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MISSION1(前):もっとお金が動くところが見たぁい♡

新たな劇物が生まれました!

よろしくお願いいたしますっ。

 

挿絵(By みてみん)

 

 

__

 

 

『フレイヤ……。いくら幼少からの縁がある高位の令嬢だったとしても…………君のように平然と悪行を働くような者は、僕の婚約者には相応しいとは言えるはずもない……!』

 

 学園の卒業式の日。

 メイン攻略対象の王子が、ついにシナリオ通り悪役令嬢フレイヤ様の断罪寸劇を始めた。

 全てはわたしが思い描いた通りの、ハッピーエンドへの道筋。

 

『残念ですわ、殿下……。その様な下賤の者に惑わされておいでだなんて……』

 

 フレイヤ様は、ゲームと寸分違わぬセリフを口にして、憐れみに満ちた瞳で美しいお顔を歪めた。

 

(この後は、王子が婚約破棄を宣言して。だいぶ攻略の手は抜いてるから、わたしと結婚するなんて言い出さないはずだよね……?)

 

 べったりと腕にまとわりつくこともなく、王子から数歩離れた場所で成り行きを見守っていたわたしは、適当に神妙な顔を作ってフレイヤ様に見惚れていた。

 

『口を慎め。今日をもって君との婚約は解消とさせてもらう。そして、僕は心優しいミラと結婚――』

 

「いやいやいや!? なんっでやねんっ! 嫌すぎますがぁぁっ………………はっ……!? 」

 

 思わず叫ぶと、ようやく見慣れてきた薄汚れた天井が目に入った。

 どうやらお約束の夢オチってやつだったみたいですね!

 

(またあの時の夢かぁ……。ほんと悪夢でしかないよ……)

 

「あのチョロザコ王子……! なんだってあんなに手ぇ抜いたのに勝手にルート入ろうとするのよっ……!」

 

「起きて早々うるさいわね! その口縫い付けられたくなければお黙りなさいな、この下民!」

 

「フレイヤさまぁぁあっ♡ あ゙っ! いたぁい……」

 

 起き抜け一発目に超絶麗しいご尊顔に遭遇したわたしは、一瞬で目が冴えてベッドから跳ね起きたけれど。

 扇子の代わりに持つようになった暗器の柄で、フレイヤ様に思い切り額を打ちつけられてしまった。

 

「……いつまで寝ぼけているつもりなの? 死んだ者の名前は二度と口にしないで頂戴」

 

「あう……。ごめんなさい、Fさま……」

 

 フレイヤ様の言う通り。

 チョロザコ王子のせいでなんやかんやあって、わたしたちは今……世間的には死んで、余生を暗部の一員として過ごすことになったのでした。

 おしまい。

 

 ってね、終われるわけないんだよね。

 フレ……F様には申し訳ないけど、ここからがわたしのミラクルハッピーな物語の始まりだからね。

 

 前世から推しだったフ……この方と四六時中一緒なんだもん、そこだけはチョロ王子くんに感謝してもいいかなぁ。

 

(ていうか、心の中でくらいフレイヤ様って呼んだってよくない? ……いや、ダメかぁ。ちゃんと慣れないと、とっさの時に出ちゃうもんね……)

 

 そんなことを考えてぼんやりしていたわたしを睨みつけてから、F様はふいっと背を向けて歩き出した。

 簡素なポニーテールにされたハニーブロンドが揺らいで、とっても魅力的。

 

「行くわよ、M。本当なら置いて行きたいけれど、お前が一緒じゃないとまた無用な説教を聞かされる羽目になるんだから……!」

 

「えへへぇ♡ なんてったってわたしたち、コンビ! バディ! 相棒っ! ですからね♡」

 

 影同士にしか視認できない特殊な魔法で姿を隠しながら。

 それでもできるだけ人目につかないルートを進むF様の後を追い、わたしはツンデレお嬢様の気品が抜けない後ろ姿を愛でていた。

 

「訳の分からないことばかり言っていると、本当に黙らせるわよ……?」

 

「えっ……物理で縫うのはやめてもらえますか……?」

 

 刺繍の得意だったF様に、唇をお花みたいに飾り付けられてはたまらないと、本気でビビってしまった。

 わたしの声の震えに気付いたらしいF様は、フンと鼻で笑う。

 

「わたくしが禁術の《沈黙(サイレント)》も使えるとご存知よね? 無駄口をきかずに付いていらっしゃい」

 

 振り向きもせずに返された悪女様の愉しげな中低音は、影の魔法で外部には漏れることもなく、わたしの耳にだけじんわりと響いた。

 

「はあい……」

 

(禁術もしれっと使えちゃうFさま最高……♡ かっこよすぎて無理……)

 

 おしゃべりできなくなるのはイヤだから素直にお返事したけれど、心の中ではいつまでもトゲの抜けないF様の気高い悪役っぷりに身悶えていた。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

「――というわけだ。FとMのペアにはその賭博場のVIP会場に潜入してもらいたい。その後は、魔道具を通じて《影潜(シャドウハイド)》で突入部隊も入れっから、適当なとこで帰っていいぞ」

 

 組織のトップであるわたしたちの上司……何代目か忘れたけど『アルファ』と名乗っているおじさんが、今回の任務について説明してくれた。

 影の組織って言うからには、基本的には人目に付かないような裏側の仕事が多いのに、どういうわけかF様とわたしのペアは変装して現場で人と接する任務ばかりを与えられていた。

