第3話 遺跡探検隊③
ソーちゃんの提案にカノンちゃんがジト目で見てくる。
「馬鹿か、お前は?」
本日何度目になるかわからないが、また馬鹿と言われた。
ちょっと馬鹿馬鹿と言い過ぎじゃないかな。
「あのゴーレムは、コアに魔力を溜め込んで自爆しようとしているんだぞ?」
カノンちゃんの言う通り、ゴーレムはコアに魔力を溜め込んでいる真っ最中だ。
コアが魔力で満たされると自爆する仕組みなのだろう。
「そんな場所を力任せに破壊してみろ。溜め込んでいた魔力が解き放たれて、この部屋全体が崩壊するぞ」
『肯定。蓄えられた魔力の消去は不可能。あなた方はここで死ぬしかありません』
「ゴーレムちゃんはちょっと黙っててよ!」
無駄にお喋りなゴーレムだことで。
だが確かに、カノンちゃんの言った内容に間違いはない。
コアが破壊されれば、溜め込まれた魔力解き放たれ周囲に拡散する。
そして拡散された魔力により、この部屋は崩壊するだろう。
自爆は防げても、この部屋の崩壊は回避できない。
そんなことは百も承知だ。
だけど、
「それは普通にコアを破壊した場合! ソーちゃんの魔法なら蓄えられた魔力ごと消し去れるの!」
なんたって、
「ソーちゃんは世界でも最高峰の魔女なんだからね!」
『笑止』
「うるさいよ!!」
このゴーレム。可愛いくない。
「ともかく! 今から作戦を説明するから協力して」
ソーちゃんだけでは、成功できない。
カノンちゃんの協力が必須だ。
「協力だと? 魔力でも分け与えろとでも言うのか?」
「違うよ! ちょっと耳貸して!」
ソーちゃんは、カノンちゃんの真横に立つ。
そしえ耳元に口を近づけ、口を開いた――その時だった。
「――ひゃい!」
「え?」
突如として、カノンちゃんから可愛らしい声がした。
カノンちゃんは、咄嗟に両手で口を押える。
みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。
「……もしかして、カノンちゃん。耳弱い?」
カノンちゃんがキッと睨む。
どうやら弱いらしい。
……え、何それ。ずるくない?
完璧超人で無慈悲な軍人様が、お耳が弱いとか可愛いすぎる。
あとで記録しとこ。
「……おい、わかっているな?」
カノンちゃんが顔を真っ赤にしながら警告する。
「他の奴らに言ったら承知しないぞ……」
「大丈夫。私はシエフちゃんと違うから、他人の性感帯なんて言わないよ」
他人には言わない。
自分で使うだけだから、安心して欲しい。
「せ、性感帯じゃない! 繊細なだけだ!!」
「はいはい」
このまま顔を真っ赤にして否定するカノンちゃんを見ていたいが、今は時間がない。
再び耳元に口を近づけて、作戦を説明した。
ちなみにだが、喋っている最中も何度かビクン、と肩を震わせていたのは秘密だ。
作戦を言い終え、耳元から口を離す。
カノンちゃんが頬を赤らめながら、ソーちゃんに視線を向けた。
普段見せない艶やかな表情に、押し倒したくなる気持ちが湧くがグッと堪える。
ソーちゃんは、キルシュちゃん一筋だからね。
「……ほんとに上手くいくのか?」
「上手くいくから安心してよ! それに何もしなければ、どの道生き埋めになるんだから、やった方が良いと思わない?」
「……それもそうだな。わかった。お前の作戦にのってやる」
カノンちゃんも納得してくれたようだ。
これで準備は整った。
中央にいるゴーレムに視線を向ける。
「さあ、ゴーレムちゃん! あなたが笑った世界最高の魔女が、あなたを消してあげるからね!」
『理解。見せてください。あなたが最高の魔女であることを』
ほんと人間味のあるゴーレムだことで。
◇◇◇
時間がないので、すぐさま配置に着く。
ソーちゃんはゴーレムを見下ろすようにして、天井近くの上空で待機。
カノンちゃんは、地上でゴーレムの目の前にいた。
「カノンちゃーん! 準備はいいー?」
カノンちゃんに手を振る。
「ああ! 問題ない!」
彼女は、こちらになど視線を向けずに応答した。
「それじゃあ、お願い!」
「ああ、任せろ」
そう言うと、カノンちゃんはゴーレムの目の前で構えをとった。
左手を前へと突き出し、右手は腰の辺りで拳を握り、炎を纏わせている。
