シークレット
「少年~~~~~!!! 会いたかったよ~~~~!! 元気してた!? 怪我してない!? 順調に力はつけていたかい!?」
「いや、いらないいらない! そういうのはもう良い! 似たようなことさっきやったから!」
「ちゃんとご飯は食べていたかい? 風邪とかはひいてなかった? 勉強に困ったりもしていなかったかい?」
「もしかして俺の親とかだったりする感じ?」
実家に帰った時の学生が受けがちな質問を連発してくるアテナ先生だった。
相変わらず以上の、強烈な圧を伴っており、若干引いてしまう。
会わなかった分だけ、何かしらのエネルギーがチャージされてんの? みたいな爆発具合だった。
やっぱり毎日会わないと、普通の会話が出来ないのかもしれない。
抱きしめられそうになるのを回避しながら、切実にそう思った。
「え? せんせーと毎日会いたかったって? もう、仕方のない子だなぁ、きみは……」
「頬を赤らめながら無理ある捏造し始めた! 怖すぎるだろ」
「大丈夫、すぐ怖くなくなるよ」
「怖さが二段階くらい上がりましたよ、今」
これ以上物理的に距離を縮めるのはやめよう、と固く誓う俺だった。
何をされるか分かったものではない。
ただでさえ、俺は実力的にこの人に敵わないのだ。
「何をイチャついとるんじゃ、お前様は……」
「今のがイチャついてるように見えたのか? 本当に?」
「うわっ、急に据わった目で見てくるのはやめんか! 普通にビビるじゃろ!」
ちぇい! とペシペシ蹴って来る魔王だった。
何度見ても「これが……魔王か……」という気持ちになってしまうな。
このままでは殺されてしまう……と怯えていた俺がマジな馬鹿に見えてくるのでやめて欲しかった。
もう少しこう……威厳とか保っててほしい。
いや、実際に戦った時のこいつは強すぎるくらい、強かったんだけど……。
「それより、他のメンバーとかは呼んでないんですか? 緊急だって聞いたんですけど」
「ん~? うん、そうだね。せんせーが会いたかったから、呼び出しちゃった……って言うのは半分冗談なんだけど」
「半分はガチなんだ……」
この人、俺のこと好きすぎるだろ……。
あんまりそういったことを言われ続けると、変に絆されそうになって困る。
「学園外のメンバーは結構忙しいからねぇ、順次伝えていく予定さ。だから、まずは少年に……ってね」
「レア先輩たちを、呼ばなかった理由は?」
「質疑応答は一人の方が楽だから、かな。それに、二人っきりが良かったし」
「ナチュラルに余を除外するのはやめんか! 今日の主役は余じゃろ……!?」
「は? 主役はいつだって少年なんだが……!?」
ピョンピョンピョーン、とジャンプする魔王と睨み合うアテナ先生だった。
信じられるか? この二人、原作だとラスボスなんだぜ……。
あまりにも馬鹿みたいな光景すぎて、つい忘れそうになってしまうのだが、この二人が揃ってるとか、それだけ言うと緊張感が走りまくる状況であった。
普通に考えて、この並びは俺が殺されるやつだろ。
何でそこの間で、中学生みたいな主張をぶつけ合ってんだ……。
「どうでも良いんですけど、結局本題は何なんですか?」
「ん、そうそう、それなんだけどね──」
「──来ておるぞ、二つ目の破滅が。もうそこまで迫ってきておる」
アテナ先生の言葉を引き継ぐように、魔王はそう言った。
いつの間にやら椅子に座っており、実に偉そうに足を組みながら。
余裕ありげな表情で、煽るように。
アテナ先生からガンガン睨まれているのを、ちっとも気にすることなく。
「既に、余の身から第一の破滅は取り除かれた……しかし、それでも残滓くらいは残っておるのじゃろうな。分かるんじゃよ、他の破滅の、気配とでも言うべきものがの」
「……それは、どこまで分かってるんだ?」
「生憎、これだけじゃ。何時来るか、どこに来るか……そういった、具体的なところまでは分からぬ。ただ、近づいて来ておるということだけは、分かるという話じゃの」
