出撃準備
アイリスが研究室に声をかけると、1人の研究員が出て来た。
「研究班リーダーの、ルドルフです。」
「ルドルフ、例のものを見せて。」
「いいんですか?!・・了解しました。」
ルドルフの後に続き、アイリスとクロエは中に入った。研究員たちが、行ったり来たりしている中、クロエは野球ボール程の真ん中に日本地図の絵がある球体を見つけた。
「これはなんですか?」
ルドルフがクロエの声を聞きつけて叫んだ。
「触ったらダメだ!ダイアンの努力が無駄になってしまう!!」
「どういう意味?」
代わりにアイリスが説明した。
「信じがたい話だけど、それはニッポンのエネルギーの塊なの。ダイアンの話によると、ニッポンのエネルギーは怪物の力でその球体にされて砕かれたわ。それで、ニッポンは滅んだみたいなの。あとはパズルのピースのように、集めてははめてという作業を繰り返したわ。ダイアンが大きなかけらを持って逃げたこともあって、その球体はあと少しで完成よ。」
「良かった!あと少しで完成するなんて!どうやってかけらを集めるんですか?」
「あなたがナックと探したものが、球体のかけらよ。リップオフたちが体内に入れてるの。大きくて、強いヤツの体に入ってることが多いわね。見せてくれてありがとう、ルドルフ。これで失礼するわ。」
2人は研究室を後にした。廊下をしばらく歩くと、クロエはいきなり立ち止まってアイリスに向き直った。
「アイリスさん!約束ですよ!!」
アイリスは観念した。
「わかってるわよ。トレーニング室へ行きましょう。」
「やったー!!!」
クロエはトレーニング室に案内され、武器の使い方の説明を受けた。
「この腕時計みたいな武器はウォッチハンターと言って、威力の強い銃弾を発射できるの。弾の威力はだいたい、S&Wと同じかそれ以上ね。ワイヤーも撃つこともできるの。主に移動や敵の拘束に使ってるわね。とりあえず、見本を見せるわ。」
アイリスは構えて、スコープごしに的を見た。数秒の硬直のあと、アイリスはスイッチをオンにした。すると、銃弾が飛び出し、全て真ん中を撃ち抜いた。
「すごーい、かっこいい~!」
拍手しながら、クロエは称賛の言葉を送った。
「慣れれば簡単よ。やってみなさい。」
アイリスはクロエの武器の装着を手伝うと、少し離れて見守った。クロエはアイリスと同じようにスコープごしに的を覗いた。的の中央と武器の射出口をあわせ、タイミングをあわせる。重なって見えた瞬間、クロエはスイッチを入れた。銃弾が勢いよく飛び出し、中心を5、6発撃ち抜いた。
今度はアイリスがクロエを褒めちぎった。
「初めてにしては、中々のものじゃない!!びっくりしたわ。ちなみに、銃弾は一度につき、10発しか飛ばせないわ。リロードするのは少し手間がかかるから、撃ち終わったらすぐ下がること。じゃないと、恰好の餌食よ?」
「了解しました。ワイヤーの撃ち方も教えて下さい。」
「今はリロードの方法だけでいいと思うわ。ワイヤーの撃ち方は近いうちに教えるわね。」
クロエにしっかり装填方法を教えたアイリスは満足げに言った。
「思ったより飲み込みが早くて嬉しいわ。言うだけあるわね。」
「大丈夫そうで安心です!これで戦いに参加できる!」
「ちょっと、参加させるなんて、一言も言ってないわよ!」
「なら、戦う予定を教えて下さい。参加しませんから。」
「わかった。絶対よ!?明後日、私たちはダンスパーティーに誘われてるの。一流オフィスや有名企業の要人方の警護目的で。かなりの人数が出席するわ。リップオフたちも現れるでしょうから、そこを叩くの。」
「了解です!・・ダンスパーティー!楽しみ~!!」
浮かれるクロエを傍目にアイリスは呟いた。
