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スグルの異世界書紀  作者: 光 煌輝
第五章 バステリト王国
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第三十四頁


「こちらです」


 使用人に連れて来られたのは、城内の一室だった。

 かなりの広さに加えて、生活に必要なあらゆるものが備わっている。


 てっきり、城の外にあるそんじゅそこらの宿を提供され、まあそれでもいいとは思っていた。

 だが、あの王様意外とやるじゃないか。

 それともあれか、お金持ち特有の金銭感覚的価値観の違いなのだろうか。


 俺だって、両親がそこそこの収入を得ていたからといって、俺自身がそのお金を使ったりすることなどなかった。当たり前だけどな。

 だから、実際にお金持ちの感覚というものは理解できない。


 もしかして、このクラスの部屋を、「この程度」くらいにでも思っているのだろうか。


「ここ、私たちが使っていいんですか!?」


 使用人はもういない。

 俺に言っているのだろう。


「ああ、メグルのデートと引き換えにだけどな」

「そうでした……」

「ばいーん! ばいーん!」


 ラランは、広いベッドの上で飛び跳ねていた。


「ララン、寝る前にあんまり汚すなよー」

「ばいーん! あたいのおっぱいもばいーんばいーん!」

「そういう下品なノリも止めような……」


 しかし、ラランが喜ぶのも無理はない。

 ベッドは一人に一つ用意されているのだ。しかも、その一つ一つが大きい。

 今日は久しぶりに、首を痛めずにぐっすり眠れそうだ。


 広い部屋を見渡していると、本当に何でもそろっていた。

 テーブルの上には、その辺で木から取っていた果物とは別物の果物が、ナイフと一緒に添えられているし、蝋燭やランプまで必要以上に備えてある。

 だが、そんな物は必要ないということに今更気が付かされた。


「スグルさん、そういえばこの部屋、どうして明るいんでしょう?」

「どしてって、そりゃあ電気が……」


 何気なく、さも当たり前のように見上げた。


「電気!」

「眩しいですね~。お日様みたいです。これがデンキっていうんですか?」

「ああ……。そうだぞ」


 電気だ電気だ。


 俺は、半ば感涙の域に入っていた。

 電気なんて久しぶりに見た。


 性能こそあまりよくなさそうだが、それなりに白く煌々と輝くその丸い物体。

 ああ、電気だ。


 ここにいれば、夜中にでも起きていられるし、燃え移る心配もしなくていいのか。

 文明の利器ってのは素晴らしいなあ。


 しばらくその電球を眺めていると、メグルがまた何か発見したようだ。


「スグルさん、これはなんですか?」


 今度はなんだろう。

 メグルが入って行った、個室の様な所を覘いてみる。


「何か、箱みたいなのがあります」


 メグルの言う箱みたいなもの。それは、


「お風呂じゃないか!」


 俺の目の前に飛び込んできたのは、見るも輝かしいバスタブだった。


「これ、お風呂なんですか……。ちっちゃいです」

「どうして残念そうなんだよー。バスタブがあるってことは、ほら」


 もちろん、水かお湯を出すための蛇口があった。

 そして、バスタブばかりに気を取られていたが、シャワーまである。西洋風なのか、バスタブが小さめなことを除けば、十分すぎる程だった。

 今までは、水浴びもそうそう出来なかったから、タオルを井戸水なんかで濡らし、体を拭いて耐えてきた。ローフタウンで宿に泊まった時だって、シャワー無しのバスタブこそあったものの、水が止められていて使えなかったのだ。


