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【最終章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!  作者: カナタカエデ
第三章

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二十一話 雪解けの庭園

雪解けの季節、城の庭園には雪解け水と春の陽気で、花々が目を覚ましはじめていた。


その場所を駆け抜ける小さな少年を捕まえようと手を伸ばしたものの、まるで猫のようにすり抜け、一瞬で視界から消える。


「ヴィータ!!!

いい加減にしなさい! もうお父様が帰ってくる頃よ!」


大きな声を張り上げてみても、葉が擦れ合う音が風に乗って聞こえるだけで、目的の主からの応答はない。


「アメリア様? 大丈夫ですか」


後ろから声をかけたのは、大きなお腹を抱えたシーリーンだった。


「やだ、来なくていいわよ!

あなたは休んでいて。もうそんな大きなお腹で、どうしてまだ働くのよ」


慌てて座るように庭園の椅子へと導いた。


侍女のシーリーンは、一年ほど前に庭師のワトソンと結婚し、妊娠……すでに臨月に入っていた。


「ヴィータ様はまたかくれんぼですか?

アメリア様お一人では大変でしょう。そろそろ教育係をつけてはいかがですか」


「それは……わかっているのだけど、なかなかね」


王族出身のアメリアが自ら子育てすることを周りが不思議に思うのは理解していた。

それでもあの子を育てるのは自分しかいないと思うと、乳母も教育係もつけることができず、シーリーンの手を借りながらも五年の月日が経っていた。


「は・は・う・え~~!」


突然テーブルの下から現れた男の子に、アメリアとシーリーンは驚きの声をあげた。


「ヴィータ! いつのまにそんなところに?」


「びっくりした? びっくりした?」


「あははッ、さすがはヴィータ様です」


「まったく…座りなさい!!」


銀色の髪に灰色の瞳、日焼けした肌に、五歳とは思えない身体能力を持つ子ども。

それがアメリアとヴァルクの息子、ヴィタリス・ストーンだった。

城に住む誰もが彼を親しみを込めて『ヴィータ』と呼んでいた。


「父上はいつ帰る?」


「今日中に着くと連絡がありました。その前に、きちんと今日すべきことを終わらしましょう」


「すべきこと? なに?」


「まずは勉強、そして乗馬ですね」


「えっ! 今日乗っていい日なの?!」


「勉強が終わってからね」


「ふぁーい」


しぶしぶとテーブルの下から出てくると、シーリーンの隣に座り、顔を突っ伏した。

その様子がまたしても彼の愛嬌を感じさせ、アメリアは微笑む。


紙と鉛筆を用意すると、ヴィータはひったくるように奪い取り、すでに習った文字をつらつらと書きはじめた。

どれほど嫌がったり、遊び回っていても、最後には必ずやるべきことをするのは彼の性格なのだろう。

捕まえるための時間さえなくなればもっと楽になるのに……そう思っていても、日課のように逃げ回る彼を探しては捕まえる日々を送っていた。


「まあ、すごい。ずいぶん文字を綺麗に書けるようになりましたね」


「でしょ。シーリーンはわかってるね」


ニヤリと笑う息子に、アメリアは呆れたように溜息をついた。

彼の調子の良い性格は一体誰に似たのだろう。


一刻ほど経った頃、外門から領主の帰還を知らせる笛の音が鳴り響いた。

目の色が輝き、顔を上げた息子を止める術がないことはもう知っていた。

アメリアとシーリーンが目を見合した瞬間、もう目の前に座っていたはずの少年は消えていた。


「まったく……本当に」


「まるで神の子みたいですわね」


「神の子?」


シーリーンの言葉に首を傾げると、すっかり穏やかになった彼女が優しく微笑んだ。


「ご存じありませんか? ロキア王国の初代国王の昔噺ですわ。


とても貧しい村に、ひときわ勇敢な娘がいました。ところが彼女はある日、父親がわからない子を妊娠します。

生まれた子は不義の子として忌み嫌われ、三つのときに村人にひとやま越えた先で捨てられました。

母親は一晩中、村の入り口で泣き崩れたものの、朝日とともに小さな子が戻ってきて、母親にこう言ったそうです」


ごくりと喉が鳴るのが聞こえそうだ。昔噺を語るシーリーンとは反対に、アメリアの心は穏やかではなかった。


「なんて……言ったの?」


「おなかすいた~……と」


「お、おなか?」


「はい。

そして、村人は毎年のように彼を捨てに行きました。

山をひとつから二つ先へ、三つ先へと増やしても彼は戻ってきました。いよいよ恐ろしくなった村人は、捨てに行くのをやめました。

すると十五の年に、こう言ったのです」


「私はこの村を出る。母上を大切にしろ。もしなにかあれば、たとえどこにいても必ず駆けて戻ってくる」


「まあ……」


「村人たちは彼の言ったとおり、決して母親を蔑ろにはしませんでした。

そして、彼がロキアを治めた時、村の者たちは彼を神の子と讃えたのでした」


「初代国王を讃える話ってことね……ヴィータは甘えっ子だから、とても山を越えて戻ってくるとは思えないけど」


「そう思っているのはアメリア様だけですわ。

たった五歳でノルディアの広大な領地を馬で駆けることができるのは、ヴィータ様だけです」


「それは……ヴァルクが赤子の頃から連れ回してるからで……」


そう呟き、外門の方へ視線を向けた。

出産後は領地にいる時間を増やすため、外地での仕事は部下たちに任せることが増えた彼も、国王からの呼び出しには応じるしかなかった。


はじめて長く離れた父親の帰還に、ヴィータが駆け出したくなるのも理解できる。

同じように、ただ彼に会える喜びに走り出せれば、どれだけ良かっただろう。


アメリアは庭で静かに手を握り、微かに残る不安を抱えた。


息子が五歳になり、アメリアは二十八歳になった。それは、前世の王女がその短い人生を閉じた年。

平和な日々が、そっと終わろうとしていることを、彼女は感じていた。


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