力の継承《チート能力》
次話です。今日はクリスマスなので2話投下します。
別に暇だからじゃないやい(笑
「本日未明、登山中に失踪した大学生、神崎一心さんの捜索が打ち切られました。生存は絶望視され――」
テレビから流れる孫の遭難事件に関する報道を聞きながら、その報道が決していい内容でもないにもかかわらず、その老婆は顔に笑みを浮かべる。
「……あちらの世界に渡ったのね。運命……っていうのかしら」
胸に手をやり、老婆は呟く。嘗てその場所には繋がりがあった。世界を越えた際に細く、小さくなってしまったが、確かにあった契約者との繋がり。その繋がりが切れ、本体を安置していた神社が姿を消した。
「全く心配ばかりさせて……」
孫が消息を絶った直後は彼女も取り乱し、影響の及ぶ範囲に手を伸ばし、方々手を尽くして探した。けれど孫は見つからず、しかしその後神社が消え、繋がりも切れたことで、彼女は孫の居場所を悟った。
何のことはない。孫も彼女と同じように世界を渡ったのだ。
「いい出会いがあるといいのだけれど……」
いきなりの事で驚いただろう。焦りもするだろう。それは彼女も経験したこと。孫の動揺や驚愕が手に取るように分かる。その中で彼女が願うのは、孫を助け支えてくれる人のぬくもり。彼女がこの世界で連れ合いを見つけたように、孫も頼り頼られる相手を見つけられることだった。
「カグツチ……あの子をお願いね」
彼女は届かぬ声を相棒へと掛ける。共にいた期間は決して長くは無い。けれど傍らに居なくとも、繋がり続けた数十年来の相棒。
「もう……帰ってこないかもしれないわね……」
若き頃に夢に見た故郷。しかし彼女はこの地で幸せを見つけ、居場所を作った。孫もまた異国の地で幸せになることを彼女は願う。
◇ ◇ ◇
「という婆ちゃんの夢を見た」
「うぅむ……儂を通してユズリアルとの契約がまだ生きている。そう考えるとユズリアルとお主が繋がっているとしてもおかしくはないが……」
色々とあったカグツチとの対面日。話は尽きなかったが、異世界とはいえ時間は進む。何時までも城を開ける訳に行かなかったアイリーンが帰り、ルウェルもまた一度村へと戻った。しかし一心は庵に残り、嘗て祖母が暮らした場所で一夜を過ごした。
「儂にも分からんな。まだまだ世界には我らの知らぬ神秘が多くあるの~」
「嬉しそうにしてないで、もっとよく考えてよ」
そして明くる日。祖母柚李の夢をみた一心が、その夢が実際に異世界であったことなのかどうかをカグツチと検討していた。
「もし婆ちゃんと繋がりがあるのなら、向こうの世界と連絡取れたりしないのか? 或いは世界を行き来したりとかは……」
一心が考えているのは祖母との繋がりを通して祖母や、両親と言葉を交わせないかということだった。
一度は死んだものとして地球世界での生活を諦めた一心だったが、祖母柚李の話を聞かされ、加えて夢にまで見て、一気に帰郷心が擡げたのだった。
「どちらも無理だな。今の儂では如何ともしがたい。言ったじゃろ? 嘗てないほどに力を失っておると。力を取り戻さんことには何一つ満足に出来ん」
「じゃぁ、力を取り戻したら何とかできるって事?」
一縷の望みをかけてそう訪ねる一心。しかし……
「それも分からん。力を取り戻さんことには、それが可能か不可能かの判断もつかんという事じゃ」
返ってきた答えは可でも不可でもなかった。
(一番嫌な答えだな……これじゃそれを目標に頑張る事も、さっさと諦めることも出来ないじゃないか……)
一心は何か目標があれば頑張れる人間だった。しかし逆を言えば、明確な目標が無ければ努力が出来ない類の人間だった。
「この際だしな。儂がいろいろ教えてやる。そのついでに儂の力を取り戻してもらおうか」
「りょうかいー」
カグツチの言葉に気のない返事をする一心。しかし――
「まずは魔法の扱いから覚えてみるか?」
「了解! よろしくお願いします、師匠!!」
次の瞬間にはがらりと態度を変える。実に分かりやすく、扱いやすい。そんな一心の態度に笑みを浮かべるカグツチ。
(そう言えばユズリアルも興味のあること以外はしようとしなかったな……)