 メグルたちはなんともないようだったが、俺ばかりが臭くは無いかなど気にし、旅の悩みの一、二割はそのことだった。


 だが、やはりこの世界の人々は基本的に風呂が発達していないのか、風呂に入るという概念があまりないのか、皆が同様に……まあ、言ってしまうと汚い。

 臭いなんかも、俺自身、慣れてしまって実際に気になる程ではなかった。

 しかしだ、やはり清潔なのに越したことはない。


 今日は、俺もメグルたちにも綺麗になってもらって、さっぱりとしたままベッドに入りたいものだ。


 と、その時、扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 扉の前まで出向き、許可を出す。


「失礼いたします」


 先ほどの使用人だった。


「お食事の準備が出来ましたが、お運びしてもよろしいでしょうか?」

「え、食事までついてるんですか!?」

「はい。メグル様に運ぶように、と」

「そ、そうですか。じゃあお願いします」

「かしこまりました」


 会釈すると、使用人は戻っていった。


「あの人、アイルズのこと好きなんだぞー」


 ラランが言った。


「どうしてそんなこと分かるんだ?」

「匂いだ!」

「そ、そうか」


 でも確かに、兵団長室に来た時はおどおどしていたな。

 まあ、アイルズもイケメンでそれなりの地位だし、モテていても驚きはしない。


「そんなことよりだ。メグル! メグルのために王様が食事もくれたぞ。俺たちも食べていいよな!?」

「もちろんです」

「ご飯なのか!? あたいも! あたいも! あたいも食べるー!」

「一緒に食べようなー」


 久々のまともな食事。

 ここへ来てから、公爵のことを除けば、今のところ良いことずくめだ。


 思えば、ラランを助け、そこから竜巻事件を解決し、アイルズに出会って王に事情を説明した。

 事柄が繋がっていってるじゃないか。


 これが、コツコツ頑張るというものなのか?


 まあ、努力とは少し違うにせよ。俺たちの行動が、俺たち自身の未来に変化を与えてはいるようだな。


 しばらく待っていると、食事はカートに乗せられて運ばれてきた。

 使用人は、それを次々とテーブルの上に置いて行く。

 何だか、俺たちが王族になったかのようだ。


「はやく食べたいー」

「そうですねー。でも、ラランちゃん。お行儀が悪いのは駄目ですよ?」

「おぎょーぎってなんだ?」

「大人しく座って待ってることですよ。あと、手で食べちゃ駄目です。食べにくかったらスプーン使いましょうね」

「メグル、すっかりラランのお姉さんだな」

「でへへ~、そんなおねえしゃんだなんてぇ」

「…………」


 何はともあれ、本当に美味しそうな食卓だ。

 上品に切り、盛られた魚や、てかりのあるソース。まさにステーキと言わざるを得ない肉や、綺麗に切り分けられたハム。野菜の盛りつけに関しては、芸術作品かとも思え、食べるのが惜しいほどだ。


 メグル宛てということではあったが、しっかりと俺たちの分まで用意されていたのが、何よりも嬉しかった。


「あの王様も分かってるじゃないか……」


 大方、条件を出した俺の分も用意しなければと、後から思ったのだろう。

 理由はどうであれ、もう待ちきれない。


「いただきます!」


 それは美味しく楽しい食事を、三人で過ごした。




                ◇◇◇




 食事を終え、すっかり満腹になった夜のこと。

 俺もメグルもラランも、部屋で好きなようにくつろいでいた。

 部屋には時計もある。

 時間は、まだ八時あたりだった。


 壁には、カレンダーもあった。

 今がどの日付なのか詳しくは分からないが、月は六月となっている。


「……?」


 俺がこの世界に来たのは、十月だったはず。

 もう、半年以上も経ったっていうのか?

 せいぜい、二カ月ほどだと思っていたのだが。


「メグル? この世界の月日は一から十二月までで合ってるか?」

「そうですよー」


 メグルは、ラランと手遊びをしながら答えてくれた。

 どうでもいいが、あんな大層なドレスいつまで着ているんだろう。

 まあ、いいか。


「月日の流れが同じとなると……」


 もしかすると、この世界と向こうの世界の時間は同じ進み方であるものの、季節は全くの反対なのではないだろうか。

 仮にだが、俺が元いた世界が十月だとする。そうすると、こちらの世界は四月という計算だ。それならば、今が六月だというのも頷ける。


 極めつけは気温だ。

 十月からは次第に寒くなるというのに、だんだんと温かくなることに俺は疑問を持っていた。だが、同じくらいの気候である十月と四月が入れ替わったのならば、季節が逆行しているように感じてもおかしくは無い。

 俺が勘違いをしてしまったのも、恐らくはそのせいだろう。


「そうか、そうか。そういうことだったのか」


 ここへきて、もやもやの一つも解決してしまった。

 すっきりして、俺はベッドの上に横になってみる。


「…………」


 が、やっぱり体が汚れていると不快感がある。

 六月というだけのこともあって、最近は汗もかくことが多かった。

 寝る前に布団を汚すのはいただけない。


 そういえば、アイルズが夜に来てくれとか言ってたっけか。

 やっぱり、風呂は寝る前がいいかな。

 まずは、アイルズに会って来るか。


「メグル、俺、ちょっと出てくるから先に風呂入ってていいぞ」

「どこ行くんです?」

「アイルズのとこにな」

「くきー貰うのかー!?」

「貰わないって……。ま、そういうわけだから、ラランの事もよろしく。たぶん、すぐには終わると思うからさ」

「わかりましたー……」


 俺は、部屋を出た。



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