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何とか、兵士たちの攻撃を止めることが出来た。
俺たちは、捕縛された兵士たちを運び、一か所へと固めた。
やはり、大勢で使用した魔術は強力なのか、時間が経てば効力を失うといいつつも、兵士たちは石の様に固まってしまったままだった。
そして、そんな兵士たちの足や腕にだけ、女の子たちが何人かで交代しつつ魔術をかけている。
交代するのは、魔術を使う側の魔力消費を抑えるためでもあるらしい。
メロルはやっぱり心配なのだろう。
いくら間接型でストーンを使用しているといっても、自国の女子たちが魔者になってしまうのが。
兵士たちを運んでいる間に、ある光景が見られた。
「おい。手伝うか?」
守ってもらったという事実からか、男たちは女子たちに積極的に手を貸していた。
「魔術ってのは役に立つんだなぁ」
偉そうな態度もあまりない。
逆に、
「ほら! あんたも手伝いなさいよ!」
「お、おう」
なんていう、男女逆転した場面も見受けられた。
女の子達も、もう舐められたくはないという気持ちから、この機会を絶好と見て態度が強気になっているのだろう。
しかし、そんな微笑ましい状況の中でも、悲惨な光景は存在していた。
亡くなった人たちだ。
兵士は数名。ルクリエイトの男たちは、その何倍もの数の人が命を落としていた。
たった数分の出来事だ。
これだけの人が、たった数分で死んでしまったのだ。
犠牲が多かったとは感じない。
それでも、今までの俺の生活からは考えられないことだった。簡単に、人が目の前で殺しあうなんて……。
運ばれていく遺体の傍を、一人の女性が無言で付いて行っている。
彼女は泣きわめきもしなければ、遺体にすがりつこうともしない。それでも、傍を歩きながらその男性の顔を覗き込んでいるということは、男性となにかしらの間柄だったのだろう。
年齢からして、妻かも知れない。
彼女は、どんなに虐げられた生活だったとしても、彼女の旦那だったのだ。
そして、つい最近までは女性の地位向上の為に離ればなれになり、いざ状況が改善されたと思ったらこんな有様。
彼女が、今どんな気持ちであの男性の傍を歩いているのか分からない。
それでも、仲良くできる未来が潰えたのは悔しく悲しいものに違いない。
だが、俺の世界が平和過ぎたからだろうか。
辺りの人々は、思ったほどに陰鬱な雰囲気ではなかった。
もちろん、遺族の出てしまった人々に配慮する行為や、死者を弔う意識もある。そして、それが形式的なものにとどまっているわけでもない。心から故人を悼んでいるように見える。
けど、それ以上に次へ進もうという意識が見られるのだ。
もしかすると、戦争をするかもしれないという状況が以前から続いていたために、こうなることも予測していたのだろう。
だから、皆はこんなにも前向きなのだ。
遺体や兵士を運ぶのが終わり、ひと段落した。
「……申し訳ありません」
メロルの前にやって来ては、アイルズがいきなり頭を下げた。
「……お前が頭を下げる必要はないのだろう?」
「……それはそうですが」
「なら、まだ戦いは終わっていない。しょげくれた顔を見せるな」
「…………」
アイルズとの会話が終わると、メロルは俺の元にやって来た。
「バステリトの兵士たちは縛りつけておく。亡くなった兵士は……ここで埋葬するがいいか? 帰そうにも、まだ事が済んでいないからには返せるようになるかどうかも分からん。この暑さで遺体を放置しておくのもあれだしな……」
