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スグルの異世界書紀  作者: 光 煌輝
第五章 バステリト王国
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第三十六頁


「お風呂だ、お風呂っ」


 アイルズとの話が長引いてしまったが、メグルたちはもうとっくに風呂から上がっているんだろうな。


 お湯はぬるくなっていないかな?

 いや、俺の家じゃないんだし、水道代なんて気にしてられるか。

 いざとなれば、ごっそり入れかえてやる。


「ただいまー。風呂はどうだ――」

「うへへぇ~ん……! 助けてくだたいー!」

「うわっ!?」


 部屋に入った直後、いきなりメグルが飛んで抱き着いてきた。

 何か困っているようだし、一体何が……。


「おい、どうしたんだよ……。って……」

「しくしく……。お水が止まらないですよぉ……」


 抱き着かれた時に何か湿っていると思ったら、メグルは真っ裸だった。

 恥ずかしくないのか!?

 いや、羞恥を通り越すほどに困り果てたことが起きたのか。


「と、とにかく離れて! な!」


 頷くと、メグルは静かに離れた。

 とりあえず、俺はバスルームに向かった。

 水が止まらないと言っていたな。

 蛇口が故障でもしたのだろうか。


 バスルームの内部を見て、驚愕した。

 バスタブの中には、巨大な泡お化けがいたのだから。


「何すればこんななるんだ!?」

「ラランちゃんが、それの中身をお風呂に入れたらこんななっちゃったんですー……」


 メグルが指す〝それ〟とは、恐らくシャンプーだった。

 ボトルを持ち上げてみると、大分軽い。半分ほど使ったようだ。

 これだけの泡の山も出来上がるわけだ。


「そういえば、ラランはどこにいったんだ?」

「その中です……」


 メグルが指さしたのは、泡の中だった。


「おいおい、マジかよ……」


 どうやら、泡お化けの正体はラランの様だ。

 しかも、よく見ればバスタブからは次々にお湯が流れ出ている。辛うじて、そのあふれ出たお湯は排水溝に流れているからいいものの、この泡では蛇口の場所が見当たらない。


「ララン! どこだー! いるならまずは蛇口を止めてくれー!」


 水の流れを止めない事には、この泡も治まらないだろうからな。

 すると、泡が返事した。


「すぐぶー? あぶぶぶ! いっじょにあぞぼー!」

「わかったから早く止めろぉ!」

「あーい」


 いや、待てよ。

 ラランに蛇口の扱い方が分かるのだろうか。


「こうかなー?」

「うわあ!」


 案の定、ラランは俺の予想を裏切らなかった。

 泡が急激に増加し始めている。


「あぶぶー! 前が見えない! おめめが痛いのだー!」

「ララン! 逆だ、逆ー!」

「わかんなくなったー!」

「なんでそうなるんだよぉ!」


 結局、俺も服を脱ぎ、泡の中に突撃してやっと蛇口を見つけ出したのだった。




                 ◇◇◇




 すっかりと泡も引き、メグルとラランはゆっくりと湯に浸かっていた。

 やはり冷静になると恥ずかしいのか、メグルは首元まで深く浸かっている。


「おめめ痛いー……」


 ラランは泡が入った目を痛そうに、こすりこすりしている。


「あー……。泡が入っちゃったんだな」


 あんだけ泡に埋もれていれば、目にも入る。


「ほら、流してやるから」


 俺は、壁に掛けてあったシャワーを手に取った。


「あ」


 メグルが声を上げた。


「なんだ。どうした?」

「い、いえ。なんでも」

「そうか」


 構わず、俺はシャワーから水を出した。

 ラランの目を洗うためだから、弱めに出している。


「わあ!」


 また、メグルが声を上げた。


「だから、どうしたんだって」


 メグルはシャワーを指さして言った。


「細いお水がいっぱい出てますね!」

「え? ああ、そりゃあシャワーだからな……」


 それがどうした、という感じだった。


「スグルさんは、使ったことあるんです?」

「毎日使ってたけど」

「そうなんですか! すごいですね~」


 メグルは何だか知らないが感心していた。


「…………」


 ああ、そうか。

 ラランはともかく、メグルも一度もシャワーなんて使ったことないんだな。

 さっきの慌て様からして、バスタブにお湯を入れるのも小一時間掛かったに違いない。


 何だか、俺がアイルズに会いに行ってしまった所為で迷惑かけてしまった様だ。


 まあ、そのうちこの世界もどんどん発展していけば、シャワーなんかも主流になっていくことだろう。

 勉強してもらったと考えればいいか。


「おめめ痛いのー!」

「ああ! ごめんごめん」


 忘れていた。

 ラランがそのままだった。

 俺は、ラランの顔を上に向けさせ、目を開かせる。


「瞬きしてみろー」

「んー」

「どうだ? 痛いの治ったかー」

「うー……。まだ痛いぞー……」

「まあ、水でも痛くなるからな、もう少ししたらきっと治るぞ」


 なんて言いながら、少し下に目が行ってしまった。

 もちろん、「見よう!」だなんて明確な意思はなかった。だが、やはり人間の視線は絶えずあちこちを見回しているものであって……。


 さりげなく、そして無意識にラランの顔から首、そして胸元に移動した視線。映し出したのは、メグルよりも肌色が濃いめの深い谷間のある大きな山。

 まるで水風船の様な張りとツヤ。


「お、おぱーい……」


 これが巨乳……!

