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隣のあの子  作者: yui
11/14

*失われた光

9月になった。今日から塾も学校も新学期が始まる。

葛西はあれから塾に一度も来ていない。連絡もとれない。誰も口に出しては言わないけど、「達哉」が関わっているのは明らかだった。あれから俺は葛西と翔の会話が頭から離れず、葛西のつらそうな声が耳から離れない。知りたい、けど、知ってしまうのが怖いとも思う。


新学期は英語の授業から始まる。来るだろうか。会ったらなにを話せばいいのだろうか。30分も早く教室について、少し懐かしい自分の席に座る。今日は夏休み前と違って授業前もすごく静かだった。俺が緊張しているだけだろうか。なんだか教室の空気が張りつめている気がする。

教室のドアが開く音がするたびに、ドアの方を見る。違った。また違った。次こそ……いや、葛西じゃない。





葛西が姿を見せないまま、授業が始まった。来なかった。葛西はよく、遅刻するんだった。そうだ。きっと今日も……そう思う。いや、思おうとしていた。




ドアが開くことなく、前半の授業が終わり休憩に入る。立石と白川は二人で暗い顔をして何か話している。村沢と杉村と一緒にいても二人も不安に思っているのが伝わる。




後半の授業が始まる。もし今日葛西が来なかったら……朝から頭の片隅に押し込めていた考えがじわじわと広がる。

もし今日葛西が来なかったら、もう葛西は来ないのではないか。




ガラ



教室のドアが開いた。葛西がセーラー服姿でドアの前に立っていた。来た。葛西が来た。俺たちが必死で興奮をおさえるなか、葛西は静かに表情一つ変えずに、おれの隣の席に座った。プリントを広げ、板書を始める。授業は何事もなかったかのように進んだが、俺が安堵しているからだろうか。なんだか教室の空気がやわらかい。





授業が終わったとたん立石たちが俺らの席の回りに集まる。

「七菜久しぶり!」

「久しぶり」

「もう心配したよ、メールの返信ないから」

「ごめんね、ちょっと忙しくて」

「ううん……七菜、大丈夫?」

「え?」

「なんか痩せ気がするし、疲れてない?」

「夏痩せだよ。ちょっと寝不足だしそのせいかも」

「そっか……」

「わたし、コピーしなきゃいけないものとか色々あるから、先帰ってて大丈夫だよ」

「わかった」


教室を出ていく葛西を目で追う立石と白川はとても心配そうな表情だった。


何か違う。安堵のなかの少しもやもやしたものがその存在をだんだん主張しはじめた。本当に隣にいた子は葛西七菜なのか。葛西の登場で温かくなった教室で、葛西のいるところだけが冷えているように見えた。今までは、葛西のいる所から温かくなるように見えたのに。

立石たちの表情で不安が確かなものになる。



そう、葛西から表情が消えていた。

少し微笑むことはあっても、弱々しい。まるで、目に光がないみたいだった。

今にも消えてしまいそうな気がして、怖くて不安で胸がくるしくなる。

駅まで歩く5人の間に流れる空気は、今まで感じたことがないほど重苦しかった。












人をあれほどにまで変えてしまうものがあることが、ただただ恐ろしくて、目を背けたかったんだ。

感想など頂けたらうれしいです。

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