「楽しむために行く訳じゃないけど、戦うことを忘れてるんだし、別にいいか。」
「そういえば、私はどこで寝ればいいんですか?」
「ごめんなさい、今のところ部屋は客間しか空いてないのよ。我慢してくれる?」
「全然大丈夫ですよ!寝れる場所があるだけありがたいです。」
「そう、なら客間まで送るわ。一応、必需品は揃ってると思うけど、不具合があるなら言ってちょうだい。」
アイリスはクロエを客間に連れて行った。クロエは客間に入って必需品の有無を調べると、不具合がないことをアイリスに伝えた。
「今のところは問題ないです。」
「わかったわ。でも、確かローブがパジャマの代わりにあったはず。嫌じゃない?」
「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうこざいます。」
「服も全然ないでしょ?明日買いに行きなさいな。」
「家にあるのを持ってくるので大丈夫です。」
「それでいいの?なら、男手が必要ね。ダイアンに手伝わせましょう。」
「ダイアンはニッポンの復興に忙しいですよ。1人でできます。」
「1人よりは大勢の方がはかどるでしょ?ナックにでもやらせようかしら。」
「そこは任せます。今日はもうこれで失礼します。
おやすみなさい、アイリスさん。」
「おやすみ、クロエ。また明日ね。」
アイリスはふんわりと笑顔を浮かべ、手を振りながら去っていった。クロエも笑顔で応えてゆっくりとドアを閉めた。ドアを閉めると、クロエは真っ先に洗面所に向かい、歯を磨いて顔を洗った。化粧水やクリームを使ってスキンケアを終えると、ローブを羽織ってベッドにくるまった。自分の衣ずれの音や吐息だけが響く中、クロエの脳裏にはこの1日のできごとが早送りされた映像のように流れ込んできた。父親と母親を失った衝撃がじんわりと込み上がってくるのを防ぐようにクロエは呟いた。
「別にパパとママを忘れてるわけじゃないのよ・・・・・・」
両親を失ったことにショックを受け、これからの生活を真剣に考えた。今思うことは、ダイアン・タスカーとアイリス・ディゴリーの親子が自分のバックアップに精力的に取り組んでくれてることだ。彼らに恩返しがしたい。ダイアンの故国のニッポンが壊滅し、復興への道のりがあとちょっとな今、私のすべきことはニッポン復興の手助けだろう。
「パパ、ママ。あなた達の言ってた通り、私は人を助けて寄り添える人になりたいと思います。だからそのための力を貸してほしいの。お願いします。2人とも優しくて信仰が強い方だったから、化けて出てこようなんて思わないでね?」
クロエは、どうしてもダイアンへの憎しみが膨らんでこなかった。
確かに、ダイアンは自分の目の前で私の両親を殺した。けれど、両親はすでに人と定義される存在から遠のいていたし、ナックを傷つけたことで恐怖と危険を彼らから感じた。親からそんな思いを感じ取る状況は異常だし、子供を慈しんで守るという使命を放棄してる。あのまま生きていたらもっと多くの人間を傷つけてたかもしれない。・・・でも、彼らは私に向かってカタコトだけど、私を気遣う言葉を話していた。もしかしたら、打った薬が後から効いて殺す必要はなかったかもしれない。でも・・・姿が人じゃなくなって、人を傷つけた両親を親と呼べるの?私を気遣う言葉を話す以外は、ダイアンとナックに攻撃な態度だった。
もし、ダイアンが両親に負けていたらどうなっただろう?仮に私が両親のもとに戻っていたらどうなっただろう?そこまで考えた途端、クロエはゆっくりと伸びをしてとりあえず、今の判断にケリをつけた。
今日はこれ以上考えても仕方がない。
ダイアンがどんな人なのかは自分の目でしっかり見届けてよう。クロエは深呼吸して鬱憤を吐き出すと、ゆっくりと目を閉じた。




