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決着

 ……今まで感じたことがないような激しい揺れを受けて、私――エミルは目を覚ました。




「……ぅ…………一体どうなって……」


 目を覚ましたばかりの耳に飛び込んできたのは、金属が激しくぶつかり合うような轟音だった。


 ガンガンと響く頭痛に耐え、顔を上げる。



「あれは……!?」


 信じられない光景が、目の前にあった。



 火花が散り、地を揺らすほどの爆音が起こったと思えば、次の瞬間には違う場所で火花が散っている。

 恐ろしいほどの速さで移動してその現象を引き起こしているであろう存在は、もはや視認することすら困難だ。



 そんな状況だったが、直感的に理解できたこともあった。



「まさか、ロイスさん……?」


 とても人間ができるとは思えない戦いだが、いろいろと規格外な彼ならば可能なのではないか。

 そう結論付け、立ち上がるため足に力を入れたが、一瞬眩暈(めまい)がしてバランスを崩しかける。



 とっさに手をつくが、こんな状態で加勢ができるとは思えなかった。

 そもそも万全だとしても、あの戦いに割って入ることなどできるだろうか。

 あのレベルの戦闘だ。

 下手に突っ込めば、一瞬で死にかねない。



「私は、どうすれば……」



 やはり私にできることなんて、ここで縮こまっているくらいしか……





「…………いいえ、違いますね」


 頭に浮かんだのは、ロイスの顔だった。


 私を助けてくれた。

 仲間だといってくれた。


 そしてなにより、真っ直ぐに『私』のことを見てくれた。




 ……これまで私は、パーティーを組んだことがなかった。

 できなかったのではなく、しなかったのだ。



 私をパーティーに勧誘しようとした人もいた。

 君のユニークスキルは素晴らしい、ぜひ力を貸して欲しい、と。

 しかしその目は、私ではなく、私のスキルだけを見ていた。


 そうだ。

 私に近づいてきた人達はどことなく、あの奴隷商を彷彿(ほうふつ)とさせた。

 ユニークスキルというレアな存在を、なんとか自分のために利用しようと考えている。


 そんなことが繰り返され、私は軽く人間不信に陥りかけていた。


 そんな中、彼に出会ったのだ。

 ロイスは私に対して、一人の女の子として普通に接してくれた。

 助けてくれた恩を返そうと思い、彼の前でユニークスキルを使ってみせた後も、その扱いを変えることはなかった。


 私という人間を見て、信頼してくれている。

 それが、なによりも嬉しかった。



 ……今のロイスは戦っている。

 信頼に応えるためには、まず行動だ。


「私にも……できることは、まだあります……」


 相変わらず頭は痛い。

 が、動けないほどではない。


 ……少しでもロイスさんの助けになりたい。

 そう考えながら私は、地を這うように移動を始めた。









 謎の声が話しかけてきたのも、なぜか俺が知らないはずのスキルを取得できたのも、全てが予想外のことだった。

 だが、やるべきことは決まっている。


「『悪竜駆動(アジ・ダハーカ)』」


 先ほど手に入れたスキルを発動した。


 身体の芯から力が溢れ出る。

 が、それと同時に、尋常ではない量の魔力が消費され始めた。



 このスキルはおそらく……目の前の悪魔が使っているスキルと同系列のものだ。

 大量の魔力と引き換えに、莫大(ばくだい)な身体能力を得る、ハイリスクハイリターンな諸刃(もろは)の剣。


 そんなスキルを俺は取得したのだ。



 なぜ、とは思わない。


 あの声は言っていた。

 【汝の選択を照らす】と。



 あのタイミングでそんなことを言っておいて、無意味なことをする、というのはさすがにないだろう。


 ならばこのスキルは、今の状況を打開するための切り札たりえるはずだ。




 身体に意識を集中させた。


 ……俺の魔力が(から)になるまで、あと三十秒、といったところだろう。

 しかし、それだけ時間があれば十分だ。


 