「丁重に扱うなら好きにやってくれても構わないぞ」
「そうか……。なら、今度は此方の番だな」
「ああ……。こんな事をさせるの奴は許さねえ……!」
兵士たちは自ら王を信じてここへ来たのだろう。
しかし、その信じる気持ちを利用し、悪の道へと引きずり込んだのはレイ王だ。
許せるはずがない。
「リィス、メイス! 兵士の見張り役を多めに用意し、残りは私たちと来い! 出来るだけ、結界魔術を張れる奴がいいな」
「結界、ですか?」
「今回は攻撃を目的としていない。あくまでも身を守るのが優先だ」
「わかりました!」
「ではスグル。これから向かうが、準備はいいか?」
「俺はいつでも。ただ……」
アイルズは俯いたままだ。
「おい、そんなんで大丈夫かよ。これから作戦を始めるぞ」
「うん……」
「……ったく。俺もさっきまでは何も出来ずに動けないでいたんだ。今度は俺たちで作戦を成功させて、皆を守ろう」
「そうだね……。なんか、僕はいつも落ち込んでばかりだ。それじゃあ駄目だよね」
「ほら、行くぞ」
荒れた畑の上にメロルが立った。
杖を掲げ、呪文の様なものを唱え始める。
以前、俺が城の中から見て演説の様だと思ったものだ。
そして、杖の先から光が飛び出し、それが地表に落ちると魔方陣を描き出した。
「先に行って来る。五芒星が出来たらそこへ入れ」
メロルは、陣の向こうへと消えて行った。
本当に一瞬だった。
これが転移魔術なのか。
すると、すぐに魔方陣の中に複数の五芒星が出来上がった。
俺たちの後ろでは、魔術師の子たちが控えている。
「アイルズ、行こうか」
「うん……」
俺とアイルズは、それぞれ五芒星の中に飛び込んだ。
目の前が光に包まれていく。
そして、光が晴れる。
文字通り、瞬く間に俺たちはバステリト内にいるのだった。
あっという間過ぎて、本当にここがバステリトなのかと疑ってしまうほどだった。
「来たか」
気が付けば、メロルが傍にいた。
「アイルズよ。ここの住民はどうした?」
その言葉で、俺とアイルズも辺りを見渡してみる。
俺たちが転移してきたのは、城の前の広場だ。普段から、この場は人々の憩いの場として賑わっていた。
しかし、今は人っ子一人いない。
街の状態も、家屋の残骸が辺りに散らばったままだ。
修復や片付けは殆どされていない。
まるで、廃墟のようだ。
「……恐らく、ここに残っている兵士たちはわたくしらの味方です。住民と共に、城壁に隣接する施設にでも避難しているのでしょう。街が被害を受けたのは、中心部だけですから」
「そうか……。すまなかったな……」
「あなたが謝る必要があるのですか?」
「おっと……言い返されてしまったな」
そうだ。
今回の件に関して、メロルもアイルズも悪くはない。
お互いに、レイ王の謀略によって踊らされていただけなのだ。
どちらも責めることは出来ない。
「では、私はメグルという娘を探しにでも行こうと思うが、手掛かりはあるのか?」
「いや、それが分からないんだ……」
「それではどうしようもないではないか……」
そういえば、王が俺たちの作戦に気が付いていたということは、ラランに対しても何らかの動きがあったはず。
ハッシュさんの話によれば、ラランの処刑は公開処刑だとか言っていた。
となると、街に出て処刑を披露するのがセオリーだとは思うけれど、この広場には誰もいなければ、公開する相手もいない。
ラランは、まだ牢の中なのか?
