魔法行使
次話です。どぞ~
「歴代女王もやってたことなんじゃがな……」
あまりにも取り乱すルウェルと、対照的に静かに驚きを示し続けるアイリーン。どちらも驚いていることには変わりはない。何時までも続きそうだったそれを、いい加減終わらせるべくカグツチが口を開く。
「歴代さまも!?」
「うむ。というか降神術の神髄の一つじゃろうに」
呆れたように言いながら、降神術の神髄を語って聞かせる。
「よいか、降神術とはその身に神を降ろし、契約を交わすことで強大な力を手に入れる術の事じゃ。始まりは祭事や、信託による政治だったらしいが、いつの間にか軍事力としての側面が強くなった」
そこまで語ったところで、カグツチは2人を見る。
「ここまではさすがに知っておろう?」
「ええ」
「もちろん」
「ならば強大な力とは何の事じゃ?」
既にそこに答えがあるとカグツチ。
「気付いたようじゃな」
2人の表情から答えを見出したと判断したカグツチは、その先を続ける。
「力とは一つは知識。神の持つ知識を契約者に転写し、契約者はその知識を用いて奇跡を成す。文字通りの力についても同様じゃ。肉体を強化し、魔法行使に適した肉体に作り変える。言葉を選ばなければこんな感じじゃよ」
ただ、言うほど何でもできた訳では無い。
「神といえども万能からは程遠いからな。実際はほんの少し手を貸す程度でしかないんじゃよ」
ユズリアルは鍛冶師としての知識と才を与えられたに過ぎず、その力の大半は己が作る魔道具に頼っていた。
次代の2代目女王は、魔法に関する知識を与えられ、それを系統化し、広く扱えるようにした。
2人ともその成した業績の殆どは、己で努力した結果だった。
「結局最後に物を言うのは、本人のセンスと絶え間ぬ努力という訳じゃ」
そう言って話しを締め括るカグツチ。しかし――
「ちょっと待って……魔法を系統化したのって初代様じゃないの?」
「いや2代目じゃぞ? もともとユズリアルには魔法に関する才は無かったからな。その後2代目の業績を引き継いだ3代目が、確か最終的には確立させたんじゃったか」
次々明かされる歴代女王たちの秘密と偉業。例の如く当事者として語るカグツチの言葉は強い説得力と重みを持っていた。
「じゃぁ、一心の場合は魔法関係の知識や強化を?」
先程の光景を思い出し、一心もまた2代目、3代目同様に魔法に関する才があったのかとルウェル。しかし――
「一心の場合は……少し特別じゃの」
「どういうこと?」
これまで歯切れよく話していたカグツチが急に言い淀んだことで、また何かあるのかと身構えるルウェル。
「昨日も言ったがユズリアルと儂との契約の代償は、血じゃった。あ奴はとにかく頭が良くてな」
一見質問と関係のない言葉が返ってきたことに訝しむルウェル。しかし口を挟むことなく、とりあえず聞く体勢を取る。
カグツチが話す以上、何か意味があるのだと思って。
「血というのは継承されるもんじゃ。つまりあ奴は肉ではなく、血を儂に捧げることで、己の子、孫にまで儂の力を引き継がせようと考えたのじゃ」
「そんな事が……」
出来るのか。ルウェルはそう思ったが、しかし実際に初代の血を引く孫が、初代の契約神であったカグツチを継承している。一心の存在が、紛れも無い事実としてそれが可能であったことを示している。
「加えてあ奴が触媒に選んだのが火その物じゃったからな。普通は何か形ある物を触媒にするのだが、しかし儂に関してはそれが一番の正解かもしれん。何せ儂の本質が火の神じゃからな。触媒は降ろす神の本質に近ければ近いほど力を発揮する」
おかげで嘗てはほとんど制約なしに力を行使できたとカグツチ。
「その上で本体は安全な所に安置して、分体を連れていた……ですよね」
黙って話を聞いていたアイリーンも、ユズリアルの深謀ぶりに驚きを隠せない。ある種の興奮と、そして恐怖も覚えていた。
「ああ、剣も正解じゃよ。儂は火の神であると同時に鍛冶の神でもあるからな。そしてユズリアルは鍛冶と相性が良かった。魔道具作りの天才じゃからな」
祖母が選んだ触媒を聞き、それが正解といわれ、思わず視線を落としてしまった一心。なんとなく自分が不正解といわれた気がしたのだ。
そんな一心の様子を目敏く見つけ、すぐにフォローする所は、カグツチが一心のことをいかに気に掛けているのかという証拠かもしれない。
