第3話 遺跡探検隊①
「ふーん、ふん、ふーん」
鼻歌を奏でながら、意気揚々と石が敷き詰められた通路を進んでいく。
通路の中は灯り一つなく、魔法で生成した光の玉で照らさなければ何も見えない。
光の玉に照らされた周囲の石壁には、苔や蔦が生い茂っており、まるで密林の中を歩ている気分になってくる。
「いやー。相変わらず遺跡の中は、埃臭いねー」
そう。ソーちゃんは今、古代遺跡の中にいる。
もちろん1人じゃないよ?
「カノンちゃんもそう思わなーい?」
後ろを歩いているカノンちゃんへと顔だけを振り向かせる。
彼女はどこか不機嫌そうに、ソーちゃんの後をついて来ていた。
「一々私に話しかけるな。この薄汚い魔女が」
「酷ーい! ソーちゃんは、薄汚なくないよ! ほら、見てよ!」
足を止め、その場でくるりと回ってみせる。
着ているローブの裾がひらりと舞い、ソーちゃんの美しさを引き立たてる。
こんな美しい魔女は、滅多にいないと思うけどな。
「ね? どこも汚くないでしょ? それどころか美しいと思わない?」
「馬鹿が。身なりを言っているんじゃない。お前の心が薄汚れていると言っているんだ」
カノンちゃんは呆れた様子で言った。
ほんと冷たい子だよ、カノンちゃんは。
もっと、人を褒めた方がいいと思うけどな。
……まあ、遺跡の中に入れてくれたことには感謝してるけどね。
カノンちゃんは、キルシュちゃんとのお出掛けに同行することを条件に中に入れてくれた。
軍人としては失格だけど、キルシュちゃんへの想いは合格だね。
「ちっ……キルシュのことがなければ、こんな奴をここには入れなかったというのに……」
カノンちゃんは、自分の情けなさを嘆いた。
仕方ないよ、カノンちゃん。
誰もキルシュちゃんの魅力には勝てないんだから。
◇◇◇
光の玉で照らしながら通路を進んでいると、カノンちゃんが口を開く。
「それでお前は、何を探しているんだ? 財宝か?」
「だから、遺跡ハンターじゃないって言ってるでしょー」
財宝なんて興味ない。
「じゃあ、何だと言うんだ? わざわざ古代遺跡に出向くなど、財宝目当てしか考えられんぞ」
「そうだねー。普通ならそうだろうけど……ソーちゃんは違うの」
ソーちゃんの目的は、ただ一つ。
「ある魔法についての情報を探しているんだよ」
「魔法? ……そうか、お前は魔導書を目当てに遺跡に来たのか」
「まあ、半分正解ってとこかな」
別に魔導書でなくてもいい。
魔法についての情報さえ見つかれば、ソーちゃんとしては満足。
「ソーちゃんからも1つ質問していい?」
今度はソーちゃんが気になっていることを聞いた。
ああ、とカノンちゃんがぶっきらぼうに返事をする。
「さっきから気になってたんだけど、遺跡の中はまだ調査してないの?」
遺跡の入口からここまで歩いてきたが、ソーちゃんたち以外の痕跡が1つも見当たらない。
遺跡が見つかってから、誰も入っていないようだった。
「見つかった当初は知らんが、軍が到着してからは誰も中に入れていない」
「誰もって……魔女協会の魔女とか来なかったの?」
シエフちゃんからの事前情報の通り、入口には古代文字で魔法について書かれていた。
別に古代の魔法が書かれていたわけじゃない。
ただ、この遺跡が魔法の発展に繋がることを願う的なことが書かれていただけ。
……でも、魔女協会が出て来るには充分の理由だよね。
魔法に関する遺跡とわかれば、魔女協会が黙って見ているはずがない。
必ず研究員を派遣して調査に来ると思っていた。
魔法都市からも比較的近いからね。
「魔女協会は今、調査の為の準備をしている段階だ。調査は明日から行うと聞いている」
「へー、随分とのんびりしてるねー。いくら軍の警備がついているからって油断しすぎじゃない?」
軍が警備していたとしても、忍び込もうとする者はいるだろうに。
随分と警戒心がないことで。
「我々が警備しているからだろう。軍も古代遺跡の警備には主戦力を送るようにしているからな」
「そうなんだ。だから、カノンちゃんやあんなにも強い子たちが、揃っていたんだね」
「まあ、お前が来たせいで主戦力がいなくなってしまったがな」
カノンちゃんが悪態をつく。
何度も言っているけど、ソーちゃんのせいじゃないからね?
