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突然の追放―2

 バルゴスの宣告を聞いて、俺の頭にある疑問がよぎった。


「……だとしても、どうしてこんな場所で伝えたんだ?」


 俺は嫌な予感がしていた。



 ここは高難易度ダンジョン『伏魔殿』の二十六階層だ。

 最下層と言われている三十階層の手前であり、普段ならここまで深く潜ることはめったにない。


 最下層にはこれまで多くの実力者が挑み、しかし誰一人として生還したものはいない。

 迂闊(うかつ)に近づくべきではない、というのは冒険者の共通認識のはずだが、なぜかバルゴス達は今日に限って、二十六階層まで探索を進めた。



 もちろん、信じていた仲間から不要だと告げられたことには動揺しているし、俺自身に対して全く期待していなかった言われたのはショックだ。

 だけど仲間からそう思われている雰囲気は薄々感じていたし、もし追放を宣告されたとしても、甘んじて受け入れるつもりだった。


 邪魔だと思われている状態でパーティーに留まっても、誰も得をしないだろう。

 俺もソロの冒険者として新たな一歩を踏み出すことができるのならば、それでもいい。



 しかし、一人のパーティーメンバーを追放するだけにしては、今の状況はあまりに不自然だ。

 ただ単に俺を追放したいだけなら、ダンジョンから出た後に伝えればいいはず……



「知ってるかぁ? 例え雑魚だとしても、パーティーから追放するのはけっこう面倒なんだよ。お前みたいな無能を勧誘して、今さら追放したとなればパーティーの評判が落ちるかもしれねぇし、何より解雇料を払わなきゃならねぇ」



 ギルドの規則で、パーティーから誰かを追放する場合は解雇料の支払いが義務づけられている。

 解雇料は追放される冒険者のランクや能力、追放の理由、そしてパーティーに所属していた期間などによって異なるが、今回のように一方的な理由で追放する場合にはかなり高額になるはずだ。


 だからこそパーティーへの勧誘は本来、慎重にするべき行為のはずなのだが。



 バルゴスが今になってその話をした、ということは……



「ま、まさかバルゴス……」

「お? 雑魚のくせに察しがいいじゃねぇか」


 そう言うとバルゴスは剣を抜き、こちらへ近づいてきた。

 他のメンバーも、それぞれ杖を構えている。


「いいか。お前は、ダンジョン探索中に突然現れたA級の魔物から俺達を庇って死ぬんだ。そんで俺らは、尊い犠牲に胸を痛めながらも冒険者活動を続ける。完璧な筋書きだろ」

「ふふっ、尊い犠牲ね。よかったじゃない。パーティーのお荷物にはもったいない栄誉だわ」

「無様に冒険者を続けるより、よっぽど幸せでしょう」


 冗談だと、そう思いたかった。

 だがバルゴス達がこちらに向ける目線には、確かな殺気が込められている。



 本気で、俺を殺すつもりなのか……。



 思わず体がこわばる。

 咄嗟に後退(あとずさ)るが、背中が壁にぶつかるだけで、それ以上後ろに下がることはできなかった。


「おい、馬鹿な真似はよせ」

「あぁ? 誰が馬鹿だって!?」



 バルゴスは怒声を上げながら、剣を振りかぶった。

 『剣術(ブレードアーツ)』のスキルを持っているだけあって、無駄が少なく美しい動きだった。

 だけどそれは、この二年間で何回も見た動作だ。


 俺は横に転がり回避、そのまま手に握った砂をバルゴスの顔面へぶちまける。


「なっ!?」


 隙のできたバルゴスの脇を通り抜けた俺は、薄暗いダンジョンの通路を全力で駆け出した。


「クソが! お前らも、なにボーッとしてんだ!」

「わかってるわよ!『ウィンドカッター』!」


 ベレニアが放った風の刃が、俺の右足に直撃する。


「ぐっ……これくらい……」



 今立ち止まれば、確実に殺される。

 痛みを訴える足を無理やり動かし、ダンジョンの通路を進む。


「お前ごときが、俺から逃げ切れるわけねぇだろ! いい加減諦めやがれ!」


 背後から足音が近づいてくるが、構わずに走り続ける。

 先ほど受けた傷が痛い。

 気を抜くと転んでしまいそうになる。



 苦痛に耐えながらしばらく走っていたが、前を見て思わず足が止まった。


「行き止まり……」



 曲がり角の先には無情にも、壁があった。



「やっと追い詰めたぜぇ。ネズミみたいにうろちょろしやがってよぉ」

「ほんと、諦めが悪いわね。でもこれで終わりよ!『フレイム――」


 ベレニアが魔法を放とうとしている。

 もう終わりだ、無理だ、どうしようもない。

 そう思いながらも俺の足は、少しでも奴らから距離を取るべく後退していた。





 ……幼少の頃、元冒険者だった両親に影響されて冒険者になると決意したときは最低限、死ぬことについても覚悟はしていた。

 前人未到のダンジョンを制覇するとか、強大な魔物から町を守るとか、そんな大層なことを望んでいたわけではないが、それでも死ぬときは死ぬだろうと、どこか他人事のように考えていた。


 しかし、冒険者になってすぐにパーティーに加入したせいで自分の実力以上の魔物を見ることも多く、そこで初めて『死』というものを実感し、恐怖した。

 そのとき俺は、自分の中にあった「死に対する薄っぺらい覚悟」を撤回して、改めて「死なない程度に頑張ろう」という信条を自分の中に確立した。




 パーティーの中でも、努力したはずだ。

 自分が死んでは元も子もないと鍛練を重ねたし、パーティーの安全のためなら、できることはなんでもやった。

 依頼で討伐する魔物の事前調査はもちろん、携帯食の確保や目的地までの安全なルートを把握することも、毎回していたのは俺だ。



 ――それなのに、同じパーティーメンバーから殺されるなんて、あんまりじゃないか……

 




 バルゴス達から距離を取るために一歩下がり、足が地面に触れる。

 その瞬間、地面が煌々と輝き出した。


「これは……まさか……」


「転移トラップか!? おい! 待ちやが――」


 その瞬間、バルゴスの声も、目の前に迫っていた炎の魔法も、俺の視界も、全てが途切れた。

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