仲間
「『ウィンドスラッシュ』!」
俺の放った魔法が、ゴブリンの群れを蹴散らしていく。
しかし一部のゴブリンは、魔法の弾幕を掻い潜り、こちらへ向かってくる。
「エミル、頼む!」
「任せてください! 『付与:迅雷』!」
俺の声を受けたエミルは、稲妻を纏った剣を振るい、こちらへ接近してくるゴブリン達を素早く切り伏せていく。
その様子を見ながらも、俺はゴブリンの群れに向けて淡々と魔法を撃ち続けた。
いろいろと試してみたが、やはり仲間との連携を意識する場合は下手な高位魔法より『ウィンドスラッシュ』を使う方が良い。
魔力の消費量が少ないのはもちろん、攻撃範囲が狭いので狙った地点に当てやすく、フレンドリーファイアが起こりにくい。
敵が硬く、生半可な魔法が通用しない場合は別の魔法を使うしかないが、少なくとも現状では強力な魔法をバカスカと使用するよりは遥かに効率がいい。
俺が魔法を放ち、打ち漏らした敵はエミルが対処する。
そんな危なげのない戦いはしばらく続き……
――数分後
通路を埋め尽くさんとばかりにいたゴブリンを討伐し終えた俺達は、勝利の喜びを分かち合っていた。
「やりましたね!」
「ああ。あそこまで魔物がいたのは想定外だったが、問題なく倒せたのは不幸中の幸いだったな。エミルのおかげだ」
「いやいや、私よりロイスさんの方がすごいですって! あのゴブリンだって、倒したのほとんどロイスさんじゃないですか!」
「でも、全部じゃないだろ? 接近してくるゴブリンを気にせず魔法を撃てたのは、間違いなくエミルのおかげだぞ」
「そ、そうですか……」
エミルとの共闘は、想像していた以上にうまくいっていた。
さっきのゴブリン以前にも何度か魔物を撃退したが、そのたびにエミルと息が合ってきている実感がある。
彼女は無理に一人で突っ込むこともなく、俺の魔法の射線上に長く留まらないようにうまく立ち回ってくれていた。
バルゴス達とはえらい違いだなぁ、と無意識に元パーティーメンバーと比較している自分に苦笑しながらも、俺はエミルについて考えていた。
明るく気さくで、冒険者としての実力も申し分ない。
それでいて、多少のぎこちなさは感じるものの、戦闘中でも味方に合わせる柔軟さも持っている。
まだ若いはずなのに、なぜ冒険者をしていて、ここまで冒険者としての技量を高めることができたのか。
なんらかの事情がない限り、彼女の年齢で冒険者になることは稀だろう。
一体なぜ、エミルは冒険者になったのか……
「……? どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ。それより、他の魔物が寄ってきたらまずい」
「そうですね! この先は確か、一本道のはずです! さっきみたいに魔物が密集している、ということもないはずですよ!」
……まあ、彼女の事情がどうであれ、大切な仲間であることに変わりはないし、これからやることも変わらない。
ここから生きて出る。
自分が死なないために、最善を尽くす。
そのためにも、必ず迷宮主を倒さなければならない。
◇
『迷宮主』の部屋へ向かう道中……
俺は、最近自分の身に起こった出来事をエミルに説明していた。
本来はなるべく考えないようにしていた思い出だったのだが、俺に明るく話しかけるエミルを見ていると、自然と口が開いていた。
「ぐぬぬ……」
エミルが、分かりやすく不機嫌そうな顔になる。
「どうかしたのか?」
「どうもこうもありませんよ! ロイスさんを追放した上で殺そうとするなんて、とんでもない畜生じゃないですか!」
「あはは……それはまあ……」
「ダンジョンから脱出したら、私がそいつら全員とっちめてやります!」
そう言いながらエミルは、目の前の空間に向けてリズミカルにパンチを繰り出す。
……とっちめるかどうかはさておき、誰か俺のために怒ってくれるなんて久しぶりだ。
パーティーにいた頃は「俺達の悪評なんか流すんじゃねぇぞ」とバルゴスから散々釘を刺されていたので、誰かに相談なんてできなかった。
両親は、俺が幼いころに他界していたということもあり、他人と悩みを共有するという行為自体がひどく懐かしく思えた。
「でも実際、戦闘面で俺が足手まといだったのは事実だからな」
「むぅ……なんか釈然としません……」
「それに、追放されたおかげで、俺はエミルを助けられた。その部分だけは、純粋に嬉しいと思うよ」
「なっ! ロイスさんは、すぐそういうこと言うんですから!」
「え?」
もしかして、何かまずいことでも言ってしまっただろうか。
「とにかく! 『迷宮主』の部屋まであと少しです!」
エミルは、何かを誤魔化すように声を張り上げ、ずんずんと先へ進んでいく。
俺も隣を並んで歩き、しばし無言の時間が流れる。
き、気まずい……
何か話しかけた方がいいだろうか。
だが、どうやって話しかければ良いのか全くわからない。
そもそも、女の子とした最後の会話がいつだったのかすら覚えていないような野郎が、こんな空気を打ち砕けるのか……?
