第34話 メイメイの新人占いコーナー3
しばしのスパチャタイムが過ぎ、ある程度場が落ち着いた頃、コメントウィンドウに一つのコメントが上がってきた。
[そういえば皓くんって小学生だよね?ダンジョン配信とか大丈夫?危険じゃない?あとシロイタチのイチゴちゃんっていう子、モンスターなのに本当に横に置いて安全なの?]
「あ、いいところに気づいてくれたね!私も少し心配だったんだけど、そのあたりはなんと!スターライズが全面的にサポートしてくれるんだって!ええとね!皓くんがダンジョンに入る時は、皓くんを守れるようにB級以上のハンターが絶対に同行する、でしょ。そして何があっても皓くんの体調を最優先にしてくれる上に、高難易度ダンジョンへの進入を絶対絶対ぜっっったいに強制しない!って契約書に書いてくれたんだよ!これぜーーんぶ契約書に書いてあるのを私がちゃんと確認したから、みんな安心していいよ!あとイチゴちゃんはこれ!見える?この赤い首輪が、ちゃんとテイミングされている証拠らしいよ!協会で聞いたの!」
[おお、流石スターライズ!]
[信じてたぜ!]
[てかB級ハンターをずっと小学生につけておくなんて、すごい浪費じゃないか?]
[いや、それはないだろ。皓くん小学生だし。何より今まで一度も現れたことのない、獣人化スキルの持ち主だぞ?このくらいの待遇は当然だろ]
[俺もそう思う。てか皓くん、一人でも強いのにそこにテイミングモンスターまで加わるってヤバいよな。そういえばイチゴちゃんってどんなスキル持ってるんだ?あ、あと気になってたんだけど、前の隠し部屋配信で最後に使った火炎スキル?って何?さっきのハンターカードに書いてなかったよな、どういうこと?]
あ、ちょうどいい質問が出たな。
「ええと、イチゴの能力は、次の配信でしっかり見せる方向で事務所と話しているので、今はまだ内緒です!それと火炎スキルについてですけど、ええと、僕もあの時は疲れ切ってて無我夢中だったのでよく覚えてないんですけど……協会の説明によると、多分獣人化に含まれてるスキルなんじゃないかっていう話でした。だからハンターカードには表示されないんですって」
協会に行けばスキルやステータスを測定できる機械があって、このハンターカードはハンター協会にある機械で鑑定した結果を写した一種の証明書に過ぎない。
ちなみに言うと、その能力測定機を使うと、協会に登録済みのスキルを所持している場合はそのスキル名が表示され、未登録の新規スキルを所持している場合は名前を入力するための空欄が現れる仕組みになっているらしい。
最初に僕が協会で検査を受けた時は空欄が現れ、そこで僕のスキルを見た協会の担当者がスキル名を命名してくれたのだが、それが獣人化スキルだったというわけだ。
しかし前回の配信で僕が『狐火』を使ったことで、新たな能力に覚醒したのではないかと鈴ねーに言われ再検査を受けさせられた際は、テイミングのスキルが新たに追加されただけで、空欄は一つも現れなかった。
そういうわけで、『狐火』は獣人化スキルに含まれた下位スキルであろうと結論付けられたのだ。
まあ、実際間違ってはないんだよな。
『狐火』は妖力を解放することによって行使できるようになる術の一つなんだし。
僕はそう納得して流していたのだが、僕の話を聞くみんなにとってはそう簡単に飲み込める話ではなかったらしい。
[いや、獣人化するだけで身体能力も跳ね上がるっぽいのに、その上火炎スキルまで使えるようになるとか、マジヤバなんだけど。それがランクFだと言うのかよ???]
[うわ、マジかよ]
[ここまで来ると逆に怖いな]
えっ。怖い??それは困るんだけど。
「り、鈴ねー。ぼ、僕って怖いの?」
お願いだから違うって言って??
せっかく転生したっていうのに、また追われるような生活に戻るのは真っ平ごめんだから!
「え?」
僕の問いかけに、キョトンと首を傾げる鈴ねー。
僕はそんな鈴ねーを見上げて、縋るように問いかけた。
「あのね、あれ、僕が怖いって。僕、キモいの?気味悪い?」
「えぇっ!?何言ってるの!?皓くんは可愛いに決まってるじゃないっ!!」
「で、でも……」
「メイメイさんも何か言ってあげてください!皓くんが勘違いしちゃってます!」
「あ、うん。そうだよ!皓くん、あれはね?怖いくらいにカッコよくて可愛いって意味なんだよ!」
「えっ?本当ですか?」
僕を宥めるためのお世辞じゃなくて?