先ほどのソーちゃんと同じ構えだ。
……上手くやってよ。カノンちゃん。
作戦としてはシンプルだ。
ゴーレムのコアを露出させて、そこへ魔法を叩き込む。
たった、それだけ。
そしてカノンちゃんがコアを露出させる担当だ。
「コアまで破壊しないでよー?」
「うるさい! お前は黙って準備してろ!」
もう。協力する時くらいは、優しくして欲しいね。
「――行くぞ!!」
カノンちゃんは、床を蹴る。
「はぁぁぁ!! 砕けろぉぉぉ!!!」
そして右の拳をゴーレムの胴体目掛けて叩き込んだ。
ゴーレムの体が斜め下から打撃され、仰け反る。
『損傷――中破。胸部装甲――破砕。驚愕』
カノンちゃんの一撃により、胸部装甲が砕け散る。
彼女は炎を纏わせた拳だけで、あの装甲を破砕してのけた。
しかも、魔力が漏れ出していない。
的確に胸部装甲だけを破砕したようだった。
「――見えた!」
上体が仰け反ったことにより、砕け散った胸部装甲から、綺麗な緑色をした丸いコアが露出していた。
今度はソーちゃんの番だ。
両手をゴーレムへとかざし、魔力を両手の先に集めていく。
この魔法を使うのは久しぶりだ。
なんせ、対魔女用の魔法。
普段使うことがまったくない。
それに、
……速度が遅くて避けらちゃうしね。
弾速が遅いのがこの魔法の難点。
普通に放っては、簡単に避けられてしまうのだ。
でも、相手が動かない場面でなら、これほどまで適した魔法はない。
「行くよ! ゴーレムちゃん!」
魔力は充分。
魔力を蓄えているコアも露出。
カノンちゃんもゴーレムから退避している。
ソーちゃんを阻むものは何もない。
『記録。見せてください。あなたの力を』
ゴーレムの点滅する赤い目が、ソーちゃんは見据えている。
しっかりと記録してほしい。
あなたを壊すこの魔法を。
「すべてを奪い、そして消え去ってしまいなさい――」
じゃあね。ゴーレムちゃん。
「――『ニーズヘグ・アルバレーナ』!!」
両の手から、黒い球体が放たれた。
まるで雫が滴り落ちるように、静かに露出したコアへと落ちていく。
『魔弾と推測。笑止。そんな攻撃では――』
放った球体がコアに触れた。
コアに触れた球体は、音もなく膨張を始める。
蓄えられた魔力に反応して、徐々にゴーレムの胴体を包み込んでいく。
『驚愕。これがあなたの――』
ゴーレムの言葉が紡がれる前に、黒い球体が一気に圧縮した。
まるで、手のひらに載せた果物を握り潰すかのように収束する。
頑丈な胴体とコアをすべて巻き込んで、この世から消え去った。
残されたのは頭部と半壊した腕、そして下半身だけ。
支えを失った各部位が鈍い音を立てて地面に転がり落ちた。
「どんなもんじゃい! ソーちゃんの力は!」
吐き捨てるように言う。
だが、ゴーレムからは返事がない。
当然だ。
蓄えられた魔力と胴体を巻き込んで、コアは跡形もなく消滅してしまったのだから。
◇◇◇
カノンちゃんの横に降り立つ。
「ふぅ……カノンちゃん、どうよ?」
彼女の顔を下から見上げるようにして、ほくそ笑んだ。
「大したことない……と言いたいところだが、ちょっとは見直した」
カノンちゃんは、予想に反してソーちゃんのことを褒めてくれた。
「ありゃ? カノンちゃんが他人を褒めるなんて珍しい」
いつものように嫌味を言われるかと思っていたから、意外だった。
「私だって人間だ。人の心はある」
「人の心? 悪魔の心じゃなくて?」
カノンちゃんが鋭い目線を向けてきた。
怖い怖い。
この話題はここで止めておこう。
これ以上は、余計な争いを生みそうな気がするからね。
「さてと……」
ソーちゃんは、部屋の中央へと視線を向ける。
視線の先では、ゴーレムがバラバラに崩れ落ちていた。
もう、あの可愛らしい声を聞くことは二度と出来ない。
ちょっと寂しい。
「ゴーレムちゃんも片付いたし、奥へと進みますか」
「そうだな……と言いたいとこだが、奥に扉なんてないぞ? ここで行き止まりではないのか?」
ゴーレムが崩れ落ちている床の奥――入口の反対側の壁には扉のようなものは何も見えない。
でも、ソーちゃんにはわかっている。
ちゃんと奥へと進む道があることを。
「大丈夫。近くまで行って見ればわかるって」
「?」
