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スグルの異世界書紀  作者: 光 煌輝
第六章 黒を纏いし白銀の魔
46/134

第四十頁

区切りの関係で今回は少なめです。

 どのくらいの日数が経っただろうか。

 俺が図書館で調べものをした日から、いくら俺たちが旅立とうとしても、レイ王はそれを許してくれなかった。

 メグルとデートしたいだのうるさくて、ずっとバステリトに滞在していたのだ。


 ただ、一概にレイ王の所為とも言い難かった。

 暮らしに不自由が無さ過ぎたのだ。


 俺たちは、バステリトでの暮らしに甘えはじめていた。

 城では毎日温かく美味しい食事が運ばれてくるし、風呂もある。俺はたまにアイルズの手伝いやらをしていたが、特にこれといった働きをしていたわけでもない。

 暇になった時にはラランと弓矢の練習をしてみたり、武器屋の職人にはボウガンの使い方を教わってみたりもしたが、あまり打ち込むことはなかった。


 頑張ると決めた途端、生活が堕落し始めてしまったのだ。


 そんな生活を送ること約一月。

 カレンダーは捲られ、七月となっていた。

 こちらの世界でも四季はあるようで、やはり七月ともなると暑くなってくる。

 その暑さが、余計に俺たちのやる気を削いでいくのだった。

 だが、平穏だと思えていたそんな国を、俺たちを、事件は突如にして襲ってきた。


 いいや、襲ってきたのは事件じゃない。

 ――魔術師だった。




               ◇◇◇




 今日の俺は、外が暑いからと部屋の中で一人寝転んでいた。

 メグルはレイ王に連れ出されてしまったし、ラランはこの数日で、漬物をくれた野菜売り場のお姉さんと仲良くなって遊びに出かけていた。

 俺は、一人でのんびりとしていたのだ。

 そんな時、外が騒がしくなったことに気が付いた。


「なんだ?」


 様子を見るため、窓際に寄ってみる。

 ちょうど城の前の円形広場に、なぜかたくさんの人だかりが出来ていた。

 その中心では、一人の黒いローブ姿の人物が立ちつくしている。

 手には、先がゼンマイ(ゼンマイ科の植物のこと)のように丸まった木の杖が握られている。


 黒いローブ。

 その風貌に、俺はいつかの出来事を思い返していた。

 道端で肩をぶつけたあの人物。

 今、城の前にいるその人物と風貌が似ている。


 同一人物か?


 しかし、そう思いながらも、俺は特に動こうともしなかった。

 というより、俺が外に出ようとするよりも早く、その黒ローブが行動を始めたからだ。

 俺は、その行動に見入った。


 聞こえないが、何かを叫んでいる?

 黒ローブは、自分を取り囲む人々に何かを演説している様な雰囲気だった。

 顔はローブに覆われていて、その表情は窺えない。


 と、その時だった。


 黒ローブが口を動かすのを止めたかと思えば、杖を天に掲げ始めた。

 何が起こるのかと考えさせるよりも早く、杖からは白い光が飛び出し、それは空中で円を描くように、軽い放物線を描いて落下。黒ローブの周りに円を形成した。


 黒ローブ一人の声は聞こえなかったが、それを見ていた民衆のざわめきは聞こえてきた。

 そして、黒ローブを囲む円は白い光を放ったまま、まるでそうするようにとプログラムされたかのように、幾つもの五芒星を円の中に規則的に描き出した。


 白い光が地面を這い。描いてゆく。

 喩えるなら、それはマジック。

 しかし、手品ではなく魔法の類い。

 嫌な予感がしたとともに、それは始まった。


 ――魔術師たちの攻撃だ。


 五芒星から召喚されるように現れた、始めの奴と同じような黒ローブの人間。

 同様に杖も持っている。


 出現したそいつらは、何の前触れも無く杖から放った光の炎で街を焼き始めた。

 集まっていた民衆は、瞬く間に大混乱の渦に陥った。


 誰も、黒ローブたちを止めようなどとはしない。自分が逃げることで精いっぱいな様子だ。


「なんなんだ……! あいつらは……」


 かくいう俺も、頭の中が混乱し始めていた。

 どうして、こんな事をするのか。

 一体、あいつらは何者なのか、と。


 しかし、そんなことを考えている場合ではない事に気が付いた。


 メグルとラランが危ない!

