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第20話 友達と鎌鼬イチゴ

「うわあ、可愛い~! 触ってみてもいい?」

「うん。いいよ。僕の許可なく人を攻撃するなって言っておいたからね」


 学校からの帰り道、僕はもう一度人間であるみーちゃんを攻撃するなという意思を目配せでモモの曾孫に伝えながら、見知らぬ人間の手に渡るのをちょっと嫌がるモモの曾孫をみーちゃんの手へと渡した。

 するとそれを見ていたたっくんが、横から僕に聞いてきた。


「それで、コイツがあのダンジョンから出たモンスターなのか? ハンター協会のモンスター図鑑では見たことのないモンスターだけど、何てモンスターなんだ?」

「ええとね、協会の話によると今まで発見されてない新種らしいから何のモンスターなのかは僕も……、でも一応ハンター協会で仮の名前は決まったよ。シロイタチだって」

「見たまんまだな」


 たっくんはそう言いながらも、みーちゃんの手の上にいる鎌鼬を好奇心に満ちた目で見つめた。

 どうやら僕が思ってたよりずっと、人間に敵対的なモンスターを成功的にテイミングすることは珍しいらしく、僕の命令に従ってみーちゃんの激しいムキュムキュ攻撃を耐え忍んでいる鎌鼬を見るのが物珍しいようだった。

 ちなみに状況がどうしてこうなったかというと、まず僕の幼じみの二人は僕のいとこのお姉ちゃんがリンネだということを知っていたことを説明しなければいけない。

 そしてそんな二人は鈴ねーとも仲が良く、しかもリンネのファンでもあって、それで土曜日の例の配信をいつものように見てたらしいのだ。

 それで今日の朝、配信が切れた後に鎌鼬がどうなったのか気になった二人が僕にこっそり聞いてきて、そして僕が鎌鼬をテイミングモンスターとして育てることになったと話したら、それに興味を持った二人が見せてとお願いしてきたからだ。


 可愛いものが好きなみーちゃんと、ハンター志望なだけにモンスターへの興味も大いにあるたっくんが、鎌鼬であるモモの曾孫に興味を示すのは当たり前のことだったな。


 とにかくその結果、主君である僕と離れることなどできないという理由で姿を隠して僕と一緒に登校したモモの曾孫を、学校からの帰り道に二人に見せてやることになったのだ。


 ちなみにどうして学校で見せてあげなかったのかというと、学校で見せて万が一他の子や先生に見つかった場合困ると思ったからだ。


 鎌鼬はモンスターではなく妖怪だが、一応コイツも現代日本じゃモンスター扱いだからね。


 見つかれば大騒ぎになって最低でも反省文だと決まっている。


 そんなことを考えているとき、モモの曾孫が「キュッ!!」と鳴き叫び、みーちゃんの手から跳ね上がって僕の頭の上へ着地した。


「キィィィィ――!!!!」

「ああっ! もう少し触りたかったのに……!!」

「おいおい。美奈、お前。コイツこう見えてもモンスターだぞ。いくらテイミングモンスターだからってほどがあるだろ。いい加減にしろよ」


 名残惜しそうに手をモギュモギュするみーちゃんの姿に、モモの曾孫は毛を逆立ててみーちゃんを警戒し、それを見たたっくんがみーちゃんを止めに入った。


 僕はその光景を眺めながら、『まあ、当然のことだよな』と軽く考えた。


 元々妖怪というのは人間と相容れぬ存在。

 ましてやモモの曾孫は幼い頃に家族と離れて以来、人間社会で一人生きながら色々と苦労もしてきたはずだ。そんなモモの曾孫が人の手を警戒し、嫌がるのもおかしいことではなかった。

