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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部第四章 私鉄

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旧帝都の私鉄

 旧帝都リグニア。

 一都市国家であったリグニア発祥の地。

 リグニア帝国貴族はリグニアに何らかの繋がりがある。

 千年以上にも及ぶ歴史を持ち、交通の要所でもあった。故にリグニアとその周辺は資本の集積が大きく多数の都市が栄えている。

 つまり多数の人口を持つ都市が密集しているため、鉄道が発展しやすい環境が整っている。

 国鉄のみならず、複数の私鉄が創設され近隣の都市の間を結んでいた。

 特に遷都以降はリグニアが寂びるのでは、という恐怖もあり地元の商家などが一丸となって鉄道の敷設に邁進。

 結果、多数の私鉄が乱立する事態となった。

 都が京都から東京へ移った後の関西みたいな状況と同じだ。

 中には複数の私鉄が参入する区間もあり会社間の競争も激しかった。

 お陰でリグニアが遷都後に寂れることは無く寧ろ今まで以上に栄えている程だ。ただ、繁栄するとトラブルも多くなる。

 特に繁栄の原動力となっている鉄道、特に私鉄間の競争は激しかった。

 ひどさに現地のリグニア運輸局が遂に根を上げて昭弥に助けを求めてきた程に。

 そこで昭弥自身が出張る事になった。

 ヨーロッパ程の面積を持つ帝国の鉄道を昭弥一人で管理することなど不可能だ。

 そのためルシニアなどの辺境は鉄道運輸局の局長に任せることになる。

 マーネエラプセ鉄道のような特殊な事例はあるが、多くは鉄道運輸局内で指導し解決していた。

 だが、旧帝都リグニア周辺の私鉄の紛争件数が飛び抜けて多かった。

 また、リグニアは先帝時代から鉄道が開発された歴史もあり、鉄道の要所となっていた。

 リグニアで鉄道が混乱するのは不味い。

 鉄道がもっとも繁栄しやすい土地であり、リグニア周辺の私鉄が繁栄しないと帝国全土に広げるためのモデルケースが無くなってしまう。

 一応、国鉄が見本となるようにしている。

 帝国規模の企業体を考えているため地域密着の私鉄のモデルとしては違いすぎる部分がある。

 そこで発展著しいリグニア周辺で発展しつつある民間鉄道会社に昭弥は目を付けていた。

 彼らをモデルに帝国全土、少なくとも都市間の鉄道に関してモデルケースになって貰おうと昭弥は考えていた。

 だが、繁栄しつつもトラブルが多く、いざこざが原因で業績悪化、最悪倒産などに繋がると昭弥としても非常に不味い。

 事態を重く見た昭弥は自分自身が乗り込み解決することにした。

 民間の鉄道会社へ口出しするのは不本意だったし部下に任せたかったが、ここで頓挫すると帝国全体で民間鉄道会社の経営が破綻しかねない。

 リグニアで成功例やトラブル解決例を見つけ出し全国の鉄道運輸局に伝え指導に反映させて鉄道を盛んにしようというのが昭弥の目論見だった。

 しかし、初日から困ったことになった。




 新帝都アルカディアから旧帝都リグニアへは鉄道連絡船で向かうのが普通だ。

 リグニアの池とも呼ばれるレパント海を横断するのが最も早い。陸だと海や入り組んだ湾などで大きく迂回する事となり遠回りとなる。スピードは鉄道の方が早いが、所要時間では蒸気船の方が早い。

 しかも船の方がコストが安いため、行き来は船の方が良い。

 そのため昭弥も船を利用して向かっている。

 鉄道大好きな昭弥だが他の交通手段も認めている。鉄道の役に立つというなら船でも自動車でも航空機でも使用する。

 だから国鉄では鉄道との連絡を行う為に連絡航路を多数設定して鉄道路線と同格扱いにしている。そのため多数の連絡船を保有しており、そのうちの一隻に昭弥は乗り込んでいた。