 二人はまだ外にいたはずだ。

 早く、助けに行かなければ!

 直後、アイルズが部屋に飛び込んできた。


「スグルくん!」

「アイルズ! 敵が攻め込んできたぞ!」

「ああ、知ってる。だが、彼らは敵じゃないんだ!」

「敵じゃない?」


 今まさに、そこで破壊の限りを尽くしている奴らが?


「どういうことだよ」

「彼らは、ルクリエイトの魔術師なんだ……」

「ルクリエイト? それって……」

「そうだ。僕が書状を送った魔術師の国だ」

「なら、やっぱり奴らが先制攻撃を仕掛けてきたんじゃないか!」

「そんなはずはないんだ! ……僕は、書状に戦意はないと書いたんだ。それが、王の命令とは異なっていると知っていながらも……」


 レイ王はすぐにでも戦争をしたいようだった。

 だが、それを望まないアイルズは、戦意が無いということを書状で送ると言っていた。


「じゃあ、どうして……」

「マグラスだ……。マグラスに違いない……」

「マグラス?」


 知らない名前だ。

 しかし、アイルズは知ったように言う。


「マグラス公爵……。もちろん、スグルくんも知っているだろう……?」


 それを聞いた俺は、頭を打たれたような感覚を覚えた。

 またか、という思いと同時に、もう我慢ならなかった。

 今にでも、奴をこの手で裁いてやりたい。その一心だった。

 だが、どうして公爵がこんな事を?


 そもそも、一体、どうやって?

 俺は、それをアイルズに問うた。


「……正確には分からないが、公爵が書状を書き換えたに違いない」

「そんな事が出来るのか?」

「……分からないんだ。けど、これだけははっきりしている。王は僕に書状を任せ、僕は書いた書状を使者として派遣される貴族に渡す。……書状をルクリエイトに届けに行ったのが、マグラス公爵だったんだ……」

「どうしてあいつなんかに任せたんだ!」


 相手がアイルズだろうと、やることが抜かり過ぎている。

 俺は、叫ばずにはいられなかった。

 だが、アイルズにも言分があるようだった。


「ぼ、僕じゃない! 渡したのは僕じゃないんだ! 僕は書状を使者である貴族に渡すようにと、兵士に託したんだ。……直接渡したのは、僕じゃない……」


 そうか、俺が外出の許可をもらいに行った時、兵団長室から兵士が出てきた。あの時の書状が、そのまま公爵に渡ったんだ。


「どうして……。どうしてあいつなんかに……!」


 しかし、こうしてはいられない。

 今でも、城の外では輝く火炎弾が街を焼いている。

 すぐにでも、メグルとラランを見つけ出して無事を確認しなければ。

 すると、アイルズは言った。


「……申し訳ない、スグルくん。僕が不甲斐ないばかりに……」

「……謝ってても仕方ないだろ。それに、メグルとラランが外に出たきりなんだ。俺は、二人を助けなきゃならない!」


 半ば、アイルズを退かすように俺は扉に向かった。


「スグルくん!」

「なんだよ…………。俺は急いでるんだ」


 俺の言葉を無視するように、アイルズは語りだした。


「……僕は、こんな時でも僕の役割を果たさなくてはならない。それが、兵団長としての務めなんだ。だから……メグルさんとラランさんを一緒に探してあげることは出来ない……。だけど! 僕は僕自身の犯した過ちを償う。民を魔術師の攻撃から守り、公爵を断罪する! 書状に何が書かれていたのかも、確かめなくてはならないんだ。……スグルくん、もし二人を見つけたなら、君はこの国から逃げてくれてもかまわない……!」


 アイルズは、腰に掛けたロングソードを引き抜き、部屋を出て行った。

 自分自身の過ちを償う、か……。


 俺も急いで、城の外へと走り出した。



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