「スグルくん、メロル様にはついて来てもらった方がいいんじゃないのかな? この国の地利を得ていないメロル様に一人で歩かせるのも危険だ。僕は、ルクリエイトが味方に付くかどうかは分からなかったから、ハッシュには魔術師たちが味方だとは伝えていない。ローブ姿を見ただけで、敵だと判断してしまうかもしれないし」
「そうだな……」
「とりあえず、ラランさんのいる牢までも城の中を通らなくちゃならない。途中までは一緒だ。行こう」
と、その時だ。
魔術師女子たちも転移してきた。
「メロル様、私たちはどうすれば…………」
メイスさんがおずおずとやって来た。
「お前たちは……そうだな。誰もいないし、ここで待っていてもらおうか。もし、敵が現れたら捕縛魔術で縛るのだ。後は、予め出来る子が結界を張っておきなさい。不意打ちが無いとも限らないからな」
メイスさんとメロルが話している間に、俺は一人の魔術師へ寄る。
「リィス、大丈夫か?」
「……? ああ、あんたね。大丈夫に決まってるじゃない。私は魔術師なんだから!」
「そうか。まあ、リィスなら大丈夫だよな」
「何それ、少しは心配してくれたっていいじゃない」
「大丈夫って言ったのはリィスだろ?」
「それはそうだけど……」
「スグルくん! 危ない!」
「え?」
アイルズの声が聞こえたと思った次の瞬間、俺の脇を何かがかすめていった。
「…………」
どさっ、という音と共に、リィスが倒れた。
「リィス……?」
仰向けに倒れたリィスの脇腹から、生えるようにして突き刺さった矢。
「う、うぅ……」
「リィス!?」
俺は、倒れ、痛みに蹲るリィスを抱き上げた。
「リィスちゃん……」
「リィス!」
すぐに、メロルとメイスさんがやって来た。
「スグルくん! あそこからだ!」
アイルズが指さしたのは、城の四つ角に存在する四本の塔の様な場所のうちの、向かって右側の塔だった。
あそこは確か、ラランが捕らえられている場所のはずじゃ……。
そこののぞき穴から、一人の兵士が再び弓矢を構えているのが見て取れた。
「この野郎ッ!」
俺よりも早く、真っ先にメロルが炎弾を飛ばして反撃した。
放たれた矢は通常のものだったために、燃え尽き、炎弾は兵士の覗いていた穴を破壊した。
「スグルくん! 中にも王側に付いた兵士がいるみたいだ! すぐに行こう!」
「でも、リィスが……!」
「ここにいたら皆やられてしまうかもしれないんだ! 早く!」
そんなことを言われても、青ざめ、苦悶の表情を浮かべているリィスを置いて行くわけにはいかない。
そんなこと出来ない……!
「じゃ、じゃあ、せめて回復魔術なんかはないのかよ……!」
俺は、すがる思いでメロルに尋ねた。
「治癒の魔術はあるにはあるが……。あれは怪我の治りを促進させるだけのものだ。それも、魔術をかけ続けている間だけになる。そして、治癒魔術は高度なために私しか扱えない……」
「じゃあ! そんな所で突っ立ってないで早くしてやれよ! 痛そうなんだよ! 血が出てきてるんだよ!」
抱いているリィスの脇腹からは、溢れてくる血液が分厚いローブまでも湿らせていた。
「しかし、私がここに残ればメグルとやらを探すことは出来ないぞ……? それでもいいのか」
そうだ。
メロルにはメグルを探してもらうという作戦だった。
メロルしか使えない治癒魔術。それも、かけ続けていなければ効果は得られない。
リィスを見捨てることは出来ないが、メグルだって助けなければならない。
どうしよう。どうしよう……。
俺には選べない……。
その時、リィスが力なく動き、俺の手を軽く握った。
「……あんた、大事な人がいたの…………。だったら、早く行きなさいよ…………」
「そんな事言ったって……!」
「何……泣きそうになってん……のよ……。戦争よ……? こんなの……覚悟してた……」
違う……。
俺は戦争なんてするつもりなんてない。
戦争を起こさないためにもこの戦いを決めたんだ。
こんな風に、目の前の人たちが傷つかないようにと。
「スグルくん! 早くしないと次の兵士が狙ってくるよ!」
アイルズはすでに城の入口付近にいた。
「いや、一先ずは大丈夫だ。結界が発動した。だが、誰かが向こうで食い止めなければ、この脆い結界もそうは持たんぞ!」
また、俺の決断の時が来たのか。
俺たちの周りには、魔方陣が連なったような球体の結界が出来ていた。
メイスさんも、妹が気になるはずだというのに結界の維持に力を注いでいる。
その時、また城の方から矢が飛んできた。
今度は、幾つもの矢が雨のように降ってくる。
それが結界に当たった時、吸い込まれるようにして消えて行く。
「くそっ……! くそっ……! メロル! リィスは頼んだ! 俺はメグルを探しに行く!」
「ああ、私の国の子は私に任せろ」
リィスの身をメロルに委ねると、俺は結界を出て走り出した。
一発目の矢の雨がちょうど止んだ時だったから、アイルズの元へはすぐに追いついた。
「スグルくん! 行くよ!」
アイルズと二人で扉を開け、城内へ侵入。
ここはもう、俺たちが寝泊まりした平和な城ではない。
敵陣であり、戦場なんだ。