今でこそ神聖視され、崇拝されている初代女王だったが、建国後の地味な事務処理を嫌い、さっさと王位を譲って自由気ままな隠居暮らしを始めたという過去がある。もちろん一般的には知られていない。
そんなユズリアルと一心が、本質的には非常に近いことを見抜いたカグツチは心の内で一心育成計画を立案する。
(ユズリアルは少し甘やかしすぎたからな、一心には適度に厳しくするか。まずは魔法習得と共に剣術だな)
ユズリアルの時の反省を生かし、脳裏で餌と地獄の特訓の組み合わせを考えるカグツチ。
炎神にして輝神、そして鍛冶の神たるカグツチは、意外と教育者なのだった。
「取り敢えず知識から行くか……」
「はい!」
頭の中で段取りを整えたカグツチは、さっそく魔法習得へと移る。その際に欠かせないのが、魔法知識である。
「ということでまずは魔力の流れを知らなければならない。加えて魔法というのは人によって千差万別でな。それぞれに工夫改良を重ねて昇華していく。知識が多ければ多いほど有利ということだ。ちなみにユズリアルはかなりの魔法の使い手だったぞ?」
「おおー婆さますげー」
「全然そう思ってないじゃろう?」
一心の適当な物言いに呆れるユズリアル。同時にユズリアルに対する思い入れの強いカグツチとしては面白くない。
ちなみに、実際はユズリアルはほとんど魔法が使えなかった。ならばカグツチが嘘をついたかといえばそうではない。ユズリアルは魔法工学に才があったのだ。
「いや、でも俺にとっては婆さんは優しくて、何時も味方してくれる人でさ。なんかすごい人ーーって言われてもあんまし実感沸かないんだよ。優しい笑顔の婆ちゃんってイメージが強すぎてさ」
一心の言葉を聞いて、不機嫌そうだったカグツチの表情が、途端に笑み崩れる。
「うむ、まぁ、身内からしたらそんなもんなのかもしれんの。事実あ奴は誰よりも優しい娘だったからの。確かあの時も……」
「それで魔法は?」
そんな感じで婆ちゃん談義が始まりそうになったが、早く魔法を習得したい一心によって未然に防がれる。
「おお、そうじゃった。一心、ちと目を瞑って頭の中を空っぽにしてみぃ」
大げさに驚いて見せた後、カグツチがさっそく一心へと指示を出す。
「目を閉じて?」
言われるままに目を閉じる一心。そして気配からカグツチが顔を寄せてきたことに気づく。
(これは、もしかして……もしかしたらの展開か!)
目を閉じてという少女(元は男で、中身は凄い年増だが)が、目を閉じてとお願い(どちらかといえば命令口調だったが)して、顔を寄せてくる。
期待に胸を膨らませながら、最初に思った事は必死に考えまいと努力する。でなければ勿体なさすぎる。
(お、おおぅ……)
カグツチの柔らかな手が両頬に添えられる。そして額と額を付けて――
「ええと、まずは基礎系統の魔法からでいいか。転写」
「は、え? うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
脳が焼けるような覚えのある感覚。許容量を超えて流れ込んでくる情報を処理しきれずに脳がオーバーヒートを起こす……
「やば、多すぎたか?」
地面に横たわり、涎を垂らしながら痙攣する一心を見下ろし、顔を青ざめるカグツチ。
「脳の容量が足りないな。増やすか?」
しかし、マッドなサイエンティスト並みの思考回路は変わらない。
「少しは力が戻ってるな……」
そう呟くと、カグツチは一心の胸へと掌を当てる。
「魔力炉解放」
そう呟き、自身の力を一心の体内に注ぎ込む。
幸いというべきか、一心の体内にはカグツの体、つまりはカグツチの分体が融合している。そこに力を注ぎ込めば、一心を体内から強化することが出来る。無論限度はあるだろうが……
「やばい、楽しくなってきた」
力を注ぐ度にがくん、がくんと跳ねる一心を無視して、カグツチは一心を自分好みに作り変える。彼女がどうこうできるのが一部の体内だけというのは、一心にとって果たして幸運だったのか……
「ついでだから魔力炉を設置して、瞳を魔力回路で繋げて、演算領域も拡張するか。あ、直接そこに書き込めばいいんだな。ええと、自空間魔法と……」