そんな疑いの眼差しを二人に向けていると、メイメイさんがファンたちに向かってこう問いかけた。
「みんな、私の言う通りでしょ?」
[おう、その通りだぞ!]
[てかそんな勘違いしちゃう皓くん、マジで可愛いな]
[いや、まあ。突然獣人の姿に変身するようになっちゃったんだから、見てる側の私たちは可愛いと思えても、本人は色々思うところがあるのかも]
[確かに]
[心配すんな!皓くんは全然怖くないぞ!]
凄まじいスピードでコメントが流れ、僕の勘違いだったことを証明してくれた。
そこに至って、僕はようやく安堵の息を漏らすことができた。
「ほぇ……そ、そうなんだ」
何だ、そういう意味だったのか。前世で色々と修羅場をくぐり抜けてきたせいか、変な方向に深読みしてしまった。恥ずかしい。
テーブルに置かれていた水を飲みながら気持ちを落ち着かせていると、その間にまたコメントが上がってきた。
[てかさ、皓くんのケモ耳姿はいつ見せてくれるの?]
[そうだな、前の隠し部屋ではしっかり見られなかったし、この機会にじっくり拝みたいんだが!]
[もう待てない!早く見せてくれ早く!]
今か今かと待ちわびていたみんなから、生き生きと要望を披露した。
そしてそれを見た僕は、恥ずかしそうに鈴ねーの背中へと顔を隠した。
「え、ええと……その……鈴ねー、恥ずかしいよぉ……」
別に本気で恥ずかしがっているわけでもないし、僕を怖がっているという誤解も解けたのだから、見せることを嫌がってるわげでもない。
ただ即座に見せびらかすよりは、こうして少し恥じらう姿を見せた方が確実に可愛いと踏んだからこその演技だった。
そして僕の読み通りのリアクションが即座に返ってきた。
頭の上で鈴ねーが「ヒュッ!」と息を呑む音がして、チラリと覗き見たコメントウィンドウからはとんでもない勢いでコメントが流れていく。
[何だこれ、すでに可愛さが致死量なんだが]
[シンプルに存在そのものが可愛い]
[もうこのままでも……いや、でもケモ耳は絶対に見なきゃダメだ!リンネ、メイメイ!皓くんを説得して!お願い!]
よしよし、いい反応だ。
あとは鈴ねーとメイメイさんが僕を説得してくれれば、「恥ずかしいけど、仕方ないなぁ」という感じで変身すればいい。
……そう高を括っていたのだが――。
「……皓くん、いいよ?やりたくないなら、やらなくても」
鈴ねーがとんでもないことを口走った。
これって……。
[リンネ、弟くんのケモ耳姿を独占したいだけだろ!狡いぞ!!]
僕が突っ込みたかったことを、視聴者たちも全く同じように考えていたらしい。
その第一声を初めに、次々と似たようなコメントが上がってきた。
[あー、やっぱり?前も弟くんのケモ耳姿を見せたくないって頑なに隠してたもんなwwwでも可愛い子の独占は重罪だぞ、リンネちゃんwww]
[そうそう!リンネ!独占禁止法違反だぞ!!っていうか約束守れよ!前回の配信で見せるって言ってたじゃん!]
[そうだそうだ!]
そうやって鈴ねーを咎めるコメントの数々。
そこにメイメイさんも、「うんうん」と便乗してきた。
「リンネちゃん、皓くんが大好きなのは分かるけど、配信なんだから独り占めはダメだよ?」
今日会って初めて常識人らしい話をするメイメイさん。
そのせいで目を逸らしたくても逸らせなくなった鈴ねーが、涙目で叫んだ。
「もうっ!!みんな酷いよ!!いいじゃない!!皓くんは私の弟なんだから!!ちょっとくらい独り占めしたって!!」
[いや、よくねーよ]
[どう考えてもダメだろ。これ配信だぞ?]
[しかもその弟くんのスターライズ所属記念、つまりダンジョン配信者としてのデビュー記念配信なんだから尚更ダメだろ。デビュー配信でその本人の見せ場を潰してどうすんだよ]
僕もそう思う。
鈴ねーも流石にこれには反論の言葉が見つからなかったらしく、しけた顔をしてぶつぶつと降伏を宣言した。
「……分かったよ。見せればいいんでしょ、見せれば!はい、皓くん。諦めて見せてあげよぉ」
そう言いながらも、潤んだ瞳で「やっぱりやめない?」と言いたげに僕を見つめてくる鈴ねー。
しかしここで僕がそれに頷いてしまっては、みんなの空気が冷え切ってしまうのが見えている。
僕は結局、鈴ねーがこれ以上余計な口を挟む前に、その場で素早く妖狐の姿へと姿を変えた。




