第02幕 歴史の証明者
――退屈だった。
視線の先、大型の黒板に向けチョークを走らせるのは、この学院における最上位の魔法使い・トールだ。
御歳五十を迎えたそうだ。
確かにタメにはなる。
あの御人の授業は、確かにタメになるのだ。
けれど、退屈なのだ。
極めて、退屈なのだ。
(ウスイ、シュースケ……、か)
頬杖を突いて、嘆息を一つ。
今から六百年余り前にこの世に召喚されたらしい、謎の名。
〝万魔殺し〟という名を残し、この世を去ったという謎の名――。
(……けど)
一つだけ、少女は気がかりな点があった。
(どうして、いいや、どうやって死んだのかしら……)
そう、死が明確化されていなかったのだ。
一応、戦場で死んだと書かれてはいたが、妙に気がかりだった。
(万単位の魔族を相手取ったのよね……? なのに死因もなく、唯死んだってどういう事なのよ。殺されたのなら殺されたって書けば良いのに)
それならそう書けば良いだろうに、文献には死んだとだけ書かれていた。
どうしてなのかは分からない。
なのに、そのウスイシュースケという者が、そう簡単に殺されるたまには思えないのだ。
夕日のような色合いの瞳を窓の外へ向ける。
窓の向こう、そこに聳える煉瓦造りの建造物。
あれはこの大都における公共図書館であり、多くの人間が利用する。
そこで、そう言えば、今日中央図書館に新しい本が入荷したはず、と咄嗟に思考が働いた。
もしかしたら、そんな一抹の希望を胸に、少女・ミリア・カトヴァンズは黒板の方へ視線を向け直したのだった。




