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魔狼の強襲

 ――ズシン、ズシン、ズシン



「やっぱり、この揺れは……」


 このダンジョンに出現する魔物、地面を蹴る重厚かつ軽やかな足音から、おおよそ見当はついた。

 初めて聞いたときは命の危機を感じたその振動だったが、今となっては慣れたものだ。



 慌てることなくその場で待っていると、洞窟の暗がりからハイ・イビルウルフが三匹現れた。


「やっぱり狼か。それに三匹……複数相手取るのは初めてだな」

「ちょ、何でそんなに落ち着いてるんですか!? A級相当の魔物が三匹ですよ! さすがに危ないですって!」



 俺の後ろに立つエミルが、慌てた様子で声をかけてきた。



 え?

 ハイ・イビルウルフくらいの相手なら、三匹同時に相手取っても問題ないと思うが……



「あいつらなら俺だけでも大丈夫だ。エミルはちょっと休憩でもしていてくれ」


 俺はそう言うと、魔法の構築を始める。

 ちょうど試してみたかった戦法もあるので、このタイミングで魔物が出てきてくれたのはむしろラッキーだったかもしれない。



「『フロート』」


 浮遊の魔法を発動し、宙に浮かぶ。

 あまり細かい動きはできないが、魔物たちに対して有利な位置関係を作る程度なら問題ない。


 ハイ・イビルウルフ達は案の定、空中の俺に向かって飛びかかってきた。


「『ウィンドアロー』、『フレイムスフィア』、『クレイショット』」



 地上の魔物たちに向けて、次々と魔法を撃ちまくる。


 今の俺は『多重詠唱(マルチスペル)』を活用することで、魔法を放ちながら次の魔法を用意する、という芸当が可能になっていた。

 途切れることなく弾幕を貼り続けることで、ハイ・イビルウルフ達の動きを制限し、一方的に攻撃を続ける。


 風が、炎が、土塊が、様々な属性の魔法がハイ・イビルウルフ達に向かって雨のように降り注ぐ。


 当然魔物も反撃を試みるが、あちらには遠距離攻撃をする手段がない。

 想像以上に上手くいったことに喜びを覚えながらも、魔法の手を緩めることはない。



 ……しばらくすると、魔物たちの動きが止まった。

 どうやら無事に倒すことができたようだ。



「ふぅ、こんなところか。複数が相手でもこの戦法を使えば対処可能、ということがわかったのは収穫だな」

「ちょっと待ってください! なんですか今のは!?」


 地上に降りると、驚いた様子のエミルが駆け寄ってきた。

 今のが何かと聞かれても、正直見ての通りとしか言いようがない。


「あの威力の魔法を、あんなに大量に撃つなんて聞いたことありませんよ!」

「そ、そうか?」

「それに、魔力切れも起こしてないみたいですし……ロイスさんがここまで凄い魔術師だったなんて……」


 魔術師というより、俺はどちらかというと剣士寄りだ。


 それに、魔法を使えるようになったのはつい最近のことなんだけどな……


 一応戦力を共有しておく意味でも、俺のスキルについては伝えておいた方がよさそうだ。


「実は……」





「いやいや! スキルを取得できるスキルって、なんですかそのとんでもないものは!?」

「俺も知ったのはついこの前なんだが、どうやらそういうスキルらしい」

「らしいって……平然と言ってますけど、そのスキル全然普通じゃないですよ!」

「そんなに驚くことか?」


 確かに普通のスキルならそんな事できないかもしれないが、ユニークスキルだったら可能なのではないだろうか。

 正直、他のユニークスキルについてはあまり知らないので、普通と言われてもいまいちピンとこない。



「驚きますって! そもそもユニークスキルだって、汎用性が高かったり、単純に効果が強力だから特別視されてるだけで、ロイスさんのスキルみたいになんでもアリって訳じゃないですからね!」

「そうなのか……?」

「そうですよ! ロイスさんはもっと、そのスキルが凄いって自覚した方がいいです!」


 そう力説するエミル。



 ……それは別にいいのだが、少々距離が近い。

 俺がさりげなく離れるとエミルもその事に気がついたようで、少し頬を赤らめた。


「と、とにかくですよ。『迷宮主』を倒すんですから、ロイスさんが凄いスキルを持っている分には問題ないです。むしろロイスさんがすごすぎて、私の立つ瀬がなさそうなのが不安ですが……」

「そんな事ないよ。俺は、エミルがいてくれてすごく助かってる」



 強さなんて関係ない。

 実際のところ、今の俺にとって、他人がそばに立ってくれているという事実はかなり精神的な助けになっている。

 そういう意味でもこの言葉は、嘘偽りのない俺の本心だ。


「そ、そうですか? まあ、そう言って頂けるのは……正直嬉しいですけど……」


 それに、俺は万能超人でもなんでもない。

 一人で何でもできるなんて考えていては、いつか痛い目を見ることになるだろう。


 自分の力を過信せず、なるべく誰かと協力する。

 基本的な、死なないための努力だ。



「……あ! 今考えたのですが、ロイスさんのスキルって、私のユニークスキル『付与者(エンチャンター)』も取得できるんですか?」

「そういえば試してなかったな。少し待ってくれ」


 頭の中で、スキルを取得したいと念じてみる。



【『付与者(エンチャンター)』はスキルポイントを100,000消費することで取得可能です。現在のスキルポイントは8,400です】



「どうでした?」

「駄目だな。取得自体は可能みたいなんだが、スキルポイントが全然足りないみたいだ。どうやら、ユニークスキルを取得するには、スキルポイントが大量に必要らしい」

「そうなんですか。いやぁ、私のアイデンティティが失われるんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ……」


 エミルはそう言って、ホッと胸を撫で下ろす。

 別に、スキルが人の全てではないとは思うが……



「……とにかく、早めに移動を始めた方がいいかもしれないな」

「え? いいんですか?」

「魔物側から襲ってくるなら、その場にとどまろうが移動しようがリスクは大して変わらないはずだ。情報共有は歩きながらでもできるしな」

「そうですね!」


 エミルは納得したように頷いた。


「とにかく、『迷宮主』を倒さないことには始まらない。なんとかして居場所を見つけないと……」

「あ! それなら私、知ってますよ! 記憶が正しければ、あっちの方にいるはずです!」


 そう言って彼女は、向かいの通路を指差した。


 聞けば、探索の途中で『迷宮主』の部屋までたどり着いたのだが、恐ろしい気配を感じて一度引き返したという。


 もちろん『迷宮主』を倒さないとダンジョンから出ることはできない。

 どうしようかと考えていたところで、例のミミックを発見した、ということらしい。



 恐ろしい気配、という部分に少し不安を感じないでもないが、迷宮主の居場所を探すためにダンジョンを彷徨(さまよ)うものとばかり考えていたので、情報があることは素直に喜ばしい。


「よし、それじゃあ早速行こう。案内を頼めるか?」

「もちろんです! 私の案内力をお見せしますよ!」


 元気いっぱいな様子のエミルを微笑ましく思いながら、俺は彼女の背中を追って歩き出した。

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