ダンスパーティー
翌朝、クロエとマリー、エリザベート、ヴィンディッシュは、ドレスの着付けにかかった。アクセサリーの形や色、髪型などを自分のセンスをフル稼働して着飾った4人は満足してリビングに向かった。男性陣からは感嘆や驚きの声があがり、その声は特にクロエに集中した。
アルバートが真っ先にクロエを褒めた。
「ヤバいな、クロエ。すごく似合ってる。」
バージルが少しオーバーに評価した。
「セレブの娘と言っても通じそうだぞ。」
ナックがもっともらしく褒めちぎった。
「このままモデルのオーディション、いやテレビ局に直行できるレベルだよ。」
男3人のクロエへの集中評価を見兼ねたマリーが軽く声を荒げた。
「ちょっとみんな、私たちには何かないの?!」
男性陣はいつものメンバーの予想しやすい格好にはあまり魅力的に映らなかった。
アルバートが言葉を見つけられずに口ごもった。
「そう言われてもな・・」
バージルはクロエを見た衝撃がまだ残っていた。
「クロエを見ちゃった後だし・・・」
ナックはあっさりと白状した。
「いつものメンツだし、あんまりパッとこないな。」
アイリスが女性メンバー全員を褒めた。
「みんな良く似合ってるわ。いい感じに着こなしてるじゃない?」
マリーはアイリスにすがる思いで礼を言った。
「ありがとうございます。アイリスさん。」
エリザベートが珍しく口調を荒げた。
「パーティーでキャーキャー言われてやるわよ!」
ヴィンディッシュは3人の評価を気にしない代わりにダイアンに望みをかけた。
「ダイアンなら褒めてくれる!」
クロエは女性メンバー全員を称賛した。
「みんな似合ってるわよ。それよりも、ダイアンはどこ?」
軽いパニック気味でダイアンを探すクロエに、アイリスが優しく答えた。
「先に行って待ってるわ。私たちも出ましょう。」
アイリスたちは会場のホテルへと向かった。
ホテルの入り口にはダイアンが壁にもたれて立っており、車を見つけると駆け寄ってドアを開けた。
ダイアンが動く前、クロエはダイアンの彫刻のような凛々しさに思わず写真を撮った。
「思ったより早かったな。さっきアナウンスがあって、時間を早めてダンスパーティーを開催するらしいんだ。そろそろ始まるぞ。」
ダイアンは車から降りる女性メンバーを手を差し伸べてエスコートすると、駐車しに行くアイリス以外の全員が降りたのを確認して先頭に立ち、会場内に案内した。後ろで女性メンバーはダイアンのエスコートを賞賛して心をときめかせた。
マリーが感嘆の声をもらした。
「相変わらずかっこいいわ、ダイアン。」
エリザベートが称賛した。
「ペースに合わせて手伝ってくれたし、助かったわ。」
クロエもダイアンの優しさに感動した。
「ほんと、王子様みたい!」
ヴィンディッシュだけはダイアンと組む決意を固めた。
「今日こそ一緒に踊りたいわ。」
クロエは怪訝に思って尋ねた。
「どういうこと?」
「ダイアンは誘っても全然応じてくれないのよ。今日はずっと一緒に踊ってやるわ。」
「がんばってね。」
ヴィンディシュには優しく言えたものの、クロエの心に影が差した。話を聞く限り、ダイアンはダンスがあまり好きじゃないみたい。嫌いなものにやる気なんて起きないだろうし、どうやって親睦を深めれば良いんだろう?クロエの不安をよそにダンスパーティーが始まると、すぐにヴィンディッシュはダイアンを誘った。
「ダイアン、良かったら踊らない?」
ダイアンは少し怪訝な顔をした。
「珍しいな、積極的に誘ってくるなんて。」
ヴィンディッシュは素直に想いを打ち明けた。
「ずっと一緒に踊りたいと思ってたの。」
ダイアンはあっさりと承諾した。
「わかった。」
ヴィンディシュは踊りながらダイアンに尋ねた。
「ドレス、似合ってるかしら?ナックたちの反応はイマイチだったの。」
ダイアンは優しく微笑んで感想を述べた。
「似合ってるよ。結構かわいい。」
ヴィンディッシュは上ずり気味の声で礼を述べた。
「ありがとう。」
クロエは踊るダイアンを目に焼き付けた。ピンと背筋が伸びて軽やかに手足を動かす姿は、明らかにその辺のダンサーや周りで踊る招待客の動きを凌駕していた。おそらく、プロから基礎を叩き込まれたのだろう。半ば軽く放心気味のクロエを見兼ねたナックは咳払いをして少し不愉快そうに声をかけた。
「踊らないのか?」
ナックの質問にクロエは半分ウソをついた。
「踊れないから、相手にならないわ。」
そう答えたクロエだったが、ナックには自分を誘おうとする魂胆が見えた。
「俺も下手だし、平気だよ。」
「でも・・・」
「止めろよナック。」
「クロエが嫌がってるだろ。」
アルバートとバージルが助け舟をだした。
アルバートがナックの反応を無視して優しく諭した。
「クロエ、気持ちはわかるけど、踊らなきゃ来た意味がないよ。」
バージルが丁寧に誘った。
「俺たちも踊れないから、一緒にマイペースでいかないか?」
「そうね。踊りましょう。」
クロエの手をとろうとしたバージルをナックが妨害した。
「俺が踊ろうとしてたんだ。邪魔するなよ。」
ナックがクロエから見えない角度とギリギリ聞こえない声ですごむと、アルバートとバージルは去っていった。そんな2人を見て、ナックは埃でも吹き飛ばすようなため息をついた。
「やっと2人で踊れる。」
「でもさっき言った通り、私は初心者よ。」
しかしナックは、
「気にするなよ。できる限りのエスコートをするから。」
と軽くあしらいダンスを始めた。
ナックは始め、クロエの言うことはダイアンを見続ける為の嘘だと思っていたが、彼女の言うことに間違いはなく、足捌きの悪さやステップの下手さが初心者を物語り、それに苦戦するハメとなった。クロエはあまりの未熟さに謝った。
「ごめんねナック!下手すぎてひいたでしょ?」
ナックはなんとか焦りを隠しながら答えた。
「心配ないよ!今まで相手にした女性はみんなこんなもん─痛っ!」
足にヒールを突き立てられたナックは悲鳴をあげた。
「ごめんなさい!ナック─きゃっ!」
謝って後ずさりしたクロエはバランスを崩し、後ろに倒れていった。
「クロエ!!─っ!」
ナックは助けようと手を伸ばすも、痛みに邪魔され、数秒遅れてしまった。クロエは起き上がろうと手を伸ばし、バランスを戻そうとするも叶わず、なす術はない。後頭部を打つ恐怖に耐え切れず、クロエは目を閉じた。その時、クロエは動きが止まっているのと、全身に優しい温もりを感じた。不思議に思って目を開けると、ダイアンが自分の後ろにいて体を支え、落ち着かせるように手を握っていた。
「危ねー・・・危機一髪だったな。」
「助けてくれてありがとう。助けついでに、踊り方を教えてくれない?」
「いいよ。曲がそろそろ変わる頃だ。いいよな、ヴィンディッシュ?」
ヴィンディッシュが頷くと、ダイアンは手をとった。
「足運びを合わせてくれるだけでいいよ。後は俺がなんとかする。」