事実、現在カグツチの中では、一心とその他で明確な線引きがされており、優先順位が最も高いのは言うまでもなく一心なのだ。
「それで話を戻すがの。ユズリアルの血を色濃く受け継ぐ一心だからこそ、儂はその血を通して多くの力を一心に分けることが出来る。加えてカグツは儂の分体じゃからの。それが体の一部となっていることも大きい」
「なんかずるいですね……それ」
「あはは……」
カグツチにフォローされて、落ち込まずに済んだ一心。ルウェルの言葉にも笑って済ませられる余裕が戻ってきた。最も苦笑いではあったが……
(チートだよな。たぶん)
祖母の愛。といえば些かむず痒いが、しかし世界を越えて、自分を助けてくれる祖母には正直頭が上がらない。
元々爺ちゃん、婆ちゃんっ子だった一心。ますます祖母への愛情が深まるのだった。
(会いたいな……婆ちゃん。父さんや母さんも……)
この時、カグツチは間違ったことは言っていない。ただし正しい事も言っていなかった。一心が先ほど使った魔法には、カグツチ以外に秘密があった。
「さて、ではまず言っておこう。魔法行使には気を遣え。面倒事に巻き込まれたくないのならな」
「うん。分かってる」
ルウェルとアイリーンが再び庵を後にし、カグツチと二人になった一心。二人になった途端に、今までにない真剣な口調でカグツチは一心へと注意を促す。
「科学とやらに関しては物が物だ。アイリーンやルウェル達にも安易に話すべきではないだろう」
「あ、やっぱり?」
先ほど一心が行使した大魔法に匹敵しうる魔法。実は得た知識に一心が知る科学を適当に織り交ぜただけのごくごく簡単な物であった。
カグツチが一心へとした肉体改造。一心がチートだと感じる程度にはカグツチも頑張ったのだが、しかし彼女は本来の力からは程遠い。
実際には、嘗て彼女がユズリアルに施したものや、2代目にその契約神が与えた知識に比べると、遥かに弱く、細やかな変化だった。
では先ほどの大魔法は何だったのか。それを語るには、時間を少し戻さねばならない……
◇ ◇ ◇
「どうだ一心。気分の方は?」
目が覚めると同じ布団に何故か女の子が寝ていた。
「カグツチ?」
寝ぼけまなこでその少女を眺めるうちに、少女が誰であるかを思い出す一心。色々あり過ぎて混乱しているなーと思い頭を持ち上げてみれば、何故か体に違和感があった。
「うむ、どうやら大丈夫そうだな。後遺症もなさそうだし……いや、良かったよかった」
「ええと……何したの?」
体の違和感に加え、布団に入った記憶も無い。というより直前の記憶が曖昧だった。
「うむ。実はな!」
そうやって実に嬉しそうに一心へと施した改造を告げるカグツチ。
「ただ、儂も力がだいぶ衰えていてな。魔力炉を設置したまではいいが、演算領域の増設が思ったようにいかず、自空間魔法等の特殊魔法の書き込みまでは出来なんだ。すまんな」
「いや、謝るとこそこなんだ……」
そう口では言いつつも、一心はある一つの単語に耳を奪われていた。
「魔力炉ってことは……もしかして魔法使える?」
「基礎的なものはな。本当は魔力炉ももっと大きくしたかったんじゃが如何せん……」
それから後の言葉は聞いていなかった。これで念願の魔法が使える! 一心の頭を占めるのはその思いだけで、一言、「次やる時には声かけて」と言う事しかできなかった。
「何処か場所は……」
使えるというのならば、さっそく使わない手は無い。というか使いたい! そう思った一心は、すぐに外に出ると、開けた場所を探して辺りを見渡す。すると、昨日は気づかなかった丸く抉れたような場所があった。
「あれは?」
「ん? ああ、あれはユズリアルが憂さ晴らしにいろいろぶっ放していたところじゃな。元々は作った魔道具の実験施設があった場所なんじゃが、建物ごと吹っ飛ばしてしまってからはそのままだな……」
「婆ちゃん……なにしてんだよ……」
早くもユズリアル=祖母で定着しつつある一心。完全に受け入れていた。
「まぁ、都合いいしいし、あそこでいっか」
使う目的は変わらないと、足早にそこへ向かう。そして――
「おおーーー」
試しに炎の魔法を行使してみれば出来てしまった。
「なるほどなるほど……楽しい!!」
何度か繰り返すうちに、体内を巡る魔力を感じられるようになり、新たに加わった器官である魔力炉についても認識できるようになった。
