イトリスを歩く
「なにかお話し中でした?」
「ああ、こいつの新しいスキルについてちょっとな。鍵開けとか罠解除のためにジョブを取るか悩んでるんだとよ。得意な奴がパーティメンバーにいないらしくてな」
初対面でも普段通りで話しかける姿に、カマセーヌのコミュニケーション力の高さを感じる。
「なるほどねー。こういうアイテムもあるよ?」
そう言ってフローデが取り出したのは小さな鍵だ。
「なんですか?これ」
「『開錠鍵』。簡単な鍵なら一定確率で開錠できて、何回か使うと壊れる」
「おお、そんなものもあるんですね」
カマセーヌの説明では出てこなかったアイテムである。手に取ってしげしげと眺めていると、カマセーヌものぞき込んできた。
「あー、こいつが『開錠鍵』か。初めて見たぜ」
「カマセーヌ様も知らないアイテムですか」
「ダンジョンの宝箱でゲットできる『簡易開錠鍵』ってのは知ってるんだが、そいつは一発で壊れる。それの上位版があるってのは聞いたことあるんだが……これもダンジョンドロップか?」
「ううん?これはイベント入手。あれ?こっちの町では有名じゃないのかな?クリアしたら1日1個買えるんだけど」
コデニナの町ではこのアイテムを買うことができたようだが、ケイディアは買える場所を知らない。カマセーヌも同様に知らないようで首をひねっている。
「うーん、ちょっと見に行ってみる?」
フローデに連れられ、ケイディア達はイトリスの町を歩いていく。
「……この絵面は事案じゃねえのか?」
「先輩、なんでそんなキャラにしたんですか……」
「小さいはかわいい。かわいいは正義なんだから仕方ないでしょ?」
見た目小学生女子が1人とそれに付き従う男2人という図は結構な通報ものである。
カマセーヌも『開錠鍵』の出どころには興味があるとのことで、同行している。
「あれ?ここ通れないな……コデニナとはちょっとずつ、細かいところが違うからいろいろと新鮮だよ」
「へぇー。町によって街並みとか違うんですね」
「どの町も造りはおおよそは一緒だが、細かい路地とかは違うらしい」
大きな通り、商業区などの区分け、武器屋や門の場所などはどの町も同じ位置にある。だが、細かい路地や住んでいるNPC、壁の色や小さなお店などは町ごとに違っている。
大通りから外れ、右折左折を何度かしたところでフローデが立ち止まる。
「んー?無いなぁ」
「え?」
「えっと、コデニナだとあそこに飲み屋、というかバーみたいなところがあるんだけど……無いね」
確かに辺りを見回しても、バーらしき建物は見当たらない。
「パッと見、ありませんね。ここら辺なんですか?」
「そう。眼鏡をかけた初老のバーテンさんがオーナーで、お客さんはほとんどいないんだけど、いつも酔いつぶれたおじいさんが奥で寝てるの」
「うん?それならあっちのほうにある店じゃないか?」
どうやらカマセーヌはその店に覚えがあるらしく、先導して歩き出す。
「おお、さすがカマセーヌ様。俺なんかここらへん来たこともないですよ」
「まあここらは俺様のシマだからな。……いや、正確にはちょっと違うんだけどな?どっちかって言うと酒場みたいになってて、バーカウンターになってないし、オーナーのおっさんはいるが初老じゃないし眼鏡はかけてない。ただ、酔いつぶれたじいさんはいるからそこだろうな、と」
「んー、でもあのおじいさんはクエストには関係ないですよ?用があるのはバーテンさんのほうで」
「そうなのか。なら、ハズレかもしれねえなぁ」
ただ、他に手がかりもないため、ケイディアとフローデはとりあえずカマセーヌの後に続いて歩く。
しばし歩いてカマセーヌが立ち止まったのは、フクロウをかたどった看板がかかった建物だ。外観は喫茶店のようにも見える。
ここだ、と一言告げると物怖じすることもなく中に入っていった。
「邪魔するぜ」
「いらっしゃい……なんだカマセーヌか。ん?連れはいつもの顔とは違うな」
「おう、ちょっとな」
口ぶりからすると何度かはこの店に他のメンバーと来ているようだ。あの残念な名前の2人だろうか。
店内に入った彼らを出迎えたのは、オジサマという表現が似合う渋めのナイスミドルである。オールバックの黒い長髪がキマっている。
「コデニナとは違った感じのイケオジだ……トゥンク」
「なにトゥンクしてるんですか先輩」
「トゥンクするってなんだよ」
苦笑気味にツッコミを入れるカマセーヌ。何はともあれ、目的地と思われる酒場に到着した3人だった。
このゲームでは、一つの町で同じようなクエストをクリアしてたとしても、別の町でクリアした扱いにはなりません。登場するNPCも違いますし、クエスト内容も町ごとに少しずつ違う場合があります。