 

 

「Fさまっ! また現場(オモテ)の潜入ですねっ。今回はどんな衣装借りますぅ?」

 

 どうにかしてわたしを置き去りにしようと急ぐF様にピッタリ張り付いて並走しながら、黒の装束じゃないF様の姿を想像してニヤける。

 髪や目の色は魔法で変えちゃうけど、今はもう滅多に拝めなくなったF様の着飾った姿を一番間近で見られるなんて、命の危険があったとしてもお釣りが来るくらいには役得だった。

 

「大方のドレスコードなんて、決まりきっているでしょう? まあ、今回はマスカレードマスクもあるみたいだから、瞳の色まで変えなくても良さそうね」

 

「わたし、Fさまの最高級のサファイアみたいな青いひとみ……大好きです……♡」

 

 冷え切った虚無の目をした横顔に熱い視線を送ると、F様の青い瞳はマイナス100度くらいに温度を下げたように凍てついた。

 

(はわ……絶対零度お嬢様……♡ 最高の極み……!)

 

「…………やっぱり変えようかしら」

 

「なんでえぇ!?」

 

 どれだけ叫んでも外部には漏れない影の隠匿魔法、オタクの生活必需品です。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

「ふふ♡ 瞳の色、変えなかったんですね?」

 

 あとは夜会用の目だけの仮面を付けるだけの状態で、一般客を偽装してエンブレムの無い馬車に揺られるわたしたち。

 ハニーブロンドは落ち着いた茶髪になっていたけど、グラマラスなデザインの深緑のドレスに身を包んだF様は、今日も世界でいちばんの美貌を誇っていた。

 

「面倒だったからよ……! それより、分かっていると思うけれど、ここからはわたくしのことは『フラウ様』とお呼びなさい」

 

「分かってますよ、フラウさま♡ わたしのことは……?」

 

 潜入用の偽名はだいたい同じものの使い回しだから、最近では本名よりも呼ぶ回数が多いかも。

 

「ミリアム……良い子だから、わたくしに全て委ねなさいね? ひとりで行動なんてしてはダメよ」

 

「ひぇん……! ビジネスモードのフラウさま、メロすぎる……♡」

 

 わたしたちのお仕事は、いわゆる『百合営業』……。

 

 って。

 なんなのそれって思うかもしれないけど、これ以上に的確に表現できる言葉を、わたしは知らない。

 

 ひとつだけ言えるのは、任務中のF様はとっても優しくてデロ甘で。

 日々課せられるこの囮ミッションは、下っ端貴族令嬢だった頃よりもはるかに幸せな――わたしの生きがいになりつつあるってこと!

 

 ちなみにわたしのエロピンクと揶揄されそうな髪色は儚げな銀髪になってて、フリル多めなのに際どいスリットの入った白いドレスを着せられているけど、断じてわたしの趣味ではない。

 F様コーディネートの『釣り衣装』に、文句なんてひとつもないですありがとうございます。

 

 

 ◆    ◆    ◆

 

「すごおい♡ さすがフラウさま……!」

 

 一般客に解放されたカジノみたいなエリアで、頭脳と知性とちょっとのイカサマで豪快に荒稼ぎするF様に、わたしは素でうっとりとする。

 

「ふふっ。可愛いミリアムの前だから、張り切ってしまったかしらね?(そこまでくっ付かなくても良いでしょ……! 歩きにくいのよ!)」

 

 夜会用の開いた胸元をF様のしなやかな腕に押し付けて、周りの男たちに質感をアピールしながらまとわりつくと、銀髪を撫でるふりをしてF様がわたしの耳をつねった。

 

「(い゙っ……たぁい。ダメですよ、任務として正当な距離なんですから♡)かっこいい……♡ けどぉ、ミリアム……もっとお金が動くところが見たぁい♡ ねぇダメ? フラウさまぁ……」

 

 参考資料と照らし合わせて目星を付けていた、『賭博場VIPルームの常連客』の一人である若めの伯爵に似た男が、さっきから物欲しそうな目でこちらを見ていたけど。

 仮面のせいで、本当に資料の人物なのか確証が持てないでいた。

 

「仕方のない子ねぇ? ……そこの貴方。"地下"への招待状はどうすれば手に入るのか……教えて下さらないかしら」

 

 F様は、つい30分ほど前に特別室から出てきたばかりの小太りの中年おじさんっぽい男にターゲットを絞ったようで、腕にわたしを貼り付けたままそろりと小太りおじさんに近寄った。

 

「ん……? 地下に行きたいのかい? どうしてもって言うんなら、教えてあげてもいいけど……」

 

 おじさんはごくりと唾を飲み込んで、わたしたちの胸元を横目でチラチラ見ていたけど、多分バレてないつもりなんだろうなぁ。

 見せるための衣装なんだから、ちゃんと機能してるなってだけで別に不快でもないんだけど。

 

(視線がキョドってて面白いから、もっと押し付けちゃおうかな♡)

 

「あら……。なにか?」

 

 おじさんの思わせぶりな言葉にたおやかに返しながら、F様はわたしの肩に手を回して抱き寄せる素振りでグッと押し留めて、貼り付きレベルの強化をキャンセルした。

 

(ちぇ〜。つまんないのぉ……)

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

全11ページ

完結まで毎日更新いたしますので、ぜひお付き合いくださいませ♪

 

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