最後の抵抗
喜びながらもクロエは少し表情を硬くして尋ねた。
「何か考えはあるの?」
ダイアンは即座にカーティスを指さした。
「カーティスを見てみろ。」
言われた通りナックとクロエがカーティスを見てみると、カーティスは無数のワイヤーに串刺しにされて動けなくなっていた。クロエは思わず感嘆の声をあげた。
「すごい!カーティスがピクリとも動けない!」
ナックが質問した。
「これが新しい武器か?」
「ああ。動けない今がチャンスだ!」
ダイアンはワイヤーを地面に刺して巻き取るスピードを上げると、抜刀した。そして、最高到達点に達すると、ワイヤーをカーティスに刺し、腰を使って回り、遠心力をかけれるだけかけて斬りかかった。攻撃は命中し、カーティスの頭に切り傷を残すことに成功した。突然の攻撃に、カーティスは面食らい、身体をねじってダイアンを落とそうとしたが、ダイアンは両脚をカーティスの首に回して踏ん張り、剣をカーティスの首に目掛けて振るった。しかしカーティスはこの攻撃は予測できたらしく、剣に噛みつき、粉々にしてしまった。ダイアンは両脚のホールドを解くと、ワイヤーを地面に刺して一時避難した。
「悪い、微妙にミスった。クロエ、お前の出番だ。俺とナックでアイツを弱らせる。その隙にお前はアイツの口の中を突け。」
するとナックは即座に反論した。
「他に攻撃できる箇所があるんじゃないか?」
「ないから言ってるんだ。アイツの皮膚は鎧みたいに硬えし、牙が厄介だ。皮膚を傷つけてもより硬く再生するし、より殺しにくくなる。体内は外ほど強くねぇと思う俺の推測だ。」
ナックはさらに声を荒げた。
「だったらなおさらだ!それでクロエが怪我したらどうする?」
クロエはナックが言い終わらないうちに承諾した。
「ダイアンの指示に従うわ。」
ナックは声を軽く裏返らせた。
「いいのか?」
「2人が痛い思いをしてるのに、私だけこんなじゃ申し訳ないわ。それに、ようやく役に立てて嬉しいの。」
ダイアンは澄んだ瞳でクロエを見つめた。
「確実に弱らせてから合図を送るよ。約束する。」
クロエはうなずいた。それを見てダイアンはナックとアイコンタクトを取ると懐からグロックを取り出してカーティスに向かって行き、腹部に銃弾を見舞った。再生しきれてない体にできた傷に、カーティスはのけぞった。
「後ろがガラ空きだぜ!」
ナックはデザートイーグルの全弾をカーティスの尻尾の先目掛けて撃ちまくった。カーティスの尻尾は衝撃に耐えきれずとうとう落とされた。
ダイアンとナックは叫んで指示を出した。
「今だ、クロエ!」
クロエはナイフの切っ先をカーティスに向けると、突進した。カーティスは痛みに耐えきれずに口を開けている。今ならいける!クロエは体重をかけてナイフを突き出した。
刺そうとした瞬間、クロエの脳裏に感染する前のカーティスと自分達の仲睦まじい姿が次々と浮かんできた。もし、感染していなかったらこんな事にはならなかったのに。そう思った途端、クロエの体は動きを止めて身を震わせ、理性が殺生を禁じて思いとどまらせた。クロエの異変に気づいたダイアンはすぐさま話しかけた。
「どうしたクロエ!?怖いのか?」
「そうよ。殺すことか怖いの!カーティスを殺すなんて、私にはできない。だって元々ペットだったでしょ?」
ダイアンはため息交じりに答えた。
「イーデンにも言ったが、確かにコイツはカーティスだったワニだ。だが、今は人を傷つける凶悪な化け物なんだ。お前がやらなきゃ俺がやる。ナイフを貸せ。」
ダイアンがクロエからナイフをもらおうとした瞬間、何かが2人の手の間を遮り、ナイフを落とした。
目で追ってよく見てみると、それは再生したカーティスの尻尾だった。ダイアンはカーティスの治癒力の高さに目を疑った。
「嘘だろ、尻尾がもう?!」
ナックは悪態をついた。
「もうデザートイーグルの弾は全部ないぞ!」
ダイアンは素早く息を吐いて自分を振るい立たせるとナックに向き直った。
「とにかく尻尾をどうにかするしかない!」
ダイアンとナックは多方向に動いてカーティスの尻尾をかわした。クロエは慌ててナイフを拾ってダイアン達の方へ向かおうとしたが、カーティスの尻尾がクロエの目の前で地面を砕き、かけらを浴びせた。クロエはなんとか大きな瓦礫を見切ると、転がって伏せた。
「クロエがまずい!」
そう叫ぶとナックは倒れたクロエの元に駆け寄って抱き起こした。
「クロエ!大丈夫か!」
クロエは身体についた汚れや小さい瓦礫を払いながらむっくり起き上がった。
「大丈夫よ・・大きなケガはしてないわ。」
「それなら良かった。」
安堵するナックが手頃だと思ったのか、カーティスは尻尾をナック目がけて振るった。
「危ねぇぞ、ナック!」
ダイアンは慌ててナックを突き飛ばした。カーティスの尻尾はダイアンの腰に巻きつき、雑巾を搾るように締め上げていった。2人は慌てて叫んだ。
「ダイアン!!」
ダイアンは締め付けられて短い悲鳴をあげたが、自分に構わずにとどめを促した。
「俺に構うな!早くとどめを!」
このままじゃ、ダイアンが危ない!クロエはナイフを強く握りしめると、カーティスに向かって突進した。クロエを見たカーティスは裂けるほど大きく口を開けた。
「私は餌じゃないわ!カーティス・・・」
クロエは切っ先を口蓋にしっかりと向けた。
「ごめんなさい・・・・・・」
クロエは断腸の思いと共に、全体重をナイフにかけてカーティスの口蓋を貫いた。




