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決闘……からの、出発準備2

次話です。少し間が空いてしまいました~~どぞどぞ。

「どう? 久々の外は」


 明くる日。一心は、カグツチと共にガンテツの鍛冶場へと向かっていた。道中、久しぶりに外に出る事になったカグツに、その心境を尋ねる。


「うむ。大分様変わりしてるの」


 この村は、かつて一心の祖母ユズリアルが生まれ育った場所である。となると、当然遥かな過去にカグツチが生きた場所でもあった。


「仲の良かった存在モノらも居ったんじゃが……」


 嘗て居た者達は、その大半が既に居なくなっていた。


「時の流れを感じるのぉ……。一心や、儂を大事にしろよ?」


「はいはい」


 一心の背によじ登るカグツチ。何だかんだで人恋しさを覚えたのだろう。一心の肩に首を預けるカグツチの頭を撫でながら、一心はふと思いついたことを提案する。


「婆ちゃんはさ、カグツって愛称付けてたんだよな? カグツチってどうしても俺には男ってイメージがあるし……俺も愛称付けていいか?」


「お、構わんぞ!? どんとかわいい名前を付けてたもれ」


 その提案はカグツチにとっても嬉しいものだったらしく、一心の背でぴんと背筋を伸ばすと、先ほどよりも首に回す手に力を込める。


 その上で、『早く決めよ、うりうり』などとのたまいながら、一心の頬に、己の頬を擦り付ける。


「じゃぁね……神楽カグラ、カグラってのが良いな」


 どうよと一心。すると気に入ったのか一心の背から飛び降り、カグツチは一心の前で回り始める。


「うむ、儂は今日今からカグラじゃ。良い名をもらった!!」


 ふわりと回転を止め、そう宣言するカグツチ――改めカグラ。一心はそんな彼女の様子に見とれていた。


「何か急に……かわいくなった?」


 言葉遣いは変わらない。相変わらずの儂に、~じゃ口調。けれど、そこに品が加わったとでもいうべきか、単なる少女が巫女となったというべきか、そこに神聖な輝きみたいなものが加わった。


 加えて、衣装もいつの間にか変わっていた。紅い衣なのは変わらない。しかし袖が長く伸び、浴衣の様な衣装から着物……それも振袖の様な物へと。


 あしらわれた白の蕾が儚さを演出し、紅き色合いが力強さと、優雅さ、そして上品さを

醸し出す。


「名はその者を現す。カグツチと言うのはあくまで儂の本姓を現す言霊。カグツと言うのはユズリアルが儂に対して付けた縛り。そしてカグラというのが、お主が儂に与えた縛りじゃ」


「縛り?」


「そうじゃな……所有権、イメージ、存在の定義。言葉で表すのは難しいが、名付けて初めて真の契約と言える……のかもしれん」


 何かが変わるのじゃ。儂自身にも分からぬ何かがな。そう言ってカグラは笑った。


「儂の姿形が変わったと感じたのならば、それはお主がそうあって欲しいという願いじゃな。我らは契約者の願いに大きく左右される。お主が儂に持つイメージかもしれん」


 更にそう言って、カグラは再び一心の背によじ登る。そして耳元で囁いた。


「んで、一心よ。儂はかわいいのか? ん? そう見えるのであれば、お主は儂にかわいくあって欲しいと言う事じゃ。なのに背丈が変わらんのということは、お主は儂に幼さとかわいさを求めていることになるのかの? お主ムッツリじゃな?」


「な!?」


「ついでに少女趣味なのかの?」


「な、あ、な……?」


 あまりの物言いに絶句する一心。考えてみてほしい。カグラは見た目10歳程度の少女だ。その少女が耳元で吐息を混ぜながら囁くのだ。その内容はさておき、ゾクゾク来てしまうモノがあった。


(や、やばい……目覚めそう??)


 一心自身は特にロリという性癖《趣味》は持ち合わせていない。好みは大きいよりも小さいだが、ぺったんこが良いという訳では無いのだ。手の平にすっぽり収まるか、少しはみ出すぐらい……それが至上だと感じている。


 そう、例えばルウェルのような……ついでにハルも多分それくらい……?


