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【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

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二十二話 悩み

城の大広間で使用人たちとともに並んで待っていると、大きな扉が開かれ、ヴァルクを先頭に騎士団の精鋭騎士たちが晴れ晴れとした顔で歩いてきた。

ヴァルクは我が子を肩に担ぎ、歓声に包まれたヴィータは満更でもない顔をしている。


「長旅ご苦労様でございました」


アメリアがヴァルクを迎えると、彼はヴィータを下ろし、アメリアの腰に手を回した。彼女が何か言うよりも早く頬を寄せ、耳元で呟くとさっと離れた。

その言葉にアメリアの顔は赤らんだ。


「君もヴィータの世話、大変だっただろう。

着替えたい。手伝ってくれるか」


「ええ、もちろん。

ハロルド、騎士団の方達の労いをお願い。今晩はいつもどおり晩餐会を催すので、皆様お揃いでおいでください」


騎士たちから雄叫びが上がると、アメリアはヴィータにそっと声をかけた。


「少しの間、待っててくれる? お父様の準備を手伝ってくるわ」


「ええぇ~僕も! 行く!」


執事長のハロルドがヴィータをうまくあしらってくれ、ヴァルクとアメリアは夫婦の部屋へと向かった。

部屋の扉を閉めると同時に、ヴァルクの飢えた目がアメリアを捉えた。

瞬間、唇を奪われると息つく暇もなく抱き上げられる。

思考が止められるような快楽が始まるという期待が、彼女の中にはあった。

何度も繰り返される口付けの後に、ようやくつま先が地面へと下ろされる。


「君が不足して死にそうな気分だ……」


ヴァルクがアメリアの首下に顔を埋めると、先ほどのことが蘇る。


「だからと言って、あんなみんながいる前でやめていただきたいですわ」


「ただいまと言っただけじゃないか」


困ったように笑う彼に、なんと言えば伝わるのだろうか。

耳元でその低い声で囁かれると、嫌でも思い出すのだと言えばいいのだろうか。


「……ヴィータが部屋に突入してくる前に、着替えてしまいましょう」


「それはそうだな。

さっきも城の塀の上から降りてきて、肝を冷やしたぞ」


「ええっ!!

なっ……なんで止めてくださらないのですか?!」


「止めろと言われても……気づいた時には塀の上で、慌てて部下たちを向かわせようと思ったら、飛び降りてきたんだから、どうしようもないだろう」


「そんな……皆にも見られていたなんて」


「ノルディアの者は皆、ヴィータのことはわかっている」


「……それはそうですけど」


「いい加減、誰か他の者の力を借りたらどうだ?」


ヴァルクが鎧を脱ぐのを手伝いながら、アメリアはその言葉の意味が鎧よりも重いことを感じていた。


私には……ヴィータを教育する力はないということかしら。


前世で三人の子を育てたという自負があったが、平民と領主の子は違う。

それはとても大きな差だった。

平民だったときは、周りの手を借りることに何一つ戸惑いも抵抗もなかった。

仕事で忙しいときに、近所の人が手を貸してくれることもあれば、逆も然りだった。

同時に、親や家庭が厳しい環境であることを子どもたちも理解していた。

成長とともに、煩わせないようにと配慮が出来るようになっていった。

長女が弟たちの面倒をよく見てくれることに申し訳なさを感じながらも、どこかでそれが当たり前のように思っていた気もする。

自分がそうであったように。


だけど、ヴィータは違う。


衣食住が整い、何不自由なく暮らしていける。

誰もが彼を気にしてくれる環境。


それは本来、祝福されるべきことだ。

けれど同時に、彼から「我慢」や「遠慮」を学ぶ機会を奪ってはいないだろうか。


アメリアは手を止め、鎧の冷たい金属に映る自分の顔を見つめた。

母として、領主の妻として、そしてこの国に生きる一人の大人として――

どこまでが自分の役目で、どこからを委ねるべきなのか。


「……あなたは、ヴィータを誰かに任せたいと思っているの?」


ぽつりとこぼした問いに、ヴァルクは少し意外そうな顔をした。

やがて真剣な眼差しで彼女を見る。


「君から奪いたいわけでも、誰かに任せきりにしたいわけでもない。

だが……あいつはただの子どもではない。

いずれはノルディアを治める立場……それ以上を求められる可能性もある」


その言葉に、アメリアの心臓が大きく脈打った。

ヴィータはヴァルクの息子だ。

だけど……その魂はアメリア王女なのだ。

それは私だけが知る真実なのに。


「……どういう……意味ですか?」


そう答えると、ヴァルクは何も言わず、ただ彼女の額に短く口付けた。


「夜に話そう……。

今はさっさと支度して戻ったほうが懸命だ。

ヴィータが待ちきれずに、またどこかに登らないうちにな」


苦笑まじりのその言葉に、アメリアも小さく息を吐いた。

子どもが産まれてからも、彼はいつもアメリアの気持ちを優先してくれた。

乳母をつけるべきという言葉を押し除け、寝室に子ども用の寝台を用意して、いつでも育児出来る体制を整えた。

夜中に泣く赤子に自分も目を覚ましてしまうというのに、文句を言わないどころか、アメリアが疲れて目覚めない時は、ずっと抱っこしてあやしてくれていたりもした。

そして、頑なに一人で子育てを完遂しようとする妻の意思を傷つけることなく、こっそりと手助けをし続けた。


ヴァルクが冬の間、王都から帰って来られなかったことも、

彼がヴィータのことに口を出したことも、

それはきっと、何か大きな理由があるのだろう。


不安な表情に気づいたヴァルクは、もう一度アメリアを抱きしめた。


「そんな顔をするな……ヴィータが心配する」


「私の気持ちに気付けるのは、あなただけです」


「ふっ……それはどうかな。君は思っているよりも、ずっと顔に出てるからな」


膨れっ面でヴァルクを睨むと、彼の大きな手で頬を包まれる。

そしてゆっくりと近づいてくると同時に、吸い込まれるように目を閉じた。


「ちちうえーーーー! はやく王都での話を聞かせてぇ」


ドンドンと扉を叩く音で、頬に触れていた温度は無くなり、予想していた温もりも得ることができなかった。

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