ユニークスキルの覚醒
目に飛び込んできたのは、赤茶色の岩壁だった。
どうやら、ダンジョン内の小部屋のようになっている場所へ転移したようだ。
「はは……まさかあんな場所に転移トラップがあったなんて、我ながら悪運が強いな……」
転移トラップとは、踏んだ者をダンジョンの下層に転移させる罠のことだ。
転移先の階層は基本的に、トラップのある階層を基準として五階層くらい下。
つまり、二十六階層にあったトラップを踏んだ俺は、最下層である三十階層に転移させられたということになる。
その場にへたり込み、ぼんやりと天井を見つめる。
素直に喜ぶことはできないが、それでもあそこで転移トラップを踏んでいなければ、今頃は焼死体にでもなっていただろう。
「はぁ……」
無意識にため息をこぼす。
バルゴス達に襲われるという窮地を脱した安堵感からか、先ほどはあまり気にならなかった足の傷も徐々に痛んできた。
見ると、裂けた靴の間から血が流れている。
我慢できない程ではないし、今すぐにどうにかなってしまうという訳ではないが、適切な処置をしなければ後々の活動に響いてくるだろう。
「後々の活動、か。とりあえず、ここから脱出しないと。そうだ、まずは行動しないとな……こんな場所で、死ぬわけには……」
一瞬、脳裏にバルゴス達の顔がよぎる。
こちらに対して追放を一方的を告げ、俺を殺そうとした奴らだ。
当然、許すことはできない。復讐したいとさえ思う。
だが俺は、胸中に灯る怒りの炎を必死に抑える。
「落ち着け……まず一番は、ここを生きて出ることだ」
あくまでも俺が信条としているのは『死なない程度に頑張ること』、言い換えれば『死なないように努力すること』だ。
復讐を原動力にして冷静さを欠くようでは、適切な行動なんて取れるはずもない。
バルゴス達のことは、ダンジョンから生還した後に考えよう。
「よし、ぐたぐた考えるの終わり! さっさと、上層に繋がる階段を見つけるぞ!」
ぐっと足に力を込めて立ち上がり、腰の剣に手を触れた。
回復ポーションも、地図も、食糧も、俺が持ち運んでいた全ての荷物は、逃げる途中で置いてきてしまった。
今の俺にあるのは、この剣だけ――
【ソロでのダンジョン探索を確認。『選択者』の一部機能が解放されます】
「…………は?」
【ミッションの達成報酬が受け取り可能になりました】
【『初めて冒険者登録をする』の達成報酬として、スキルポイントが500付与されました】
【『初めて武器を装備する』の達成報酬として、スキルポイントが100付与されました】
【『初めて依頼を受ける』の達成報酬として、スキルポイントが100付与されました】
【『ゴブリンを一体討伐する』の達成報酬として、スキルポイントが100付与されました】
【『コボルトを一体討伐する』の達成報酬として、スキルポイントが…………】
「な、なんだ……?」
唐突に、頭の中に声が響いた。
驚いて硬直する俺をよそに、その声は『ゴブリンを百体討伐する』や『初めて魔物からの攻撃を受ける』などの、俺がこの二年間で既に果たしたであろう内容を延々と話し続ける。
「達成報酬? スキルポイント? どういう意味だ?」
思わず疑問をこぼすが、声が返事をすることはなかった。
しばらく聞き続けていると、ようやく声が止んだ。
【『パーティーから脱退する』の達成報酬として、スキルポイントが100付与されました】
【現在のスキルポイントは15,300です】
先ほどまでの騒々しさはどこへいったのか、最後にそれだけ告げると、声は再び黙り込んでしまった。
いきなり出鼻をくじかれた気分だが、そんなことがどうでもよくなるほど、俺は驚いていた。
「『選択者』、意味の無いスキルじゃなかったのか……」
これまでの人生で一度も効果を発揮したことがなかったので、完全に意識外へ追いやっていた。
思い返せば、俺はソロでダンジョンに挑んだことがなかった。
冒険者ランクをDランクに上げる試験には「一人でダンジョンの魔物を討伐する」というものがあるらしいが、俺はパーティーの雑用で忙しく、試験を受ける暇がなかったのだ。
そのせいで冒険者歴が二年あるにもかかわらず未だにEランク冒険者なのだが、それはひとまず置いておこう。
……しかし、無意味なスキルではないことが判明したのは喜ばしいが、相変わらず使い方がわからない。
使用方法が自然と頭に浮かぶ、ということも無く、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
「いや、少し考えてみよう。確か、スキルポイントとか言ってたよな……」
スキルポイント。
単純に考えれば、スキルに関連する何かしらの力みたいなものだろうか。
考えられる用途としては、スキルの強化、もしくはスキルの取得、といったところか。
……いや、仮定で考えたが、さすがにそんな事ができるとは思えない。
スキルは生まれ持ったものが全てであり、後からスキルを手に入れた、なんて話は聞いたことがない。
「当たり前だよな。仮に『剣術』のスキルが欲しい、なんて思っても習得できるわけ……」
【『剣術』はスキルポイントを500消費することで取得可能です。取得しますか?】
「……え?」
今なんて言った? 取得可能?
「まさか、できるのか……?」
俺は困惑しながらも、頭の中で「取得したい」と念じてみる。
【『剣術』を取得しました。残りスキルポイントは14,800です】
……マジか?
本当にスキルが手に入ったのか疑問に思いながら剣を振るってみると、心なしか剣筋がよくなっているような気がする。
ならばと思い、自分が思いつく限りのスキルを思い浮かべる。
他人のスキル名について聞く機会なんてあまり無かったが、ベレニアとエイリス、それと他の冒険者のスキル名くらいならいくつか知っている。
もしこれでスキルが取得できるなら、ここからの脱出も現実味を帯びてくるだろう。
【『魔導強化』を取得しました。残りスキルポイントは14,300です】
【『治癒の加護』を取得しました。残りスキルポイントは13,800です】
【『鷹の目』を取得しました。残りスキルポイントは13,500です】
【『多重詠唱』を取得しました。残りスキルポイントは13,000です】
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【『スキルを二十個取得する』の達成報酬として、スキルポイントが500付与されました】
【現在のスキルポイントは8,200です】
「……とりあえず、こんなところか」
現状、俺が知っている戦闘系スキルは全て取得することができた。
『火の才能』のような各種属性強化系のスキルや、身体強化系のスキルを入手できたのはかなり大きい。
それと『魔力感知』というスキルを取得した影響だろうか、魔力の流れ?らしきものも見えるようになっていた。
試しに、エイリスが使っていた治癒魔法を思い浮かべて、足の傷に手を向ける。
「『ヒーリング』」
柔らかい光が傷を包み、先ほどまでの痛みが嘘のように引いていく。
初めての治癒魔法だったが、問題なく使えるようで何よりだ。
「……よし、そろそろ行くか」
身体は万全、戦闘力も底上げできた。
あとは俺の頑張り次第だろう。
絶対に、生きて帰るんだ。
そう考えながら俺は、ダンジョンの大通路へ向かって歩き始めた。