(い、いかん……思考が変な方向に……)


 そうなると、思い出されるのは、カグラと出会った時の光景。一糸まとわぬ姿のカグラ《幼女》とルウェル《少女》……


「あ……」


「ふむ、ふむふむ」


 体は敏感だった。この場はそうとだけ言っておこう。


「一心……お前何して……」


 ついでに、カグラのことを知り合いの娘と紹介されているガンテツが、それを見て何を思ったのかも、この場では割愛する。


「不幸だ……」


 そう言いつつも、一心が思い出された情景をしっかりと記憶領域に、それも最下層に"永久保存用"というフォルダを作ってそこに保存したことも。



 ◇  ◇  ◇



「にしても、周りには只の少女にしか見えないんだな」


 ガンテツの誤解? を必死に解いた一心は、その足でユズリアルの庭へと向かう。


「まぁな。儂は一応お主から代償を得て、この世に実体化しておるしな。元はユズリアルからの代償じゃったが」


 カグラは今、ユズリアルからの血の代償と、一心からの肉の代償(具体的には、左手、左胸、左目、左脇腹)を合わせて代償として得ていた。代償の量を思えば、ユズリアルの時よりも深く一心とつながっているということになる。


「ふぅん。やっぱそこ辺りが関係するんだな……。俺の目には、少女って言うより、巫女とか、何かこう……神聖さみたいなのがあって、普通の少女には見え無いんだけどな……」


「かわいくは見えるのじゃろう?」


「やめい」


 古傷――古くは無くごくごく最近の物だが――を抉るカグラの頭をぐりぐり乱暴に撫でながら、目的地に到着したので、そのまま転位門をくぐる。


 一瞬の浮遊感の後、ユズリアルの庭へと出た。


「ここもしばらくは来れ無くなるな……」


 王家の所有だが、元々は祖母の物であり、一心しか入れないような場所(武器庫や、研究所などの特別な施設は、ユズリアルしか入れないよう封印が為されており、現状入れるのは一心だけ)もあって、何時の間にか自身の所有地のように扱っていた一心。離れるとなると名残惜しい。


「まだ多少は先の事じゃろうに。それにすることもあるだろ?」


「そうだった」


 カグラに言われ、後ろを振り返る。そこにはガンテツ作の武器、鎧があった。


「さっさと魔道化作業を始めるとしますか!」


 そう言ってまずは刀を一振り手に取る。


「いい出来だな。手に馴染む……」


 軽く振ってみてその重心、鞘走り、重さを確認し、その見事な出来栄えに唸る。


「何時かは己で打てるようになりたいな……」


「なってもらわねば儂が困るよ」


 カグツチは火の神にして火の輝神。そして鍛冶の神である。一心《契約者》の打った武器防具が広く使われれば、その武器類に対する信仰や信頼が彼女の糧となり、力を取り戻すことにもつながる。


「見とれてないでさっさと始めたらどうじゃ?」


「わ、分かってるよ。ただ緊張して……」


 刀を魔道具へと変えるには、そこに魔紋を刻み、魔法を刷り込まなければならない。しかしガンテツの作があまりに見事だった為、一心は手を加えるのを躊躇してしまう。


「失敗してもその時じゃ。そうなればまたガンテツに打たせればよい」


「そんな簡単に……」


 そんな一心に年長者・・・としてカグラは助言を行う。


「よいか、何事も失敗無くして成長は在り得ん。失敗を恐れていては、その先の成功は掴めんよ」


「うぅ……何か失敗を前提に話してないか?」


「気のせいじゃろ? ほら、ルウェルの分も済まさねばらなぬ訳じゃし、ささっと終わらせい」


 何か釈然としない物があったが、カグラの物言いは、一々ご尤もだったので、気合を入れ直して作業を始める。


「魔力炉起動」


 体内の魔力の源を開放する。溢れ出る魔力が、体内の細胞全てを活性化させる。


「精霊眼発動」


 その魔力を左目に繋がる魔力回路へと流し込む。それによって発動する魔眼。


 一心の左目はカグツの一部である。それ即ち神の肉体《血潮》。カグラによって魔眼にまで昇華されたそれは、一心に精霊の世界を見せる。


「魔力の流れを確認。改めて……素晴らしい出来だな」


 精霊眼は、一心に目には見えない物を見せる。その一つは魔力であり、もう一つは物質の声。


「真の部分は柔らかく、刃の部分は硬く研ぎ澄まされ……理想通りだな。俺の方は……やっぱまだまだか」


 次に壁に掛けた一心作の刀へと視線を向ける。その目に映った刀は分子間の結合が歪で、場所により柔らかかったり、脆かったり、逆に硬すぎたりとガンテツの出来に比べるとその差は一目瞭然。天と地ほどの差があった。