「ふぅん……カスのドラゴンレーダーみたいなもんか」
「良く分からんが侮辱されてることだけは分かるからの!?」
完璧なしたり顔を崩して「んがーっ!」と吼える魔法だった。実に平和だな、思わず考える。
というか、校長やアテナ先生が魔王を生かしてるのは、これが狙いだったのか……。
アテナ先生の未来の知識はもう、ほとんど役に立たない────といのも、彼女の知っている未来と今は、既に変わってしまったからだ。
同じタイミングで、次の破滅が来るとは限らない。
まあ、だからと言って、弱ってるとは言え魔王を飼うなんて、ぶっちゃけ正気じゃないと思うが……。
アテナ先生は事情が事情だし……って感じだが、魔王はまた別だ。
さっさと駆除した方が今後の為になる────いや、もちろん、味方に出来るのならば、心強くはあるのだろうが。
普通じゃないからなぁ、校長もアテナ先生も……。
「もう少し、詳しいことは分かんないの? 例えば……一か月とか、二か月とか、それくらいの曖昧さでも良いから」
「ん……こればっかりは、感覚的なものじゃからのう。今すぐではないが、半年以内には来る……といったところじゃろうな」
「ふぅん……」
意外と当てになるな、と思った。
少なくとも半年以内に来る、ということが分かるのは大きすぎる。道理で最近、また校長が学園にいないことが増えた訳だ。
色々と、準備しているのだろう。
「それじゃあ、もう一つ質問」
「ふん、何でも申すが良いわ」
「今のが、全て真実である証拠は?」
「……? ……!! もしかしてお前様、余が嘘を言っているとでも言いたのか!?」
「むしろ何で、その可能性を考慮されないと思ったの?」
誰もが、一番最初に疑問に思うところだろうが……!
言っておくけど魔王の言葉とか、信頼に全く値しないからね?
歴史的に見ても、長いこと敵対し続けてきた、言わば人類の敵である魔王に、信憑性とか無いから。マイナスぶち抜けてるから。
「はぁ~……やれやれ、これだから人類は嫌なんじゃ。疑い深くて、面倒臭い」
「元人間だったやつが、良く言うな……」
「魔王として過ごした期間の方が長いからのう……故にこそ、余は敢えて言うぞ。余は真実しか話しておらん、とな」
「根拠は?」
「ある訳ないじゃろう……」
そもそも、と魔王は言葉を付け加える。
見るからに仕方ない、といったポーズで、ため息交じりに。
「自分より強い者には従うのが道理じゃろうが……。封印なんて狡い真似でなく、弱っていたとは言え、真正面から打ち破られたのは、初めてじゃったぞ?」
「……えっ!? そんな野生の獣みたいなルールでお前、生きてたの!?」
「流石にそれは聞き捨てならん侮辱じゃからな!? 特異点とは言え、マジでハッ倒すぞお前様ァ!」
ガターンッ! と椅子を倒しながら、ファイティングポーズをとる魔王だった。
お、やるか? とこちらも構えようとすれば、不意にアテナ先生が言う。
「ああ、それ。ちょっと聞きたかったんだけど、良いかい?」
「む、なんじゃ……」
「きみは少年のことを、特異点って呼んでるけど、それってどういう意味なのかな」
スッと目を細めたアテナ先生に対して、魔王は「ふん」と鼻を鳴らした。
「何じゃ、知らんかったのか……いや、それも無理ないのかの」
「……というと?」
「こやつはどう見ても異常じゃろうが。魔力が多い、頭が良い、才能がある……そういった意味では無く、存在からして異質じゃ。この世のものとは思えんほどに」
「…………」
「あらゆるものにおいて例外。世界の破滅にも、創造にも立ち会う何か。世界が変わる時、必ず起点に在る者。そういった存在を、七つの破滅はそう呼ぶ────ま、ざっくり言えば、未知そのものってところじゃな」
また一つ、賢くなれたのう? と笑う魔王に対して、少しだけ考えさせられる。
今まで何となく、なあなあで流してきたのだが。
俺は一体、何者なのだろう────と。




