魅力ある敵
ダイアンとクロエは男の後を追って階段を上がってドアに駆け込むと、男がマリーとエリザベートに怒りを露わにしていた。
「よくもあんないい顔して泥棒まがいのことができたな。猫をかぶるなんて正にこのことだ。さあ、財布を返せ!!」
マリーは男を見据えてドライな口調で言い放った。
「最初っからこんなのに興味ないわよ。」
エリザベートが挑発的な態度で口を開いた。
「私たちが欲しいのは、あんたが持っている情報─そうでしょう、ダイアン?」
ダイアンは肯定の意味を込めてドアを閉める音を響かせた。
「諦めな。お前はもう、袋のねずみなんだから。」
ダイアンはナイフの切っ先を男に突きつけると、ジリジリ迫った。
「お前にはニッポンの亡霊って言った方が早いか。命が惜しければニッポンの欠けらを渡せ。」
「そうか、お前が巷のニッポンの亡霊か・・・」
男はいきなり笑いだした。笑う訳がわからずダイアンは怒鳴った。
「何がおかしい!」
「袋のねずみになったのはお前らだ。そんな人数で、そんなチンケな武器で俺を、チェンジアメリカを潰せるわけないだろ!」
「潰せるよ。お前くらいなら容易くな。」
ダイアンは不敵に笑って手を上げると、アルバート、バージル、ナックが物影から飛び出して武器を男に向けた。
「ダイアン、持ってきたぜ!」
アルバートは剣をダイアンに投げ渡した。
「サンキュー、アルバート。どうだ、まだ潰せないと吠えるのか?」
「さすが、亡霊だけあって話が通じないようだ。」
男はダイアンの言葉をけなすと、手のひらから鎖状のものを生み出し、それを念を込めるようにもう片方の手のひらを動かした。鎖状のものは徐々に形を変え、最終的には先端が平たくも鋭くなった大きな槍に変わった。予想外の出来事に、JRSメンバー全員は目を見開いて固まった。だが、ダイアン達の驚きはそこで終わらなかった。男は武器を生み出した手とは反対の手でリップオフを生み出した。しかし、どのリップオフも剣や槍などの武器を携えていた。ダイアンは動揺を隠しきれないまま男に質問した。
「この辺のリップオフはお前が生み出していたのか。
どうしてリップオフや槍を生み出せるんだ?それはリップオフ同士でしかできないはずだろ?」
男はダイアンの質問を鼻で笑った。
「これも、ヤツらの力と言う他はないな。残念だったな。武器はお前たち人間しか使えないと思っていたのか?」
ダイアンが再び口を開いた。
「ならば、なぜリップオフを丸腰で暴れさせたんだ?」
「人間に力の差を思い知らせるためだよ。お前たち人間は丸腰の連中でも随分と苦しめられてきたじゃないか。それでも、こんな風に抵抗するバカがちらほらいるから、そこが魅力なんだがな。お前たち、前のパーティーでウチのカサンドラを倒したな。アイツはデカくなることしか取り柄のないバカだったが、バカ同士ぶつけるのがちょうどいいと思ったんだよ。だが、そんな栄光の日々は今日でおしまいだ。」
男は両目を銀色に輝かせると、リップオフに叫んで命令した。
「お前ら、JRSを全滅させろ!女とて容赦するな!好きに暴れろ!」
ダイアンも負けじと男と同等の覇気を以って味方に命令した。
「全滅すんのはそっちだ。やられる前に数を減らすぞ!」
JRSメンバー全員がウォッチハンターの照準をリップオフに合わせた。
ダイアンは自分とメンバー全員に言い聞かせるように指示を出した。
「しっかり引きつけてから撃て!」
「お前らが全滅するのとどっちが先だろうな。」
言いながら男は手を上げてリップオフ達に命令した。
「一人残らず殺せ。女とて容赦するな!」
ダイアンは男を見据えて仲間に檄を送った。
「武器持ちとて怯むな!こっちだって条件は同じだ。」
リップオフが向かってくるのと同時に、メンバー全員のウォッチハンターから勢いよく銃弾が放たれ、弾の後に続くようにダイアンが斬り込んだ。ダイアンは一体目のリップオフを走りながらの抜刀で斬り伏せ、続く2体目の槍を回転して避けながら回し蹴りを顔面に決めて陥没させた。そして、背筋を伸ばして腰を下げると、3体目のリップオフに行動させる間もなく、喉笛に正拳突きを貫通させて男の前にいたリップオフを全滅させた。男の前に立ったダイアンは周りのリップオフをどかせるために死にたくなきゃどけ、と目で語った。それを見た何体かのリップオフは一瞬動きを止め、本能でダイアンの強さを感じとり、目の前にいる敵から遠ざかった。これを見た男は感服した。
「その戦闘能力にその殺気、素晴らしい!
まるでアクション映画の俳優みたいだ。久しぶりに骨のある奴に会えた。」
ダイアンは眉間にしわを寄せて男の賞賛を煙に巻いた。
「俺の戦闘技術は見せたり痛めつける趣味でやってるわけじゃない。痛めつけられたいならそういう場所に行けよ。」
男はダイアンの難癖に構わずにやにやして言った。
「俺はお前の能力を買ってるんだ、ダイアン・タスカー。これ以上抵抗しなければ、お前だけは生かしてやる。悪い提案じゃあるまい。せっかく助かるチャンスを無駄にする必要はないだろう?」
ダイアンは男に聞こえるように一言一句丁寧に発音して言い返した。
「裏を返せば、俺以外は皆殺しってわけか。せっかくなんだから、俺以外も見逃してくれないか?」
男はゆっくりと首を横に振った。それを見たダイアンはやや挑発する口調で言った。
「じゃあ、情けは無用だ。俺の首が欲しいならとればいい。戦いってそういうものだろ?あと気持ち悪いから気安く呼ぶな。」
「そうやってすぐに戦うのは動物のすることだ。我々は人間だ、正々堂々と戦おうじゃないか。お互いが納得する条件付きだ。お前は何が望みだ?」
ダイアンは再び苦い顔をした。
「条件とか約束をさらっと言う奴は嫌いなんだよ。言ったってどうせ叶いっこない願いだ。」
「聞かなきゃわからん。言え。」
「ニッポンのかけらをくれ。」
「お前が俺と来るならあげよう。」
今度はダイアンがゆっくりと首を横に振った。
「じゃあ却下だ。行く気はさらさらない。」
「他には何が望みだ?」
ダイアンはしばらく黙ったあとにボソッと言った。
「じゃあこれ以上リップオフを増やすのを止めてくれ。」
男が少し首を捻った。
「俺には何のメリットがある?」
「本気で相手をして、必殺技で葬る。今までのヤツらは弱すぎて退屈してたんだ、だからありがたく思えよ。あと、お前の名前を教えてくれ。」
男は数秒の沈黙の後に頷いた。
「良いだろう。リップオフはこれ以上生まないと約束しよう。あと俺の名はルーカスだ。俺を殺したければどの攻撃にも本気を出せ。」