と、異性との友好的な接し方を知らない自分を恨めしく思いながらも俺は、少し気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、エミルはなんで冒険者になったんだ?」
それを聞いたエミルは、一瞬考えたような表情をすると、こちらに向き直った。
「……そうですね。せっかくロイスさんが自分の話をしてくださったわけですし、私も自分語りをしないわけにはいきませんね!」
「いいのか?」
先ほどの話は、俺が話したくて勝手に語っていただけで、別に、見返りを期待していたわけではないのだが……
しかし、エミルのような少女がなぜ冒険者になったのか、それについて気になっていたことは事実だ。
「はい! ……あ、でも、そんな大した話じゃないですよ。明るい話って訳でもないですし、むしろロイスさんの気分を害してしまうかも……」
少し慌てたように、エミルはそう補足した。
明るい話ではないということは、彼女自身も本当は話したくないようなことなのかもしれない。
それでも、彼女が話してくれるというのなら、真摯に向き合うべきだろう。
「いや、大丈夫だ。もちろん好奇心っていうのもあるけど、それ以上に、一緒にダンジョンを脱出する仲間だからこそ、エミルについて知りたいんだ。だから、エミルさえよければ、教えてくれないか?」
これは俺の、嘘偽りない本心だった。
仲間だから隠し事をするべきではない、というわけではないが、それでもお互いについて知ることは大切だと思う。
連携を取るため、足並みを揃えるため、ひいては死なないために。
そのために重要なことならば、きっとそれはお互いにとって必要なことだ。
「仲間……そうですね! じゃあ、お話しましょう! 笑いあり、涙あり……ってわけでもないですが、まあサクッと聞いてください!」
そう前置きをすると、エミルはぽつりぽつりと話し始めた。
「私の故郷は、南の大陸なんですよね」
「南の大陸っていうと……」
「三大魔境の一つ『ムスプルヘイム』がある大陸ですね。そこにある、名前もないほど小さい村が、私の故郷なんです」
三大魔境というと、古代の魔王が創造したという、世界でトップクラスのダンジョンだ。
魔王が討伐されて以降、一度も『魔獣暴走』が起こっていないため、下手に近寄らない限りは安全なダンジョンだと言われて放置されている。
「それが、どうしてこの大陸に来たんだ?」
「そこについて話すには、私の村で起こったことを説明しないといけませんね」
エミルは少し声のトーンを落とした。
「私の両親は……というより、ほとんどの村人は農業をしていましてね。もちろん、私もそれを継ぐ気満々でした」
今冒険者をしているということは、そうできなかった理由がある、ということだろう。
「長々と説明しても仕方ないですし結論から言いますと、『飢饉』です。村の人達は、炎神様の祟りとかなんとか言ってましたが、要するに日照りですね。王都の周辺なんかはそこまで問題なかったらしいですけど、辺境の村からしたら大問題です」
エミルは普段のような明るいトーンで話そうとしているようだが、その表情からは少し陰りが見えた。
「農作物も枯れてまさに絶対絶命。そんなとき、村に一人の男が現れたんです」
彼女は一度そこで区切り、息を吸うと、再び話し始めた。
「その男は、自らを奴隷商と名乗りました」