 恐らく主君である僕の頼みでなければ触らせるどころか、こうして近づく前に傷を負わせた後、姿を隠していたはずだろう。


 結局これ以上はお互いのためにならないと思った僕は、たっくんと一緒にみーちゃんを止めることにした。


「まあまあ。みーちゃん、まだこの子も人に慣れてないんだからまた次にね」

「そんなぁぁ」


 たっくんに続き僕も止めに入ると、みーちゃんが仕方ないという顔で肩をガックリと落としながら未だに宙を揉んでいた手を下ろした。

 すると状況が一段落したのを察したのか、その隙にモモの曾孫が僕の頭から降りて僕の首にぐるりと巻きついた。

 僕はそんなモモの曾孫の頭を指先で撫でてあげた。

 するとそれを見ていたみーちゃんが、一歩離れた場所からモモの曾孫を見つめながら僕に聞いてきた。


「ねえねえ、皓くん! この子の名前は何? 好きなおやつは?」

「ええと、名前はイチゴで、好きなおやつも苺だよ」

「えっ。名前がイチゴで好きなものも苺なのか? 皓、お前、まさか……」

「うん。苺が好きだからイチゴって名づけた」

「マジか……」


 僕の答えを聞いたたっくんが呆れたような表情を顔に浮かべた。

 しかし前世でこの子の曾祖母の名をモモと名づけた僕としては、そんなたっくんの反応が理解できなかった。


 可愛くていいじゃないか。呼びやすいし。


 そしてみーちゃんも僕と同意見らしく、たっくんの反応がかえって理解できないと言わんばかりにこう言った。


「何よ、可愛いんだからいいじゃない。そもそもあんたんちの犬の名前だってモチでしょ」

「いや、モチはいいだろ。モチは普通の犬だし。コイツはテイミングしたとはいえモンスターだぞ? もうちょっと白い稲妻とか、白き死神とか、カッコいい名前をつけてあげないと」

「はあ? 何それ」


 みーちゃんはたっくんの考えが子供っぽくて馬鹿馬鹿しいと考えたらしく頭を振った。

 しかし、たっくんの話を聞いた僕は、たっくんの気持ちが分からなくもないと考えていた。


 確かにそういうの格好いいからね。昔の妖怪たちもそんな理由で良くカッコいい二つ名をつけてたし。


 しかし。


「この子、メスだよ。たっくん」


 メスに白い稲妻や白き死神はちょっとないだろう。可愛くないじゃないか。


 僕の言葉を聞いたたっくんは、その時になってようやく「あっ!」と問題に気づき、バツの悪そうな顔をした。

 モンスターだから格好いい名前をつけなきゃいけないと思い込んでいた自分の考えが浅はかだったと気づいたからだ。


「あ、いや、悪い。そりゃそうだな、モンスターにも性別くらいあるよな」

「ううん、まあ。いいよ。普通そこまで考えないだろうし。イチゴも分かってくれるよ。ね、イチゴ?」

「キュウー」


 僕の問いにイチゴが頭を縦に振った。

 少し渋々なあたり、どうして妖怪である自分が人間の子供ごときに気を使ってやらなきゃならないのか分からない、と思っているのが見えた。

 しかしそれでもイチゴはこれくらいで怒ったりはしないと表現してくれたし、たっくんはそれを理解した。

 たっくんは素直に「許してくれてありがとな」と言った後、続けて僕に尋ねた。


「お詫びとして何かイチゴに買ってあげたいんだけど、苺以外に他に好きなものはないのか?」

「うーん。どうだろ? ……たぶん魚肉ソーセージ?」


 正直に言えばよく分からない。

 まだ出会って3日目だし何が好きなのかなんて分かるはずがない。

 前世でモモと一緒に住んだ時間があるから、普通に人間が食べる物も食べられることは知っているけれど、好物が何なのかまではまだよく分からなかった。

 それで結局これまで与えたものの中で反応が良かったものを選ぶしかなかったが、そうなると苺と魚肉ソーセージくらいしか思い浮かばなかったのだ。


 僕は『この答えで大丈夫か?』と一瞬考えたが、僕の答えを否定してこないイチゴを見て良しとすることにした。


「魚肉ソーセージか……ちょっと待ってろ!」


 そう言ったたっくんはタタッと駆け出し、近くのコンビニで何かを買って戻ってきた。


「ほら、魚肉ソーセージと、喉渇くといけないから苺牛乳も買ってきた!」


 先ほど拒絶されたみーちゃんを見て直接食べさせるのは気が引けたのか、たっくんはそう言いながら買ってきた物を僕に手渡した。

 それを受け取った僕はとりあえずたっくんに礼を言った後、一応イチゴに聞いてみた。


「イチゴ、食べ……るよね。うん。ちょっと待ってろ」


 目をキラキラと輝かせながらたっくんがくれたビニール袋を見つめるイチゴに、みんなと僕は近くの公園のベンチへと向かい、たっくんが買ってきたイチゴのおやつを取り出した。


 その後、魚肉ソーセージを自分で持って食べられるように外側のフィルムを少し剥いてイチゴに渡してやると、イチゴは歓喜の声を上げながら魚肉ソーセージに食いついた。


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