(不思議な感じだな……体の内側を感じ取れるって……)
慣れない感覚に、若干気持ち悪さも感じないでもなかったが、それはすぐに魔法を使える喜びによって塗りつぶされる。
「炎よ! 燃え上がれ、焼き尽くせ!!」
物騒な言葉を口にする一心。魔法行使に必要なものは、魔力を変換する能力と、事象を具現化するイメージ力。その為言葉は言霊となって魔法行使に影響をもたらす。
「風よ、吹け吹けもっと吹けーーうはは」
炎を作り出した後は風を操る。
「感覚的には操るっていうより生み出してる感じだな。魔力を風に変換させているのか……」
魔法を次々行使しながら自分なりの解釈を加えていく。
「風か……出でよ酸素!! …………あるのか? ないのか? くそ、見えん……」
風、つまりは空気を生み出せるのであれば、魔力を酸素へと変換することも出来るのか、それは適当な思い付きで、しかし危険な思い付きだった。
「あ、火をつければ分かるな。火よ! うおぃ!!」
そうして先ほど酸素を溜めた(と思われる場所)辺りに火の魔法をぶつける。その結果――
「おおーー燃える燃える……」
火は燃え上がり、酸素が生み出されていたことを確信する一心。彼はここからさらにエスカレートした。
「水素!!」
ドッカーーーン
「おお! また酸素!!」
グオォォォォォォォン
「おおおお! エネルギーの塊だな……はて、エネルギー……熱エネルギー……。ええと、炎を分解して、純粋なエネルギーに変換。解放っと!!」
「い、一心よ、なんだこれは……」
「おほほほ、次ぃ! 熱エネルギーを冷却! 氷結!!」
「な!? 燃えていた場所が……急に凍った? 何故じゃ……」
「あははは……たっのすぅい!!」
「一心!!」
結局、一心はカグツチに実力行使で止められるまで、マッドな笑いを浮かべながら思いのまま魔法を行使し続けるのだった。
「すみません……反省してます」
「はぁ、はぁ、はぁ、全く。ちっとは自重せい!」
反省してると口にしつつも、顔が笑み崩れている一心。対して息を上げながら怒っている風に見えて、実は一心の思いもよらぬ魔法の才に喜んでいたカグツチ。
「いったい先程のは何じゃ? 行使する魔法の規模と、魔力量が途中から出鱈目じゃったぞ?」
魔法の基礎は、魔力を事象へと変換することにある。そうなると必然的に魔力量に応じて魔法の規模も変化するというのが常識であった。
「ええと、単に魔力を炎に変えて燃焼させるのと、魔力を酸素や水素に変換させるのだと、多分効率が格段に違うんです」
「酸素? 水素? 何じゃそれは……」
「ええと酸素っていうのは分子の事で、その前にまず原子というのが……」
分子の説明の前に、最小の単位として原子から説明をする一心。一億分の一の世界の話をする一心を前に、カグツチの表情は凍り付き、険しいものとなる。
「お主その知識を何処で習った?」
いつにない厳しい口調。
カグツチは驚いていた。その知識を知らなかったからではなく、一心がそれらの知識を知っていたから……
「ええと、学校だけど……」
「げに人の、恐ろしいことよ……」
学校については、そういう教育機関があることを既に一心から教えられていたカグツチ。一心のいた世界では当たり前に知られた知識だと教えられ、しみじみとそう呟く。
「あの……何か不味かった?」
黙り込んでしまったカグツチに不安を覚え、思わずそう訪ねる一心。しかしカグツチはただ首を振り、疲れたような口調で話し始めた。
「いや、不味くは無い。ただ驚いただけだ。その知識は世界を解き明かし、深淵へと誘う。人が手にするにはあまりに早い。そう思ってな」
「それは……」
その言葉に思うところのあった一心。人が原子を知らず、その概念を知らなければ、あるいは核の炎は目覚めなかったかもしれない。
「確かに早すぎたのかもしれません。けれど一度手に入れた力を人は簡単には手放さない」
「分かっておる……。ま、お主ならば大丈夫じゃろう。さっきも言ったが、儂驚いただけじゃし」
彼奴の孫だしなと、それ以上は何も言わないカグツチ。心配はするが、過度の心配は信頼していないということになる。
「それにしても……気付いているのかは分からんが、お主相当なものだぞ? 2代目ですらそこまでは行き着かなかったというのに」
