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異世界を渡る吟遊詩人は怪談が専門です。  作者: 輪ニ
開けてはいけない扉
36/89

八、開けてはいけない村の扉

 ミミは村の裏木戸(うらきど)を開けた。


「いやー、まさか宿を追い出されるとはね」


 夜道を歩きながら愚痴をこぼす。

 無理に軽い口調にしているようだが、そうやって彼女は心のバランスを取ろうとしているのだろう。


「夜中だよ? 普通は一晩泊めてくれても良くない?」

「村の英雄に詰め寄ったんだ。仕方ないだろう」

 カイエンがなだめるように言う。

「適当なところで野宿でもするか」

 村から続くあぜ道は、月に照らされて白く光っていた。


「まあ、俺のぶら下げているこの剣だって、『殺す研究』の末、出来たものだ。あまり人の事は言えんさ」

「いやいや、あんたのそれは、モンスターを討伐したり、野盗を返り討ちにしたりするためでしょ。同じじゃないよ」

「どうだかな」


 ずっと黙り込んでいる吟遊詩人の男に「大丈夫か、先生」と、カイエンが声をかけた。

「国が違えば『死』の扱い方も違ってくる。先生の故郷とは、考え方が違うかもな」

 労わるような口調のカイエンに、「ええ……」と吟遊詩人は答える。


「もしかしたら、追い出されて良かったのかもしれません」 

と、吟遊詩人はぽつりと言った。

そして歩を早めながら

「出来る限り、先を急いだ方がいいでしょう。私たちは命拾いをしたかもしれません」

と言った。


「ん? 命拾いってどう言う事? 先生」


 ミミが小走りでついて行きながら、怪訝な面持ちで訊ねる。


「軍の援助を受けているのでしたら、もしかしたら、村人の中に軍の関係者が紛れ込んでいたかもしれません。アリウムさんの研究は、どう考えても軍の機密事項でしょう」


 カイエンが「なるほどな」と頷く。

「え? どういうこと? 何がなるほどなの?」

「俺たちは、下手したら殺されていたかもしれないって事だ」

「……え?」


 呆然とするミミに、吟遊詩人は優しく微笑む。

「表向きは、都会から流れ着いた錬金術師と、彼を支える村人……そういう事にしておきたい筈です。田舎暮らしを満喫する錬金術師のいる村、まさかそこで恐ろしい研究がなされているとは思わないでしょう」 


「最新兵器の情報なんて、万が一にも他国に知れるわけにはいかないからな」とカイエンが言う。

「おそらく、機密を守るために、これからどんどんと排他的で閉鎖的な村になっていくだろうよ。まあ、田舎の村だったら余所者を嫌うのも珍しくもないし、不自然に思われないだろう」


 吟遊詩人はカイエンの言葉にため息をつく。

「もし、外部の人間が、村の扉を叩いても、よくて追い出される。悪くて——」

「消されるな」

 きっぱりとカイエンが言い切る。


 吟遊詩人は「そのうち、生体実験も行うでしょうし」と呟いた。


「じゃあつまり、めちゃくちゃ危険な村って事なんだ」

 ミミの言葉に、吟遊詩人は「そうですね」と頷いた。

 後ろを振り返れば、村はすでに遠くに見える。



「あの村の扉は、決して、開けてはいけないのですよ」




         開けてはいけない扉——了——

いつも読んで頂きありがとうございます。


更新が続けられるのは、ひとえに読んで下さる皆さまのおかげです。


もし、楽しんで頂けたら、ブックマークや星を押していただけると大変励みになります。


次の章は、ライトノベルの王道、メイドさんハーレムにチャレンジしたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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