彼女は言った、神という存在は善悪を超越した存在だと。そこに善も悪も無く、したいことをするのが神という存在だ。人間の都合など考えない。
それを聞いた時、ルウェルも、アイリーンも、そして一心も、そう語るカグツチを例外として認識していた。それが過ちだったと気づくのは、今、この時を以ってだった。
ただし、気付いたのはこの場に居て、当事者である一心だけ。
「どうだ一心。気分の方は?」
その後、好きなように一心を改造したカグツチは、気絶し、息も絶え絶えな一心を庵の寝所へと運んだ。そして彼が目覚めるまで、共に横になっていたのだった。
「なぜ……ここに?」
同じ布団で。
◇ ◇ ◇
「次やるときは、せめて先に言ってくれ……」
何をしたのかを包み隠さず、しかも胸を張るおまけつきで聞かされた一心。彼はそう言うだけで精一杯だった。
「うむ、では近いうちにまたやってやろう!!」
そして一心の内心を知ってか知らずか、そう言って再び胸を張るカグツチ。そんなカグツチに、けれど一心は強く言えない理由があった。
「炎よ、燃え盛る紅蓮の劫火よ。氷よ、凍て付く蒼き水氷よ。爆ぜろ煉獄の焔となりて…………氷炎の爆炎華!!」
一心の言霊に合わせて炎が燃え上がり、冷やされ凍結し、そして再び熱せられる。結果起こる大規模な爆発。
「いっ、一心! 今のは!?」
「何をしたんだ一体!!」
昨日に引き続き、ユズリアルの庭へとやってきたアイリーンと、ルウェル。2人が見たのは一心による大魔法の行使の瞬間だった。しかも触媒なしに……
「何時の間に魔法が使えるようになったんですか?」
一心に訪ねながら、しかしその視線をカグツチへと向けるルウェル。
一心が魔法に興味がある事を知り、けれど使うことが出来ないことも知っていた彼女は、劇的な変化をもたらした存在が彼女以外に無いことに直ぐに気づく。
というより、それ以外に答えは無く、良く事情を知らないアイリーンもカグツチへと視線を向けていた。
「ええと、いつの間にか?」
「はぁ?」
けれど返ってきた答えは一心からの物で、しかもルウェルの想像を超えた物だった。
彼女は、カグツチがよほど無茶な特訓を課したのだろうと考えていた。一心の情熱を知り、魔法習得の難しさも知る彼女にとって、魔法とは、文字通り血反を吐いて習得する物だったからだ。
だからこそ、一心からの返答に納得がいかない。
「どうすればたった1日で、しかも超一流でも使えないような大魔法を、いつの間にか勝手に覚えられるんですか!?」
「いや、それがさ……」
ルウェル相手だしと、半ば愚痴る様にカグツチにされたことを暴露する一心。普通中身を弄られたなど、嫌悪感と忌避感で決して人に言おうとはしないだろうが、深く考えずにあっさりとした口調で告げる一心。
ただし、言わなかったこともある。先ほどの魔法の原理とか、その特殊性とか。
「は……は、……はぃ?」
一方聞かされたルウェルは、そのあんまりな手段に声と顔色を失っていた。
「なんてことを……」
その隣ではアイリーンも似たような反応を見せる。
「生命や、俺の本質に関わる所は弄ってないらしいしさ。それに害は無いらしいし……良いかなって」
「良くないです!! 何がいいかなっですか!?」
何故か一心の事なのに、ルウェルの方が強いショックを覚え、これまた何故か一心がフォローすることになった。
(心配してくれるのは……素直に嬉しいな)
そう思いつつも、そこまで大ごとだとは感じていない一心。
別に脳を開けて弄ったとかいう訳では無いのだ。元々失っていたはずの部分で、カグツと出会ったおかげで治った場所を、強化したに過ぎない。
極端に言ってしまえば、義手や義足の性能を上げるようなものだ。喜びこそすれ、残念がる事ではない。
それが一心がカグツチを怒れない原因で、怒らない理由だった。そして何より……
「おかげで魔法使えるようになったしさ」
これが一番の理由であったことは言うまでもない。
ということで一心にチート能力が加わります。何もしていないのにいきなり高機能、高能力……うらやましいですね~~詳しくは次話以降ですが。