「別に問題ないでしょ? 残っているカノンちゃんの部下も優秀なんだろうから」
「お前が殺した者たちには、劣るがな」
引き続きカノンちゃんの部下によって入口は警備されている。
人数は減ってしまったものの、戦力としては充分でしょ。
なんたって、カノンちゃんの部下なんだからね。
ちなみにだが、ソーちゃんと戦った女性は、救護部隊によって連れて行かれた。
きっとまた会うこともあるだろう。
その時は、仲良くお茶したいね。断られるだろうけど。
◇◇◇
しばらく通路を進んでいると、大きく開けた場所に到着した。
光の玉の灯りでは部屋全体を照らせない程に広い。
「随分と広い部屋だねー。何のために作ったんだろう」
「知るか」
相変わらずカノンちゃんは素っ気ない。
ソーちゃんは、光の玉を複数生成し、それぞれを部屋中に展開させる。
展開した光の玉は、部屋全体を照らし出した。
「わー! 広ーい! ……って、何もないね」
ただただ広い部屋の中央に台座が1つと、それを囲うようにして4本の円柱が地面に突き刺さっているだけで、他に何もない。
周囲の壁には、通路と同じように苔や蔦が生い茂っているだけだった。
「研究室か書庫かなって思ったのに残念」
「ははっ! いい気味だ」
カノンちゃんが馬鹿にしたように笑った。
彼女の悪態にも慣れてきたので、もう突っ込まない。
「……しかし、不自然な部屋だな」
カノンちゃんが、部屋を見渡してながら言う。
「中央にある円柱は、天井に達してない……だから、柱としては不自然。だが、台座を囲うようにして規則正しく立っている。……何か意味があるということか?」
確かに部屋として見ると不自然だった。
中央に設置されている謎の台座。
そして台座を囲うようにして設置された、天井に達していない4つの円柱。
まるで台座に意味がある、と言っているとようにしか思えなかった。
「そうだね。ひとまず、台座のとこまで行ってみようよ」
意味があるなら、行って確かめるしかない。
カノンちゃんに声をかけて、台座の元へと向かった。
◇◇◇
「特に変わったとこはないね」
台座の近くまで歩み寄る。
周囲の円柱のように蔦が絡まってはいるが、至って普通だった。
手で絡まっている蔦を剝がしていく。
「おい、むやみに触るな。罠かもしれんぞ」
「わかってるよ。ソーちゃんはそんなに馬鹿じゃ――」
馬鹿じゃない、と言おうとした時だった。
カチッ、と音が台座から鳴ると同時に、台座が光り始めた。
やっちった。
「おい! 言った傍から何をしている!」
「別に変なことはしてないよ! ただ、蔦を剝がしていただけだよ! 台座には触れてないもん!」
「噓を言うな! どう考えてもお前が原因だ!」
ソーちゃんは、絡まっていた蔦を剝がしていただけで、台座に触れてはいない。
うん。ソーちゃんは悪くない。
そんなことを考えていると、台座がゴゴゴと音を立てながら、床へと沈んでいく。
そして、周囲の4つの円柱も轟音を響かせながら沈み込み始めた。
「ちっ! 一旦距離を取るぞ!」
カノンちゃんが部屋の入口へと下がっていく。
ここに居ても仕方ないので、ソーちゃんも後を追った。
部屋の入口にたどり着く。
振り返ると台座と4つの円柱は、完全に床へと沈み込んでいた。
唯一の建造物を失った部屋は、ただの広い空間となる。
カノンちゃんが怒りに声を震わせる。
「まったく……余計なことをしてくれたな……」
「ま、まあ……余計な物が無くなったから、スッキリしたじゃん!」
「そう言う問題ではない!」
そんなに怒らないでほしい。
ただ、台座と柱が無くなっただけなんだし、他に問題は起きては……
その時だった。
突如として部屋が揺れ始めた。
「ちっ……こんな時に地震か」
「……ただの地震じゃないみたいだよ」
台座があった中央に視線を向けて言った。
「なに?」
ソーちゃんの視線の先では、台座があった床がゆっくりと開いてく。
開いた床から、大きな塊がせり上がってきた。
大きさとしては、小さな家くらいだろうか。
そして、あの形は……
「あれは……魔導ゴーレムか?」
カノンちゃんが、せり上がってきた大きな塊を見て言った。
その言葉に頷く。
「多分ね。きっとあの台座が、あのゴーレムちゃんを封印していたんだろうね」
魔導ゴーレム。
大昔に運用されていた魔道具の1つ。
魔法で作成されたコアを動力として動く。
古代遺跡では、コアを失ったゴーレムが多数見つかっており、世界中で稼働していたと言われている。
