逆転する立場
クリスは崩れ落ち、動かなくなった。
ダイアンは検死するために彼に近づき、脈をとった。その時・・・
「先に死出の旅を向かえるのはお前だ。」
クリスは突然起きあがると、ダイアンの胸ぐらを掴んで頭突きを浴びせた。予想外の状況にダイアンはフリーズして抵抗できず、ふらつく頭に必死に意識を保たせながらクリスに理由を聞いた。
「なん・・でだ?どうして生きてる?」
クリスは「お前の敗因は2つだ。1つ、リップオフの力を舐めすぎていたこと。」
そう言うと、クリスは閉じていた方の手のひらを開いた。そこには、銃弾がそのままの形で残っていた。ダイアンは動揺を隠し切れなかった。
「バカな!あの時片手で受け止めてられてたってことかよ!?」
「2つ、これは敗因でもあって、必然的なことだな。」
そう言いながらクリスは銃弾を、ダーツを投げるような構えでダイアンの腹部に狙いを定めながら言った。
「医者の言うことをないがしろにした罰だ。」
クリスは全神経を指先に集中させて、銃弾をダイアンに投げつけた。弾は銃から発射された時よりも威力を増し、ダイアンの服を貫き、衝撃を全身に浸透させた。その衝撃に耐えきれず、ダイアンは倒れた。敵が倒れるのを見届けたクリスはダイアンに近づいて、同情的にダイアンを見つめ、哀れむ様な声で語った。
「ここまでくると、逆に同情さえ覚えるよ。母親を目の前で、仲間を知らないうちに殺され、復讐を誓うも、叶わずに死んで行く。なんて惨めなんだ。」
クリスの言葉を聞きながら、ダイアンは自分の無力と歯がゆさに苛まれていた。もし、しっかり警戒していたなら・・・。もし、母親をあの時助けられていたなら・・・。もし、ヴィンディッシュを治療できていたら・・・。もし、腕を折られていなかったら・・・。
「俺からの餞別だ。向こうで母親が待っているから、苦しむことはないだろう。」
クリスはヤスリのように鋭くなった爪を敵の心臓へと狙いを定めた。
「あばよ、ダイアン・タスカー。母親を刺し殺した爪で送ってやるよ。」
もし、折れた腕が今治ったならば!!
ダイアンは叶うはずのない願いを抱き、祈って目を閉じた。その時、ダイアンはぬるい熱が折れた腕に巡るのを感じた。最初は気持ち悪い感覚だったが、熱がひいた時には折れた腕は痛みを全然訴えてこなかった。ダイアンは迫ってくるクリスの爪を掴んで立ち上がると、腹部に回し蹴りを入れて蹴り飛ばした。その衝撃でクリスの爪が折れた。クリスは脳内には焦燥が駆け巡り、困惑を顔に出して怒鳴った。
「ふざけるな!なぜ生きてる?」
ダイアンは渇いた声で笑いながら言った。
「敵に情報を渡す程、愚かなことはないんだろう?これから死ぬ奴に教える義理はない。」
敵ながら正論を述べるダイアンをクリスは改めて感心した。
「まあ、ゆっくり殺せばいい。続きを始めよう。」
ダイアンはマグナムをしまうと、代わりにバタフライナイフを取り出して開いた。冷静さを取り戻したクリスはダイアンに挑発ぎみの口調で言った。
「俺をなます切りにする気か?止めとけ。そんなんじゃ俺は死なない。」
「言い訳は十分だ。懺悔なら、数時間前のお前にするよう言え。」
クリスの言葉を物ともせず、ダイアンはバタフライナイフを素早くクリスの顔目掛けて振り回した。クリスは腕で顔を庇い、華麗なステップで後ろに飛んだ。ダイアンはその隙を逃さずにナイフを振り回し続け、とうとうクリスを壁際まで追いつめ、勝利を確信した。
「言い残したことは?」
クリスはダイアンを見据えてにやりと笑った。
「お前の技は見切った。」
クリスはダイアンが振るったナイフを受け流すと、目潰しを仕掛けた。ダイアンはすんでのところでこれを避け、先程とは立場が逆転し、今度はダイアンが倉庫内の中央まで後退する事になった。クリスはダイアンの手からバタフライナイフを蹴り落とした。
ダイアンはジャケットのポケットからゴルフボール程の球を取りだすと、クリスに投げつけた。
「爆弾か?!」
クリスは縮こまって球が当たらないようにしたが、球はクリスに命中した。しかし、球は何の変化もせずに、クリスの足元を転がるだけだった。クリスは嘲笑しながらダイアンをからかった。「不発弾を投げてどうするんだ馬鹿が!お前の復讐心はそんなものか?これならナイフを拾って攻撃した方がまだ良かったぞ!」
「馬鹿はお前だ。俺の復讐心がこんなものなわけねぇだろ!」
ダイアンはウォッチハンターのスイッチを押した。すると、球から無数のワイヤーが飛び出し、クリスの身体を貫いた。ワイヤーがクリスの動きを無力化したのを確認したダイアンは物語の読み聞かせをするような口調でクリスに話しかけた。
「いくら頑丈でも、至近距離で体を貫かれたんじゃ助からないだろ。」
拳を交えたことであらかた理解した敵の性格を感じ取ってクリスは思わず笑った。
「・・フフッ・・確かにな、お前が無駄な手など打つ筈がない。バタフライナイフを使ったのは、こうして俺を罠にかけるためか。」
「バタフライナイフ自体、振り回すくらいしか攻撃出来ないからな。お前の言う通り、なます切りにしたかったのも事実だ。良いことを教えてやるよ、なぜ俺が生きていたかを。ブラックリストさん。」
自分の所属している組織を言い当てられてクリスは思わず目を見開いた。
「ご名答。俺はお前の考えてる通り、リップオフの力を欲する組織の一人だ。だが、最近の襲撃にウチは関与していない。」
「情報提供をどうも。生きていた理由を教えてやるよ。」




