七、村の英雄
僕は扉を開けた。
そこには、バンクシアがいた。コワニーもいた。
それだけじゃない。村の人々が、扉の外に立っていた。
「皆さん……」
バンクシアが、部屋の中に入ってくる。
そして、吟遊詩人達の方を見て言った。
「駄目ではないですか、旅のお方! こんな夜中にアリウムさんの家へ押しかけては!」
ミミが「は? ……え?」と戸惑いの声をあげる。
「アリウムさんは、村のためになる、人類のためになる、人のためになる大切な研究をしているのですぞ! それを邪魔してはいけません」
「でも……この人はお墓を掘り返したんだよ?」
「だから何だというんです」
とミミを睨みつけてバンクシアは言った。
そして、僕の方を見て「いや一言、言って頂ければ、自分も墓荒らしだと大騒ぎしなかったんですがね」とウインクしてみせた。
「すみません、バンクシアさん」と僕は頭をかく。
「ちょっとあんたら……おかしいよ。だって、この人、勝手に棺を開けたんだよ。人道的にそれってどうなの? しかも、戦争のための研究をしているんだよ!」
ミミは、半分泣き叫んでるかのようだった。
「戦争戦争って簡単に言うけれど、人が……人が死ぬんだよ? わかっているの?」
ミミの言葉に
「あんた、今さら何言ってるんだ」とバンクシアが言う。
「ねえ、おじさん、もともと村の人の為になるような研究していたんでしょ。動きを感知する魔道具とか、空を飛ぶ魔道具とか。そういう研究しなよ、何で戦争なんかのためにーー」
「いえ、いえいえ」
僕はミミの勘違いに気がつく。
「ミミさん、それは違いますよ」
「何が違うって言うの」
「動きを感知する魔道具も、空中を浮遊する魔道具も、僕は全て兵器として開発しました」
「……おじさん…あんた……何言ってるの」
ふらついたミミを、吟遊詩人の男が支える。
「動きを感知する魔道具はですね、元々は地中に埋めて、その上を敵が通った時に動きを感知して爆発するように開発したものです。それをちょっと応用して、バンクシアさんにお貸ししたのです」
ーー人の代わりになる装置。これからはこう言ったものが必要になってくると思うんです。
「空中を浮遊する魔道具は、コワニーさんに種を蒔く用にお渡ししましたが、元々は、敵陣を偵察したり、敵の隊列の頭上から毒煙を撒くために開発したものなんです」
ミミもカイエンも動揺した様子だけれど、村の皆は、それを冷ややかに見つめている。
「なるほど……軍から、この村自体が資金提供を受けているんですね」
吟遊詩人の言葉に、「な……!」とミミが声を上げる。
「何か問題でも?」
と言ったのは、バンクシアだ。
「アリウムさんが来てから、村は豊かになった。軍から援助があるし、彼の研究の恩恵も受ける。彼は、この村の英雄なんですぞ」
「そうだよ、いつも助けてもらってるんだから」
そう言ったのはコワニーだ。
「相談に乗ってくれる」
「魔道具も無償で貸してくれて」
「修理までしてくれる」
他の村人も、口々に声をあげる。
「皆さん……」
いつのまにか、僕は涙を流していた。
ずっと居場所を見つけられなかった僕が、こんなにも誰かに必要とされるなんて。
ミミは呆然としているようだった。
「あんたらみたいなのがいるから……」とか細い声で呟いている。
カイエンが何を考えているのか、仮面に覆われた顔からは何も窺い知れない。
吟遊詩人はそっと少女の背中を押し、「行きましょう」と静かに言った。
吟遊詩人の一行は、そうして去って行った。
立ち去った三人を見送った後、コワニーさんが、僕の背中をバンバンと叩く。
「ほら、泣きべそかいてんじゃないよ、全く」
バンクシアさんも「今日はもう遅い。ひとまず休みなさい」と言う。
ゾロゾロと解散する村の皆の方へ向かって、僕は小さな声で呟いた。
「僕にとっては皆さんが英雄ですよ」




