*七菜
鎌倉の海辺。夕日。隣に葛西。1ヶ月前なら嬉しくて仕方がなかったであろうこの状況に、とまどう。
話したいことがある、というメールを葛西からもらって、渋谷駅で待ち合わせしてそのままここまで無言の葛西についてきた。砂浜の葛西の足跡を踏むようにして2、3歩後ろを歩く。いままでで一番小さく見える肩に不安が増す。
15分くらい歩いただろうか。葛西が急に立ち止まり海を見つめ、口を開いた。
「達哉とはね、ここで会ったの」
波の音が静かに響く。
「わたし小4のとき両親を事故で亡くしてね、この辺りのおばの家に越してきたの。急に両親がいなくなって、仲のいい友達とも別れて、一人ぼっちで……」
「母から9才の誕生日にもらった麦わら帽子があってね、寂しくなるとそれを被ってこの砂浜に来てたの。そしたらある日、帽子が風で飛ばされちゃって、海に落ちちゃったの。大切なものなのにわたし泳げなくて。本当に一人ぼっちになっちゃったんだって……」
「そしたら知らない男の子がね、走って海に入ってって、泳いで帽子をとってくれたの。にかって笑いながら、はいって帽子を差し出してくれた。……それが達哉だったの」
「そのときのわたしには達哉がヒーローみたいに見えて、両親がいなくなってから初めて泣きじゃくった。達哉はずっと側にいてくれて……それからずっと達哉はわたしにとって特別な人なの」
「わたしね、人前じゃ泣けないの。心配かけちゃだめだってつい気を張っちゃうんだと思う。でも、達哉が隣にいてくれると安心して涙が出るの。達哉が好きで、ずっとそばにいたいと思った。達哉が東京の高校受けるって聞いて、同じ高校行こうなって言ってくれて、わたし必死で勉強したんだ。2人とも合格して、その夜ここで初めて、好きだって、ずっと一緒にいようなって言われたの」
閉じた葛西の目からは涙が流れていた。
「……でも高1の冬に達哉、いなくなっちゃった」
「家には誰もいなくて学校にも来なくて、毎日歩いたこの砂浜にも来なかった。高2になってからもずっとわたし達哉のこと探してたの。達哉はわたしをなにも言わずに突然一人にするわけないって……信じてたから」
「小高に最初に会った時びっくりした。達哉に似てて。顔がとかじゃなくて、隣に座った時の感覚。達哉が隣にいてくれた時みたいだった。それでしばらく達哉のこと忘れられたけど、公園でサッカーした時、小高のこと達哉って呼びそうになって、その久しぶりの安心感に思わず涙が出ちゃった。達哉以外の、しかも男の子の前で泣けたなんてわけわかんなくなって……信じられなくてまた達哉のこと調べはじめた。そしたら……もういないって分かった……」
「1つだけわがまま言っていい?」
葛西が俺を見つめる。みたことのないその眼差しに目をそらせない。
「七菜って呼んで」
「……七菜」
葛西の目から涙が溢れた。一歩一歩ゆっくり近づいて、俺の胸に額を寄せる。
「知哉……」
思わず抱きしめた。
好きな子が腕の中にいるのに、こんなにも切ないことがあるだろうか。
俺の目からも自然と涙が溢れていた。
七菜はあんな小さな体で、支えきれないほど重いものを抱えていた。