訝しげに見てくるカノンちゃんをよそに、ソーちゃんは反対側へと進んでいった。
◇◇◇
「ん……? これは……」
入口と反対側の壁の目の前まで来ると、カノンちゃんが不思議そうに正面の壁を見つめる。
どうやら彼女も気がついたようだ。
「ね? 近づけばわかるって言ったでしょ?」
カノンちゃんにそう言うと、ソーちゃんは右手で正面の壁に手を触れた。
すると、触れた部分が淡く光を放ち始め、ゆっくりと触れた部分から左右に開き始めた。
「これは驚きだな……」
カノンちゃんが目の前の光景に関心したように呟く。
「古代遺跡ではよくある仕掛け。重要な部屋はこうして、魔法で隠されているんだよ」
魔女なら誰でも知っている。
今でも重要な部屋などには、こうした魔法が施されていると聞く。
まあ、ソーちゃんみたいな根無し草な魔女には、無縁の魔法なんだけどね。
壁が開ききると奥に通路が現れた。
「これで先に進めるようになったね」
再び光の玉を生成し、周囲を照らす。
「おっと、そうだ。この部屋はもう照らさなくていいね」
今いる部屋にはもう灯りは必要ない。
帰るときは、真っ直ぐ部屋を突っ切ればいいだけだし。
指をパチン、と鳴らし、部屋中に配置していた光の玉を消した。
再び、ソーちゃんたちの周り以外は漆黒の闇に包まれる。
「じゃあ、改めて進もうか」
カノンちゃんに視線を向けて言った。
ああ、と彼女が返事をしたことを確認し、再び2人で通路へと足を進めて行った。
◇◇◇
通路をしばらく進んで行くと、小さな部屋に到着した。
光の玉を生成し、天井の中央へ移動させる。
「うわー……随分と荒れてるねー」
部屋の中には机や椅子、本棚などがあった。
個人の部屋として使われていたように思える。
机の上には見慣れない物が乗っているが、既に朽ち果てており判別出来ない。
だが、それよりも目を引くことがあった。
それは床に物や本が散乱していること。
「誰か先客がいたのか?」
カノンちゃんが物が散乱した部屋を見渡す。
この状況ではそう思うのは仕方ないこと。
でも、
「……そうじゃないみたいだよ」
ソーちゃんは、散乱している本の前でしゃがみ込んだ。
「落ちている本とかには、埃がいっぱい被ってる。……それに床にもね」
床にも埃が降り積もっており、足跡一つない。
つまり、長い間散乱した状態で放置されていたということ。
この遺跡が見つかってから、誰かが散らかしたわけじゃない。
「なら、部屋の持ち主がわざわざこの状態で放置したのか?」
「そこまではわかんない。この遺跡が放棄された時にどういった状況だったかなんて知らないしね」
部屋の持ち主が、片付けが苦手だったのかも知れないし。
遺跡を放棄する時に、重要な物だけを持ちだそうとして散らかしたの可能性も考えられる。
当時どうたったかなんて、今となっては確かめる方法なんて存在しないからね。
「ここにお前が探している魔導書があるのか?」
カノンちゃんが床に散らばった物を踏まないようにして、奥へと進んでいく。
「どうだろうね。この散乱した本の中にあるかも知れないけど……」
目の前にある1冊の本を手に取る。
持ち上げたことで、埃が舞い散った。
「コホッ! コホッ! ……えーっと『楽しい魔法の教科書』?」
本の表紙には、古代文字でそう書かれていた。
そしてこうも書かれている。
「『この本を読めば、誰でも魔法が使える! あなたも今日から魔法少女よ!』」
「……ふざけているのか?」
怖いことにまったくふざけていない。
「ふざけてないよ。本当にそう書かれてるの」
「……」
カノンちゃんは何も言わなかった。
他の本も手に取ってみる。
もしかすると、部屋の持ち主には子供がいたのかも知れない。
この本は、その子供の為に用意したんだ。
きっとそうに違いない。
「こっちは……『今日の献立。どんな魔獣の肉も美味しく調理できる!』」
今度は料理本。
う、うん! これも子供の為だね!
逃げるように別の本へと手を伸ばす。
今度の本は、これまでの本よりも分厚くしっかりとした作りをしていた。
そうよ。さっきまでのは、趣味の本だったんだよ!
これこそが本物の……
「『夫と別れる1000の方法。これで嫌な夫からお金をむしり取れる!』」
もうダメかもしれない。




