが陛下が諸君らに慈悲をお与えなさった! 彼らの戒めを解き、我らが陛下の寛容さを讃えよう!」


「ユリア陛下万歳!」


『ユリア陛下万歳!』


「ゆ、ユリア陛下万歳!」


 マイヤーが叫ぶとブラウナー達も唱和し彼らに捕らえられるも解放された議員達も加わった。

 鉄道の利権でウハウハの未来から皇帝に反逆を行おうとした大逆犯とされ処刑されかけた。だが、ユリアの寛恕により命が助かった議員達は安堵からユリアを讃える声を出した。

 一通り歓声を聞いた後、ラザフォードは再び演説を始めた。


「しかし、今この場を逃げ出し逃れようとする大逆犯を見逃す訳には行かない。直ちに出頭命令を出し彼らを処断するべきであろう」


「賛成!」


 議場に残った議員達は口々に賛成を口にした。

 反対すればこの後どんな目に遭うか分からないし、ガイウスに裏切られ見捨てられた事もあってラザフォード提案に賛成し可決した。

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