現在の魔法理論の基礎を築いた2代目女王。彼女もまた、魔法の効率化に着目し試行錯誤を繰り返した人物だった。その研究は3代目へと受け継がれ、現在の魔法体系へと繋がる。
しかし一心は、彼女らの努力をあざ笑うかのように一足飛びでそれを飛び越え、効率化と共に威力の増加を成し遂げてしまった。
「その魔法理論をどうするかはお主に任せるが、くれぐれも慎重にな」
「了解。ならさ、誰も居ないうちに試したいことがあるんだけど……」
「全く……お主、人の話を聞いておったのか?」
目をキラキラさせて、うずうずしているのを全身で表現している一心。呆れながらもその光景はカグツチにとってひどく懐かしく、同時に残酷なものだった。
(時が……過ぎたのじゃな)
かつて、彼の祖母ユズリアルもまた、こうしてカグツチに止められながらも数々の実験を行った。
今の一心にユズリアルを重ね、そこに時の経過を感じながら、カグツチはかつてと同じように、ただ黙って見守る。
(どうせなら詠唱もかっこいいのがいいよな……)
カグツチの無言の返答を、了承と正しく受け取った一心は、今日の実験は最後にすべく、準備に取り掛かる。
彼がやろうとしているのは、熱膨張と冷却を繰り返し、擬似的に水蒸気爆発を起こすというもの。
(実際には高温の鉄とか、もしくは密閉空間とかが必要だったはずだけど、それなりのエネルギーにはなるはずだよな)
と、起こりうる現象を適当に想像する。
本来、事象を正確にイメージしなければ魔法は起こり得ないのだが、一心の場合はプロセスが明確なので具現化されてしまっている。
その危険性を一心も、そしてカグツチも気付かぬまま、実験がスタートしてしまった。
(まずは魔力炉を解放……だいぶ慣れてきたな。次は魔力の供給……安定を確認。最後にイメージの投影……)
己の体内へと意識を向け、意図的に魔力炉を開放する。その上で解放された魔力に方向性を持たせ、必要な物質や事象へと変換させる。
「炎よ、燃え盛る紅蓮の劫火よ…………」
詠唱と同時、一心のイメージを受けて劫火が舞い上がり、一心がそこに酸素を供給、更に勢いを増す。
「い、一心よ、ちと遣り過ぎなんじゃ――」
思った以上に大規模に紡がれる魔法に顔色を一気に変えるカグツチ。少々一心が気合を入れ過ぎたのだ。しかし始まってしまった以上もう止まらない。
「氷よ、凍て付く蒼き水氷よ…………」
燃え上がる炎を一度分解。そこにあった全ての熱エネルギーを冷却へと変換する。そして一心のイメージに従い、更に魔力が追加され氷の柱が乱立した。
「爆ぜろ煉獄の焔となりて………|」
そして更にそこに炎と酸素を大量に投下する。
「い、一心?? まだ続くのかっ!!」
急激に冷やされた氷は実は脆い。表面から溶け出し、付着した水分が熱せられ一気に膨張する。それに伴って乱立する柱が全て崩れ落ちた。
熱せられ、冷やされ、また熱せられる。それが繰り返され、辺りの空気が膨張と縮小を繰り返す。溜まりに溜まったエネルギーに、最後に火種と水素という起爆剤を投下し、それらのエネルギーが一気に弾け飛ぶ。
「氷炎の爆炎華!!」
「おお!?」
これまでにない轟音とともに、大爆発が起こった。そして新たに深くなったクレーターを見て一心が呟く。
「……氷炎地獄の方が良かったかな? それとももっと単純に火炎? まぁ、どっちにしてもいまいちだったなぁ……。ガソリンを魔力で生成できないかな……若しくは鉄粉を加えて花火を……」
一心はこの結果に満足していなかった。威力は極大だったにも関わらずだ。
実際、様々な魔法行使の瞬間を見てきたはずのカグツチでさえも思考停止に陥っているというのに。
では何が足りなかったのか……
「派手さがな……やっぱ、爆発には美学がないと」
この時カグツチは思った。己は決して与えてはならぬ者に力を与えてしまったのではないのかと。
「儂、間違ったかの~」
しかしそれでもその物言いが適当なのは、果たして最後の部分で一心を信じているからなのか、はたまた諦めの境地に達してしまったが故か。
「いっ、一心! 今のは!?」
「何をしたんだ一体!!」
「あ、まず……」
そして、アイリーンとルウェルがやってきたのは、一心が最後の実験を行ったまさにその時だった。
誤字・脱字などありましたら教えて頂けると助かります。
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