親睦を求めて
最初にワニを散歩させている男に近づいたトレバーがワニに触っていいか男に尋ねた。
「おじさん、ワニに触ってもいい?」
男はあっさり了承した。
「いいよ。優しくな。」
許可をもらったトレバーがワニに手を伸ばそうとした時、ダイアンが慌てて止めた。
「許可をもらったとはいえ、やすやす触るもんじゃない。」
フィリップもうなずいてやめさせようとした。
「そうだよ。このワニが大人しい保証なんてないんだから。」
すると男がワニの頭を優しく撫でながら2人に弁明した。
「それは偏見だ。うちのカーティスは飼い始めてから一度も人を襲ってないぞ。」
ダイアンは男に尋ねた。
「カーティスはワニの名前か?」
男はうなずいて答えた。
「ああ。ちなみに、俺はイーデンっていうんだ。」
フィリップはイーデンの命名のセンスに感心した。
「ずいぶん人間らしい名前をつけたな。」
イーデンは少し得意気に言った。
「俺が子どもの時から飼ってるんだ。兄弟みたいに、どこへ行くのも一緒だよ。」
ダイアンは質問した。
「どれくらい前から?」
イーデンはあっさり答えた。
「15年前からさ。」
それを聞いたダイアンとフィリップは思わず同時に叫んだ。
「15年!?」
2人の叫び声に、カーティスを触っていたトレバーが肩をすくめて手を引っ込め、噴水の前で談笑していたナックとクロエが辺りを見渡した。
頬を紅潮させて驚くダイアンとフィリップとは対照にイーデンは淡々と述べた。
「そんなに驚くことないだろ。ワニはその辺のペットよりは長生きなんだから。」
フィリップは質問した。
「どれくらい生きるんだ?」
イーデンは詳しく教えた。
「約3~40年だな。うちのカーティスはイリエワニだから、70年くらい生きるかな。」
ダイアンが再び驚いた。
「人間並みに生きれるじゃねーか!どうするんだよ、普段の生活は。」
イーデンは改めて強くカーティスの安全性を説いた。
「さっきも言ったけど、カーティスは人は襲わない。だから、色んな場所で人気者さ。それに、ワニを飼ってるってだけで有名人になれるし、泥棒は入らないし、良いことずくめだ。」
ダイアンは顎に手を添えた。
「確かに、わざわざワニのいる家に入らねえよな。」
フィリップも強くうなずいた。
「エサにして下さいって言ってるもんだし、それで入るならよほどの物好きだろうな。そういえば君、名前は?」
ダイアンは軽く詫びて名乗った。
「俺がまだ話してなかったか?俺の名はダイアン・タスカーだ。」
フィリップは微笑んで握手を求めた。
「よろしく、ダイアン。」
ダイアンも笑顔を浮かべて握手に応じた。今後はナックとクロエの叫び声がセントラルパークに響いた。
ナックはカーティスを指さして叫んだ。
「見ろよクロエ!あそこにワニがいるぞ!」
クロエはカーティスを触っているトレバーを心配した。
「ほんとだ!触ってる子がいるけど大丈夫なの!?」
それを見たダイアンは軽く声をあげて笑った。
「おっ、アイツら俺達と同じ反応してるよ。」
「ほんとだ。─失礼、電話が入った。」
フィリップはバイブを響かす電話を手に取ると、ダイアンから数歩離れて応答した。と同時にクロエがダイアンに近づいた。
「ダイアン、ここにいたの?」
ダイアンは軽く受け流してトレバーを五本指で指した。
「どこにいたっていいだろ。それよりも、この子を覚えてるか?」
クロエはトレバーを見ると叫んで抱きついた。
「あなたの両親を探すのを手伝った子よね?覚えてるわ!良かった、元気そうで!」
ダイアンはクロエの反応を見ると笑顔を浮かべてトレバーを紹介した。
「コイツはトレバーっていうんだ。俺のことも覚えてたらしい。」
クロエはダイアンの横で電話しているフィリップを指さした。
「あなたの横で電話してる人は?」
「フィリップ。トレバーのいとこだ。」
トレバーは抱かれたまま少し頬ずりをするとクロエににっこり微笑んだ。
「久しぶり、お姉ちゃん!」
電話を終えたフィリップは丁重にクロエに礼を述べた。
「君がトレバーを助けてくれたのか、ありがとう!」
クロエは顔の前で手を横に振った。
「礼はいらないわ。それよりもフィリップ、誰と電話してたの?」
「母さんと。もうちょっとしたら僕たちは帰るよ。」
ナックはまだカーティスに驚いていた。
「こんな所でワニを見るなんてな。」
クロエはクスクス笑った。
「ナック、驚きすぎよ。さっきからそれしか言ってないじゃない。」
ナックは頭を掻いた。
「2人を邪魔したかもしれないと思って。」
フィリップは首を横に振った。
「そんなことないよ。僕は電話してたし。」
ダイアンもうなずいた。
「最初は俺がそっちに声をかけようとしたんだよ。」
トレバーはフィリップのそばに立って先ほどのフィリップの言動をナックとクロエに伝えた。
「でもフィリップお兄ちゃんがお姉ちゃん達を邪魔したらダメだって言ったの。」
それを聞いた2人は驚いてお互いを見つめた。フィリップは慌ててトレバーをたしなめた。
「そういうのは言わなくていいんだよ。」
クロエはトレバーの頭を撫でながら微笑みかけた。
「そうだったの。ありがとうね、トレバー。」
ナックはフィリップに笑いかけた。
「気にするなよフィリップ。子どものやることじゃないか。」
ナックの言うとおり、トレバーは大人達の言うことは全く無視してワニと戯れていた。
「全く・・・」
フィリップは呆れたが、後の3人は全く気にせず、ワニに触ったり、飼い主のイーデンと話していた。
クロエはカーティスを触って感触に驚いた。
「改めて触ると、ワニの皮膚ってゴツゴツしてるわね。」
ナックは触りながらカーティスの口輪を少し警戒した。
「噛まないように口輪をしてるとは言え、近づくのは勇気がいるな。」
イーデンはカーティスの頭を撫でた。
「平気だよ。カーティスは今まで人を襲ったことはないんだ。」
「油断は禁物だぞ。世の中何が起こるかわからないんだから・・・・」
ダイアンは胸騒ぎを覚えたので、周りを見回しながらイーデンに忠告した。ダイアンのただならぬ雰囲気を感じたフィリップはダイアンに尋ねた。
「君は普段どんなことをやってるんだ?少なくともその辺のヤツよりはすごいことはわかる。」
ダイアンは自分の説明が難しくなってため息をついてはぐらかした。
「話すと長くなる。あんたの言ったことがあらかた正解だ。」
ダイアンの不安を裏切らず、この平穏な世界を壊そうとする者が同時刻、このセントラルパークにいた。前髪を目の辺りまで伸ばした男がダイアン達の死角から腕を伸ばし、注射針のようなものをワニのカーティスに向けて発射した。




