第22話 増えた一行
昼前、メルドは机に広げた道路の記録から、前日にシェナが残した湊の発言を読み返していた。
通るたびに費用を集める? それでは、そのたび荷車を止めて金を受け取ることになる。荷を止めないために直した道なのに。商会へ費用を戻せば、管理を移した意味が薄れる。
どちらも違う。
なら、昨日湊が話した『買い物のときに払う分』の方はどうか。
「道を通った回数ではなく、売れた品から集める方法を試します」
「先輩、売れた品を対象にするなら、何を選ぶかで店ごとの差が出ませんか」
「ええ。なので全部には広げません。最初は香油だけです」
香油なら、買わなくてもすぐ生活には困らず、売れた数も店の帳簿で確かめられる。一品だけなら始めたあとの変化も追えるし、道の入口で荷車を止めたり、道路のためだけに新しい通行記録を作ったりする必要もない。
「香油を売った店から、売れた分に応じて納めてもらいます」
「でも、香油だけ売れ方が落ちたらどうしますか?」
道路の金が集まっても、香油が売れなくなっただけなら、別の負担を作っただけだ。
「落ちたかどうかを、先に確かめます。香油の売れ方がどう変わったかも記録してください。集まった額と一緒に見て、続けるかどうかを決めます」
メルドは、香油の販売数に応じて道路維持費を納める通知を作った。
* * *
午後、リールが商館でメルドを迎えると、彼が取り出したのは、昨日までの地図ではなく一枚の通知だった。
「今日は地図ではないんですね」
「ええ。今回は帳簿の方です」
リールは通知を受け取り、最後まで読んだ。
道路維持費。
道を通った回数ではなく、売れた品から集める。対象は香油だけで、食料と薬には付かない。同じ荷車で同じ道を通っても、パンには何も付かず、香油を売った店だけが払う。
道路を直すためのお金なのに、道の使い方は関係ない。
待って。
香油を売った分だけ店が払うなら、その金を商会が負担するか、客に払ってもらうしかない。どちらにしても、変わるのは道路じゃない。
香油の売りやすさだ。
「道路を維持することには反対しません。でも、この方法では香油だけ、売る条件が悪くなります」
「承知しています」
「それでも実施するんですね」
「反対意見としては記録します。ただ、今回は実施します」
止めるつもりはないらしい。だったら、反対し続けるより、この先どこまで広げるつもりなのかを聞いた方がいいわね。
「香油で足りなければ、次は別の商品を増やすのですか?」
「そこまでは決めていません。まず、香油から実際にいくら集まり、売れ方がどう変わるかを確認します」
リールは紙を机へ置いたまま、納める額について書かれた部分を確かめ直した。
「決められた額を納めれば、客にどう示すかと、商品の値段をどう付けるかは店側で決めてよろしいですね」
「販売価格までは指定しません。対象品を売った数と、納める額が帳簿で確認できれば構いません」
「承知しました」
とは言ったものの。
商会が払えば、香油を売るたびにこちらの取り分が減る。管理を渡したのに、維持費だけ抱え直してどうするの。
なら、客から受け取る。けれど商品代へ足せば、香油そのものを値上げしたのと同じに見える。
違うわ。
道路維持費は、商会の売上ではないわ。なら、商品代に混ぜれば、あとで分け直すだけで良いのよ。
「コレット、香油は商品代と道路維持費を分けて書いて。受け取った金も一緒にしないで、道路維持費は別にしておいて。商会の売上に入れるのは商品代だけにするの」
「へえ、最初から別枠にしておくわけね。……じゃあさ、ほかの商品は、今までどおりでいいの?」
「対象になっていないものは変えなくていいわ」
* * *
実施日の午後、コレットは、香油を買った客へ商品代を告げたあと、道路維持費を別に伝えた。
「コレットちゃん、この香油、前より高くなったんですか?」
「香油のお値段は前と全ッ然変わってないんだよぉ。道路をキレイに維持するためのお金として、王国へ納めることになっちゃったの。ごめんねぇ?」
「そうなんだ。これ、次に買うときも付くんですか?」
「今の決まりが続く間はね、香油を買うたびに毎回かかっちゃうんだよねぇ」
「そっか。じゃあ、次は少し考えるよ」
客は硬貨を払い、包まれた香油を受け取った。
コレットが商品代と道路維持費を書き分けると、帳簿には昨日までなかった一行が増えた。
道路維持費。