 そして、発見があった。

 巨乳はどうやら、水に浮くようだ。

 と、不味い不味い。

 あまり見ているとメグルに怪しまれる。

 ラランの顔に視線を戻すと、どういうわけかラランも下を見ていた。


「スグル、おっきくなったぞ」

「おっきくなった?」


 なんだ? 胸がか?

 しかし、そんな短時間で大きくなるものなのだろうか。

 もう一度、ラランの胸に目を向けようとして気が付いた。

 ラランの視線はアレを見ている。

 そう、この場にいる人間では、俺にしかついていないアレだ。


「おっきくなったって……」


 しまった!

 ラランの胸に見惚れるあまり、制御できない生理現象が……。


「でそ?」


 ああ……。

 ラランの濡れた髪に顔。それがバスタブの縁に両手を掛けて、上目遣いで見上げてくるから、しっかりと胸の谷間までフレームに入ってくる。


 絶妙すぎるアングルが素晴らしい。

 しかも、ラランの少し微笑んだこの楽しそうな顔。

 破壊力満点だ。

 だが、耐えろ。

 なんだか中二的だが、欲望に支配されてはならないんだッ!


「ねね、でそ?」

「い、いや、そういうなやめようなー……。たはは……」

「なんでだー?」


 ラランは、無邪気に首を傾げている。

 出そう? とか聞いてくる割に、そういう観念が無いのが性質悪い。


「どうしてだろうなー。うーん、どうしてだろー……」


 適当に、誤魔化しておいた。

 だが、すでに遅かったようだ。


「スグルさんって、私たちと水浴びしたりしてる時もいつもそうです……。ぶくぶく……」


 メグルが、不満そうに言ってきた。


「べ、別にいつもじゃないだろ……」


 俺はいつも不当に変態扱いされてしまっている気がする。

 ここは反論するべきか?


「で、でもさあ。メグルだって、前に興味津々で俺のモノ見てただろ……? 本当は見たいんだろ~」


 うーん……。反論のつもりが、どうしてか変態発言になってしまった。


「き、興味津々だなんて……! そんなことないですよ!」

「でも、あの時も指の間から見てたよな?」

「あれは……! ちょっと興味があったから見てみただけで……。ああっ!? 違うんです! 違うんです! 興味はあるんです! ……あれ? あ! だから違うんですぅ!」

「ふははっ。墓穴を掘ったな。そうかー、興味津々だったのかー。それじゃあ、メグルも変態さんだなぁ」

「変てゃいなんかじゃありしぇんーーー!」

「え」


 ざばっと、メグルの全身が露わになった。

 見せてもらっちゃったけど、


「いいのか……?」


 つい出た一言。

 次の瞬間には、メグルの悲鳴が風呂場に響き渡った。

 と思いきや、叫び初めにメグルが足を滑らせた。


 風呂の中で暴れたりなんかするからっ……。


「危ない!」


 頭からバスタブの外に飛び出しそうになったところを、すかさず迎えに行く。

 メグルの肌が俺の肌と密着した瞬間、俺も見事に足を滑らせた。


「いったた……」


 背中から打ち付けたようだ。

 しかし、それほどの衝撃ではなかった。


「メグル、大丈夫か?」


 目を開くと、メグルが俺に倒れ掛かっていた。


「わわ……」


 動こうにも、動くことが出来ない。

 メグルの体はむにむにしていた。

 それに何だか、股の辺りがくすぐったいような。


「あう……」


 メグルが、やっと起き上がった。

 しかし、何だか様子が変だ。


「あ、あの……!」

「ど、どうしたんだよ。いいから、早く退いてくれって……」

「こ、この当たってるのはなんですか……!?」

「当たってるってなんだよ……。退いてくれないなら俺から――」


 起き上がろうと、少し動いた時だった。

 アレに柔らかい感触があった。

 同時に、メグルが甲高くおかしな声を上げる。


「はにゃん!」

「ま、まさか……」


 恐る恐る自分の股間に視線を向けると、メグルのソレと俺のアレがお見合いしていた。


「ご、ごめん。そういうわけじゃ……!」


 四つん這いのまま動けずにいるメグルを見上げると、もう眼に涙をためて今にも泣きだしそうだ。というより、泣いていた。


「わ、わらひ、そういうことしたことなく……。なくて……。心の準備とかきゃ……。あうう……」

「いや、俺もそんなつもりじゃないから! 泣かないでくれ!」


 俺が、どうにか横にずれて抜け出そうとした時だった。


「もう、しぇめて優しくしてくだひゃいー!」


 メグルがやけになって抱き着いてきた!


「待て! 早まるなって! そういうのはもっと大事にしよう! な!?」

「おー! 交尾するのかー!」

「いや、だから違うって!」


 久々の風呂も、そんなに落ち着けるものではなかった。



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