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泥沼地(コルパ)

奢った。でも最初期は36Pとかだったのがこんなに読んでくださる人がいてとても嬉しいです。継続して頑張っていきたいと思います。

 ――――さらに移動を続けて何度目かの小休止。移動の間にある程度服が乾いてくれたため着替えることができた。それにゴキブリ以外にもノーチェ曰く食べられる花だというアマゾネスイビーとかいう食虫植物も口にした。いやに丸っこくて、なぜか牙みたいのがついた植物で、味はとてもまずかったが舌に痺れなどはない。信じてないわけではないが毒はなさそうだ。褒めるなら食感だけはよかった。


「……ノーチェ。移動する準備はできたか? どうせ洗ってもすぐまた汚れるぞ」


 休憩中、不意に自分の身体の臭いを嗅いだノーチェはしばらくの間、頭やら脇やらを雨溜まりで洗っていた。どうしても気になったらしい。


「それでも気になるものは気になるんすよ……! だって! ヨースケこれずっと嗅いでたってことっすよね!?」


(それはお互い様だろ)


 バシャバシャと念入りに真っ白な髪を撫でて、何度も自分の腹部を嗅いで、もどかしそうに俺を睨む。見るなと言いたいのかもしれないけれど、昨日雨溜まりで襲われた以上それは無理だった。俺が耐えられない。


「どうせ臭い分からなくなるぞ。せっかく虫よけができたんだからな」


 あのゴキブリの刺激臭が漂い始めてからいつのまにか周囲の虫が消えていたので非常食を集めるがてらこいつらの液体を使ってないペットボトルに詰めた。もげた肢とか混ざってるけど、効力は確かだ。


(そういえば前もポケットの中に詰めてたらそっち側の脚だけ刺されなかったな。もっと早く思い出せばよかった)


「背中のほう手ぇ届かないから塗ってもらっていいっすか?」


「了解。すぐに塗る」


「食いつき早いっすね……」


 初日に見たときよりも肉付きはさらに華奢になった褐色肌の背中。生えている翼が煩わしいからか彼女はシャツを普通に着ようとはせずに胸の部分だけを隠すように巻いてるが付け根の部分の布地は浮いている。


 ドギマギする罪悪感を押し殺しながら、酸味のあるゴキブリの液体を彼女の背に塗っていく。肌は滑らかで熱も通常通りに戻っていた。


「進みながら拠点にできそうな場所も探そう。洞窟か、ときどきある樹が少ない開けた場所で、水に沈まない……というより小高い場所がいいんだけどな」


 少しでも地形的によろしくないと水に沈んだ形跡がある。この時間帯こそ浸水もなく歩けている場所も樹をよく見ると水位の痕が見れたり、特定の場所に落ち葉やら枝やらが流れ着いたような残骸がある。そういう場所はどこもぬかるんでて、足を進めるにも泥を持ち上げるみたいで無駄に疲れる。


「……ノーチェ、ストップ。変な生き物がいる。しかも沢山」


 ズキリと慣れようにも慣れない歪な痛みが頭を突き刺す。意識して注視すると思いのほか距離が近い。咄嗟に身をかがめた。鬱蒼とした樹木と蔓の向こう側。雨溜まりの流れの関係か木が倒れ、泥と枝葉が堆積した泥沼地でいしょうちに数匹ごとの別種の群れが同じ場所に集まっていた。


 銀色の堅そうな外皮をしたサイらしき生物。いわゆる陸亀の類。全身に棘を生やしたヤマアラシみたいな奴。最初こそ何をしてるか分からなかったが、泥を食べてるのか? ……理由はわからない。


「……銀鎧犀シルバーライノスとよくわからない亀。あとは針山鼬トゲトゲっすね。攻撃しなければ襲ってこないはずっす。あいつらは天敵が少ないから」


 耳元で囁くようにノーチェが動物の名前を俺に教えてくれた。彼女も状況を把握してか草陰に隠れるように屈んで様子を窺っている。襲ってこない確信があるのか、緊張こそあるけれどフグの怪物と対峙したときのようなひりついた感覚はない。


(ならどうして頭痛がした……?)


 あの痛みは間違いなく俺が死んだ原因に近づいたときの警鐘だ。フグの怪物、ミズカマキリ、低体温、衰弱。苦しくて、震えが止まらなくなるような何かが起こる前触れのはずだ。


「ふふふ……ヨースケ、これはチャンスっすよ。シルバーライノスはきついっすけど他のあの亀とトゲトゲなら私達でも捕まえられるはずっす。血肉なら魔力補給効率もそうっすけど力がつくっす」


「……待った。できれば様子を見てからのほうがいい。頭痛がした。……あの泥地の何かが――わからないけど、危険だ。確か少し離れた場所に草を刈れば野営できる程度に開けた場所がある。まずはそこの整備を先にしよう」


 ズキズキと心臓の脈動に合わせて額の血管が痛む。ふらついていると手を握られた。……握り返す。指の感触が伝わるにつれて痛みが引いていく。あの泥地から距離を取ったのもあるかもしれない。


「はは……記憶があるってのも最悪の気分だがありがたいな。俺が先頭に立ったときが怖くて仕方ないが……フー! まだ生きてるぞ」


 動物が集まっていた泥地を迂回するように記憶の場所へ向かった。奇妙な確信もある。急げばまだ火種もあるはずだ。



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