第43話:最後の磨き残しと「自分自身の洗浄」
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第43話、ついに物語は「清掃」という概念の究極点へと到達します。
運命の書き込みすら拭き消し、完全なる平穏を手に入れた世界。しかし、全てを磨き上げたフェイトの鋭い眼光は、ただ一点、どうしても許容できない「異物」を見つけ出してしまいます。
それは、世界を美しくしすぎてしまった自分自身の存在。
弟子たちの制止を振り切り、フェイトが自らに下す最後の「清掃指示」とは?
感動と衝撃、そして一縷の香りが残る、シリーズ最大のクライマックスをお見逃しなく!
「世界の終わり」という名の白き虚無を、文字通り雑巾一枚で拭き消したフェイト。王都の空には、システムによる強制終了の跡形もなく、ただ穏やかな夕映えが戻っていた。
管理者の悲鳴にも似たノイズが空の彼方へ消え去り、世界はついに「神の予定」からも「原初の不浄」からも解放された、真の意味での独立を果たしたのである。
「……終わったな、師匠。俺、今ならどんな運命でも、窓ガラスの曇りくらいにしか思えません」
肩で息をしながらも、誇らしげにモップを杖にするヴォルグ。その隣では、ガウス将軍が黄金のバケツを抱え、勝利の涙で床を汚さないよう必死に堪えていた。
だが、フェイトだけは、一人静かに自分の右手のひらを見つめていた。
「……いや。まだだ。世界をこれだけ磨き上げ、運命まで拭き取ったというのに、どうしても一点だけ、俺の目が許容できない『最大の磨き残し』がある」
フェイトの言葉に、場が凍り付いた。
ヴォルグたちは慌てて周囲を見渡す。しかし、そこには一粒の塵もなく、風すらも殺菌済みのような清涼さを保っている。王宮の壁も、街路樹の葉も、分子レベルで整えられ、これ以上の清浄は物理的に不可能に思えた。
「師匠、どこですか!? その汚れは……! 俺たちが、俺たちが今すぐ根こそぎ……!」
「無理だ、ヴォルグ。それは、お前たちには落とせない」
フェイトは静かに歩き出し、離宮の最上階にある「真実の鏡」の前に立った。
鏡に映っていたのは、端正な顔立ちに一切の乱れもないエプロン姿の男。だが、フェイトはその鏡の中の自分を、冷徹なまでの嫌悪を込めて凝視した。
「……この俺だ。この俺自身こそが、今のこの世界において、唯一にして最大の『異物』であり、『汚れ』なんだ」
衝撃が走る。
フェイトは淡々と続けた。
この世界を浄化するために、彼は異世界の知識を使い、概念を書き換え、神々の領域を侵食してきた。その過程で彼が積み上げた「清掃という名の暴力的なまでの魔力」と「世界の理を捻じ曲げた履歴」。
完璧に調和し、自立し始めた「新しい世界」にとって、その創造主であり破壊者でもあるフェイト・クリンリネスという存在は、あまりにも巨大で、あまりにも異質な、拭い去るべき「過去のシミ」となっていたのである。
「世界を愛し、綺麗に整えた。ならば、その最後の手順は決まっている。……掃除が終わったら、使った『道具』と、作業員の『足跡』を消す。それがプロの仕事だ」
「待ってください、師匠! それじゃあ……師匠がいなくなっちゃうじゃないですか! そんなの、そんなの掃除じゃない! ただの……!」
ヴォルグが叫び、フェイトの腕を掴もうとする。だが、フェイトの体はすでに、彼自身が放つ「究極の洗浄光」によって、端から透き通り始めていた。
彼は自分自身の存在という概念に、最強の漂白剤をかけたのだ。
「悲しむな、ヴォルグ。汚れのない世界に、掃除屋は必要ない。俺が消えるということは、この世界がようやく『俺の手を借りずに綺麗でいられる』ようになった証だ。……これこそが、俺がずっと求めていた、究極の快適生活なんだよ」
フェイトの姿が、光の粒子となって霧散していく。
彼は最後に、呆然と立ち尽くすミレーヌと、涙を流す弟子たちに向けて、この世界に来て初めての、心の底からの満足げな微笑みを浮かべた。
「……あとの仕上げは任せたぞ。……埃一つ、残すなよ」
光が弾け、離宮のテラスには、一足の使い古された白い手袋と、一滴の磨き残しもない、完璧に静謐な空気だけが残された。
「掃除屋フェイト」は、自らを完璧に拭き取ることで、その生涯で最も偉大な「清掃」を完遂したのである。
——だが、物語はここでは終わらなかった。
すべてが消え去ったはずの虚空に、ふわりと、ラベンダーの香りが漂った。
第43話をお読みいただきありがとうございました!
「完璧な掃除とは、掃除した形跡すら残さないこと」……そんなフェイトのストイックすぎる美学が、最悪にして最高の形で結実してしまいました。自分自身を「最後の磨き残し」と断じる彼の姿は、まさに清掃という名の修羅そのもの。
ヴォルグたちの叫びも虚しく、光の中に消えていったフェイト。しかし、彼が残した「埃一つ、残すなよ」という言葉は、残された者たちにとって何よりの聖遺物となったことでしょう。
……とはいえ、このまま終わる「フェイト」ではありません。最後に漂ったラベンダーの香り、それが何を意味するのか。
物語はいよいよ、次回「最終回」を迎えます。
フェイトが消えた後の世界で、何が起きるのか。そして彼の「究極の快適生活」の真の結末とは?
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