 ちなみに連絡船は蒸気機関車で培った技術を応用しているため搭載している蒸気機関は高性能だ。優秀な性能を発揮するためにリグニア帝国海軍が欲しがる程だ。

 勿論、輸送力が低下するため昭弥は丁重にお断りしている。

 それはともかく、昭弥はリグニアに近い港フィウミチーノに入港した。

 リグニアにあった港が手狭になった為、物流拠点および工業用地として新たに建設された港町だった。

 特に船と鉄道との接続、車、特にトレーラーが動かしやすいように広い道を作るなど、海から帝国本土内陸への輸送を重視している。

 また、旧帝都の新たな玄関口として複数の私鉄に乗り入れを許していた。

 なのだが


「お客さん! リグニアに行くならウチ、パラティーノ鉄道が良いよ。リグニア最大規模の私鉄だ」


「いやいや、アヴェンティーノ鉄道が安いよ。リグニア一だ」


「他はサービスが悪いよ。カピトリーノ鉄道はなら王侯貴族のような旅が出来るよ」


「食事はまだかい? クイリナーレ鉄道の食堂車はリグニア一のコックが腕を揮うから美味いよ」


「お急ぎかい? ヴィミナーレ鉄道はリグニア最速だよ」


「荷物があるならエスクイリーノ鉄道だ。リグニア一運送料が安いよ」


「チェリオ鉄道は普通だよ」


「それ誇るところか?」


 思わず最後の鉄道の宣伝文句にツッコミを入れる昭弥だがフリーズ状態から覚醒する切っ掛けとなった。

 何しろ旅客船ターミナルを出た瞬間、旧帝都リグニアにある七社の鉄道会社が大集結している。

 何万トンもの旅客船が入港できるように整備され大勢の人が乗り降りする事を想定して七社の乗り入れを許していた。

 だが競争が激化して某歓楽街のように客引きが横行するようになってしまった。


「激しい客取り争いをしているようだね」


「ウチは大丈夫でしょうか?」


 七社の客取りの激しさにセバスチャンは自分たちの国鉄が太刀打ち出来て居るか心配になった。


「大丈夫だよ」


 そう言って国鉄の乗り入れ口を昭弥は指差した。

 他の七社と同じかそれ以上の人数が入っている。


「凄いですね。どうしてでしょうか?」


「リグニアから帝国本土各地への直通列車を設定している。旧帝都リグニアじゃなくて、その先に行く人をターゲットにしている。旧帝都までの人も多いだろうけど、そちらは民間の方が優位だね」


「勿体なくありませんか? リグニアまでのお客様の方が多いと思いますが」


「確かにね。けど、国鉄は路線網が発達しているから他の地域へ行く人、特に長距離の人を相手に設定した方が良い」


 国鉄は帝国全土に線路網を建設しており主要都市ならば他社へ乗り換える事無しに行くことが出来る。


「それを利用して長距離列車を設定して長距離の客を取り込んだ方が良いよ」


 成田空港から成田エクスプレスが千葉、東京のみならず新宿、池袋、大宮、大船、時に河口湖まで走るのと同じだ。

 京成スカイライナーは京成線が通る上野までに対して成田エクスプレスはJR東日本の管内を進む事が出来る。

 関西だと南海線が線路のある難波までしか走れないが、JR西日本の<はるか>は大阪から京都、草津、米原まで走り長距離客を確保している。

 途中から乗り込む人の利用も見込めるので路線網を最大限に活用出来る長距離を国鉄では重視していた。

 短距離に関しては停車駅が多くなるので諦め、私鉄に任せている。

 勿論、長距離の方が料金が高くなり収入が多くなることは言うまでもない。


「とりあえず、リグニアまで行くか」


「お客さん。リグニアまで行くのかい?」


 そんな昭弥に声を掛けてきたのは国鉄の制服を着た職員だった。


「私鉄に乗るより国鉄の方が安心だよ。他は法令無視とかやっているから危険だぜ。マーネエラプセ鉄道とか巫山戯た鉄道じゃ無くて真っ当な国鉄の方が良いぜ」


 軽い口調に少々腹が立ったが、昭弥は落ち着いて答える。


「ありがとう。だけど、話のネタに乗っていくよ」


「後悔するよ。安物買いの銭失いだ。国鉄の方が」


 そう言って去ろうとした昭弥の腕を掴んだ。


「……強引な客引きは禁止していた筈だけどな」


「何だよ。親切で言ってやっているのに。逆ギレか」


 流石に昭弥も頭にきた。特に国鉄職員がこのような行為を行っていることに昭弥は腹が立ち、身分を明かして叱責しようとした。


「おい、俺たちの客を取るんじゃ無い」


「国だからって勝手すぎないか」


 国鉄の客引き行為を見とがめた他の鉄道会社の客引きが周りを囲み始めた。


「民間は黙っていろ」


「東に逃げていった連中が何を言うんだ」


 そしてとうとう昭弥達を置いて客引き同士の口論に発展してしまった。


「客取り競争が激しすぎて国鉄にも伝染したのか」


 喧嘩している最中に抜け出した昭弥は彼らの口論を見て呟いた。


「しかし、社長いや総裁の顔を知らないなんて」


「現地採用の職員だろうね。最近は帝都近郊か管理職研修以外で顔を出すことは出来ないから」


 巨大化した国鉄は大量の人員を必要としており幹部以外の職員採用は各支社に任せている。

 ただ管理職だけは縦割りを避けるために鉄道学園で専門教育を行っている。

 その時、昭弥が顔を出して講演したり指導したりして管理職候補者と顔を合わせる。だが現地採用の職員まで会えるほど時間が無い。

 日本の国鉄もピーク時には六〇万もの職員がいた。その全員に総裁が会うことなど出来ない。

「開業時からの職員とは皆顔なじみにだったのに。寂しい物だな」

 そう言いつつ、昭弥はその場を去った。

 後で客引き行為をした職員の直属の上司を呼び出して厳しく叱責することを心に誓って。


「しかし、リグニア一という言葉が多かったな。帝国で一番の鉄道網は国鉄だろう」


「リグニアはこの旧帝都周辺という意味でしょう。遷都前はリグニアが帝国一の都市でしたし他の都市を凌駕していました。旧帝都リグニアで一番というのは帝国で一番という意味でしたので、その気概を忘れられないのでしょう」


「やれやれ、マーネエラプセ鉄道ほどでは無いけど手こずりそうだ」


 初っぱなから問題を見せつけられて昭弥は頭痛がしてきた。

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