「あたりまえじゃ。いくらお主(契約者)とて、長年の修練により身に付けられた技術には勝てん。精進あるのみじゃ」


「了解」


 ガンテツを当面の目標に定め。今は目の前の作業に集中することにする一心。


「術式に入る。まずは現在の形状を記憶領域へと記憶。続いて刀身への形状記憶術式……」


 一心が一々作業を口に出して言うのは、カグラへの確認の意味も込めてである。必要な段階を飛ばしたりしない為の用心であった。


「形状記憶術式……完成」


 刀の情報を一度記憶(・・)した後、およそ30分ほどの時間をかけて最初の作業が終了した。これは一般の魔道工学士からすると若干早く、ユズリアルに比べると相当に遅い。


 ユズリアル本人であれば、一心が今行った作業は10分程度で終わり、一般的な魔道工学師では45分が基準スタンダードといったところか。


走査トレース……転写」


 次に一心がしたことは、近くにあった鉄のインゴットを手に取り、そこへ魔力を込めることだ。


 それにより、一度記憶領域――脳内にある、カグラによって与えられ、拡張された領域のこと。他に演算を司る演算領域もある――に記憶されていた刀の情報が、目の前の鉄のインゴットに転写される。


 目の前で時をおかずに完成する一振りの刀。しかし――


「粗悪品じゃな」


「だね。これも要練習だな……」


 これが簡単に出来たら苦労はしないし、世の鍛冶師は職を失う。


 この時完成したのは、見た目こそガンテツの打った刀そっくりであったが、中身は全く別物の言わば劣化品であった。


「元が元だからな。それでも売ればそれなりの値段になるが?」


「売らないよ。もし簡単に折れて持ち手が死んだりしたら、寝覚めが悪すぎる」


 カグラの提案にそう答える一心。ただ、この時2人の認識は世間一般の認識からは多少ずれていた。


 まずガンテツの鍛冶師としての力量。それが田舎の村にいるのが不思議なぐらいに異常な程に高い。その為、劣化していたとしても一般的な刀よりかは出来が良かったりする。


 つまりそれなりでは無く、かなりの額が付くのだ。2人が知るのはまだ先のことだったが……


「それに、著作権というか、版権というか……盗作になるよな、これ」


 加えて、一心には日本人としての価値観が、根強く残っていた。


「一応予備として取っておくかな。何らかの理由で使うかも知れないし」


 そう言って刀を保管し、更に術式を続ける一心。


「次は硬化作業だね……」


 これにより刀は頑強になり、刃こぼれや折れるということが、|ある程度ではあるが、防げることになる。更に、先程の刀身への形状記憶術式で刀自身が姿形を記憶しているので、それを展開すれば、仮に折れたとしても元に戻せる。


「どう?」


「そうじゃな……」


 硬化の術式も終え、出来栄えを確認する一心。


「硬化は2割程度、形状記憶術式は6割と言ったところかの」


 これは、硬化による耐久値の上昇が2割、もし折れて修復された場合の復元度が元の6割程度という意味だ。


 この百分率の考え方は、便利だということで一心がカグラに教えた。


 ちなみにユズリアルだったならば硬化の効果は5割から6割、修復は9割程度まで可能だった。


「まだまだ婆ちゃんには遠いね」


「当たり前じゃ。そう簡単に追いつかれてたまるか」


 かつての契約者ユズリアルの苦労と努力を思い浮かべ、苦笑するカグラ。ただし、内心何時かは追いつく日が来るだろうと確信していた。


 ちなみに一般的な魔道工学士なら、硬化が1割にも満たず、形状記憶術式は4割あればいい方だ。つまり、一心はこの時点で既に一般的な魔法工学士のレベルを大きく超えていることになる。まさにチート。日々努力している者達にとっては、堪ったものじゃないだろう。


 更に、これら2つの術式は、あくまで初歩の術式であり、あまり使われることは無い。しかし一心やユズリアルレベルの術師の手にかかれば、非常に効果の大きい術式だった。


 もちろん、それを知っていたカグラが、一心に優先的に覚えさせたものだ。


「次は、分子間の結合を変数化して、入力と出力を設定と……」


 更に今度は一心が考えたオリジナルの術式を刻み込もうとする。しかし――


「あ、……あぁぁ!!」


 失敗。そして刀は一心の目の前で無残に砕け散る……


「し、修復……」


「やはり6割じゃな」


 結果。修復してはみたものの、先のカグラの言葉通りに、6割程度の出来栄えに劣化してしまった。


「どうしよう……」


「ガンテツに次の1本を願うしかあるまい。というか、この際数本まとめて頼んだらどうじゃ? いっそのことミスリル銀やヒヒイロカネ……はまだお主に早いな。素材を持ち込んで」


 一心がユズリアルに追いつく日は、まだまだ当分先の話のようである。


 そんな感じで一心は、自身やルウェル達の武器や防具、馬車へと手を加えながら時を過ごす。途中何度もガンテツの悲鳴や怒りの声を浴びながら、やがて出発の時を迎えるのであった。



始めるまではだいぶ躊躇っていた一心ですが、一度始めてしまえば躊躇は無くなるようです。

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