 剣を構えて、悪魔へ突撃する。


『ククク、馬鹿ノヒトツ覚エダナ』


 悪魔は笑い、俺の剣を受け、しかし受け止め切れずに反対の壁へ吹き飛んだ。



 当然だ。

 お互いに同系統のスキルを使っているとはいえ、悪魔と俺ではスキルの性能が圧倒的に違う。



『グハッ! バ、馬鹿ナ!』


 再び悪魔との距離を詰め、剣を振るう。

 悪魔の表情からすでに余裕は消え失せ、必死に俺の攻撃を回避していた。



『アリ得ナイ! ナンダ、ソノ(チカラ)ハ!』



 俺が一太刀浴びせるごとに悪魔の傷が増え、その傷が再生する間に新たな傷が十増える。


 天秤はすでに、こちら側に傾いていた。



 一秒間に数十の斬撃を放ち、悪魔の身を正確に狙う。

 振り下ろし、打ち上げ、突き入れる。

 あらゆる方向から迫る剣を全て防げるはずもなく、悪魔は致命傷になりえる攻撃だけをギリギリで防御していた。


『ドウナッテイル! アッテハナラヌ……コノ我ガ、人間ゴトキニ負ケルナド……』



 剣と鉤爪がぶつかり合った。



 ……普通の剣ならば、衝撃に耐えられずに砕け散っていただろう。

 しかし俺の剣には、エミルが付与(エンチャント)してくれた能力がある。



『これでしばらくは、この剣が折れることはないしょう! どんな化け物が相手でもへっちゃらです!』


 その言葉を信じて、全力で剣を打ちつけ続ける。




 鋭く伸びていたヤツの鉤爪は今や、ところどころひび割れており、耐久力の限界が近いということを示していた。



『人間風情ガ、イイ気ニナルナヨ!』


 悪魔が大きく跳び退いた。

 俺は、すかさず追いすがる。


『我ガ命ニ代エテモ、貴様ダケハ殺ス!』



 空中で悪魔は、体の向きを反転させた。


 さらに、(まと)うオーラが濃く、大きくなり、筋肉がボコボコと盛り上がる。

 ヤツの傷口からは青い液体が溢れ、肉体の再生はすでに止まっていた。


 純粋な力だ。

 ヤツは今の俺に匹敵するだけの力を、体の奥底から絞り出していた。



 あれが、奥の手というヤツだろうか。

 どこまでも周到な奴だな。



 ……だけど、俺は一人で戦っているわけではない。



『死ヌガヨイ!』


 悪魔が着地した。

 ヤツは全身の力を、振り上げた腕へ、大地を踏みしめる足へと集中させる。

 至高の一撃を放つために力強く踏み込み、その瞬間、地面の一部が崩れた。



『ナッ……!?』


 ヤツの右足が深々(ふかぶか)と地面に埋まり、力の行き先を見失った腕は虚しく(くう)を切った。





「……『付与(エンチャント):軟化』を地面に掛けておきました! あなたのようなデカブツが踏めば、当然崩れます!」

「ナイスだ! エミル!」



 片膝で立ちながらこちらにサムズアップするエミルに感謝しつつ、悪魔を見据える。




 遮るものは、なにもない。


 これで決着だ。



「はぁぁっ!!!」



 刃が振り下ろされ、悪魔の首を斬り落とした。



『アァ…………馬鹿ナ……我ガ……コンナ……トコロ……デ…………』




【『フィアーデーモンを一体討伐する』の達成報酬として、スキルポイントが100付与されました】

【『初めて迷宮主を討伐する』の達成報酬として、スキルポイントが2,000付与されました】

【現在のスキルポイントは4,500です】


【高難易度ダンジョンの踏破を確認。個体名『ロイス』の保有するスキル効果が向上します】



 ……悪魔の体が薄く発光して、少しずつ光の粒子となり、宙を舞った。

 薄く発光する粒子がダンジョンの壁を照らす光景に思わず、綺麗だ、という感想を抱く。



 粒子は空中を僅かに漂った後、ゆっくりと地面に染み込み、魔方陣を形成した。

 どことなく、俺が最下層に転移する直前に見たものと似ている。


 転移陣だ。

 地上へと繋がる道。

 俺達が待ち望んでいたものが、そこにあった。



「ロイスさ~ん!!!」


 エミルがこちらへ駆け寄り、そのまま抱きついてきた。

 引き剥がすべきかと一瞬考えたが、喜ぶ彼女に水を差すのも気が引ける。


「やりましたね! 本当に迷宮主を倒すなんて、やっぱりロイスさんはすごい人です!」

「ありがとう。だけど勝てたのはエミルの……」

「いいえ! 今回ばっかりは、間違いなく、九割九分ロイスさんのおかげです! というか、普通はもっと自慢気にするものですよ!」

「そういわれてもなぁ……」


 そもそも、自分はそういうタイプの人間でもない。

 それに、力を振りかざして威張るというのは、バルゴス達のようでなんとなく癪だ。


「とにかく、こんな場所からはさっさと脱出しよう」

「そうですね!」


 そこでエミルが思い出したように「あ!」と声を上げた。


「どうした?」

「いえ……なんといいますか……その……」


 彼女にしては妙に歯切れが悪かった。

 一体なんだろうと思いながら彼女を見ていると、エミルはこちらの目を真っ直ぐに見て、口を開いた。


「ちょっとしたお願いといいますか……あのですね……もしロイスさんさえ良ければ、ここから出た後もパーティーを組んで、一緒に活動したいんです」


 そう告げたエミルの目は、不安に揺れていた。

 そういえば、彼女は今までパーティーを組んだことがないと言っていた。

 こうして誰かをパーティーに誘うというのも、彼女にとって初めてのことなのだろう。



 ……やけに神妙な顔つきだったので何事かと思ったが、そんなことだったか。



「もちろん。むしろ俺の方からお願いしようと思ってたよ」

「そ、そうですか!」


 俺の返事を聞いた彼女は、パッと表情を明るくした。

 やっぱりエミルには、明るい表情の方がよく似合う。


「……そうと決まれば、こんなダンジョンからは早くおさらばしちゃいましょう!」

「ああ、そうだな」


 嬉しそうに歩くエミルと共に、俺は魔方陣へ向かって歩きだした。

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