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エピローグ


2026年4月



春。



大学構内には、新入生の声があふれていた。


まだ少し大きめのスーツ、真新しい学生証、


期待と不安が入り混じった表情。




蒼太は、その中にいた。




2026年4月。


蒼太は、


S大学、非正規事務職員として採用された。




配属先は就職課。


最初は、松本の下につき、


仕事を一つずつ覚えていった。




窓口対応、書類整理、学内システム。


地味で、細かで、間違いの許されない仕事。




それでも蒼太は、焦らなかった。




分からないことは、分からないと言う。




一つ覚えたら、次へ進む。


それを、淡々と繰り返した。




休日の日も、


蒼太は机に向かい、試験勉強も続けていた。




非正規職員として働きながら、


正規職員登用試験に挑むためだった。




忙しくない日など、ほとんどなかった。


それでも、蒼太はやめなかった。




――自分で選んだ道だった。




そして、10月結果は出た。




蒼太は、無事に正規職員試験に合格し、


学生課へ配属された。




今日も、学生課の窓口には人が並ぶ。




履修の相談。


奨学金の不安。


進路への迷い。




蒼太は、椅子に腰かけた学生と向き合う。




急かすことはしない。


答えを押しつけることもしない。




「どうして、そう思ったのか」


「いま、何が一番つらいのか」




ゆっくり聞く。




淡々としている。


けれど、冷たくはない。




その姿勢は、自然と伝わっていった。




「話しやすい」


「ちゃんと聞いてくれる」


「少し、楽になった」




そんな声が、少しずつ増えていく。




蒼太は、それを誇りに思うことも、


特別だと思うこともなかった。




ただ――


目の前の人に、誠実でありたい。




それだけだった。




仕事を終え、夕方の構内を歩く。




スマートフォンを見ると、


青からの短いメッセージが届いている。




「お疲れ」




蒼太は、ほんの少し笑って、返信する。




「うん。今から帰る」




春の風が、やわらかく吹いていた。




蒼太は、もう過去を振り返らない。


けれど、忘れてもいない。




すべてを抱えたまま、


それでも前へ進んでいる。




今日も、誰かの人生のそばで。




――それが、蒼太の選んだ生き方だった。




2027年 夏




甲子園。




照りつける日差しと、ざわめくスタンド。


その向こうに、白いユニフォームが並んでいる。




――蒼陵高校。




蒼太は、スタンドからその姿を見つめていた。




すぐに分かる。


蒼陵のユニフォームを着た青の背中。




(……青さん)




胸の奥で、そっと言葉をつぶやく。




青さん、おめでとう。


やっと……やっと、夢が叶ったね。




夢の甲子園。




長い時間をかけて、


遠回りをして、


それでも諦めなかった場所。




(本当に、すごいよ)




スタンドに、ウィーンという音が響く。




試合開始のサイレンが鳴り響く。




次の瞬間――




カンッ。




乾いた金属音が、球場いっぱいに広がった。




夏が、始まる。




―完―




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