現代では、魔法でコアを作成する技術が失われており、稼働はしていない。
「……コアは生きているのか?」
カノンちゃんが虚空から直剣を取り出し、警戒している。
「どうだろう。ここからじゃあ、わかんない」
中央に鎮座しているゴーレムは、動く気配はない。
だが、微かに魔力反応がある。
それが仕掛けのものなのか、ゴーレムのものなのかは、此処からではわからなかった。
「おい」
カノンちゃんが警戒しながら言う。
「探検はここまでだ。一旦引くぞ」
「え? やだよ」
間を開けずに即答した。
カノンちゃんが、ジト目で見てくるが気にしない。
「せっかくここまで来たんだから、進むに決まってるでしょ? それにゴーレムにコアが残っていたとしても、破壊すればいいだけだしね」
邪魔をするなら、排除する。
いつも通りの対応。
それ以外には何もない。
「……馬鹿か、お前は。私は危険だから言ってるのではない。魔道ゴーレムは、遺跡の出土品だ。人間と魔族の両国で、研究対象に指定されている。コアが残っていまいが、破壊するわけにはいかない」
「そんなのは知ってるよ。コアの生成方法が判明すれば、軍事的にも優位に立てるからね」
魔道ゴーレムが一番役に立つのは、戦争だろう。
兵隊を危険にさらさずに相手を攻撃できる。
体も石や土をベースに形成されるので、修復も生産も簡単だ。
まさに理想の兵器。
でも、それは一般的な話。
「そんなことは、ソーちゃんには関係ないからねー。ソーちゃんの障害になるならどかすだけだよ」
そう言うと、ソーちゃんはゆっくりとゴーレムの元へと向かう。。
「カノンちゃんは、もう下がっていいよ? ついて来てもらった方が面白いと思っただけだから、もう用はないし。それに帰っても、キルシュちゃんとのお出掛けの約束は無下にしないからさ」
こんな大きなゴーレムが格納されていた部屋があるということは、ゴールも近いということだろう。
であれば、後はソーちゃん1人で、ゆっくりと探せばいいだけだからね。
後ろに振り向くことはせず、手をひらひらと降った。
◇◇◇
ゴーレムまで、もう少しというところで足を止める。
チラっと後ろへと視線を向けると、腕を組んで入口の壁に寄りかかっていた。
結局、カノンちゃんは帰らなかったようだ。
……きっと、ゴーレムが動くことを期待してるんだろうね。
カノンちゃんは注意を促したが、あんなのは建前に過ぎない。
彼女が、国への忠誠心など一欠けらも持ち合わせていないことは、協定者の中では周知の事実だ。
心にあるのは、闘争心だけ。
戦いこそが全てだと思っているのだろう。
「……ほんと変わった子だよ。カノンちゃんは」
カノンちゃんに聞こえないように呟いた。
キルシュちゃんに惚れている子たちは、皆変わり者だ。
シエフちゃんは、一見するとただの商人にしか見えないが、やっていることはエグイ。
笑顔で人を騙し、笑顔で人を殺している。
あの人当たりのいい笑顔に騙された者は、数え切れないだろう。
それに戦えないように見えて、戦闘力も高い。
ケリンちゃんは、一番まともそうに見えるが彼女はヤバい。
平然と人を殺すことがじゃない。
彼女は、心の中にとんでもない化け物を飼っている。
時々キルシュちゃんを見る目が、愛情なのか殺意なのかわからない時がある。
……まあ、ソーちゃんも他人のことは言えないけどね。
ソーちゃんだって、目的の魔法を見つけだす為なら、拷問であろうと殺しであろうと何でもする。
世界が滅ぼうと知ったことじゃない。
ソーちゃんが幸せであればいいのだ。
その為にも、あの魔法を手に入れなければいけない。
たとえ、大切な者を犠牲にしたとしてもね。
「さて……ゴーレムちゃんは動くのかしら?」
正面のゴーレムへと視線を戻した。
相変わらず動くような気配はない。
入口から感じていた魔力反応は、先ほどよりも強く感じるが、まだ特定はできないでいた。
もう少し近づいてみようと、一歩踏み潰した。
その時だった。
『システム起動』
女性的な声が部屋に響き渡ると、ゴーレムの頭部に当たる部分が赤く光る。
そして、周囲の空気を震わせながら動き始めた。
「この魔力反応は、ゴーレムちゃんのものだったか……」
目の前のゴーレムは、ゆっくりと立ち上がっていく。
「いやー大きいねー」
立ち上がると、その大きさに圧倒される。
小さな家が2階建ての家にスケールアップした感じだ。
家だったら嬉しいことだね。
まあ、どんなに大きくてもやることは変わんないだけどね。
「さて、壊すには勿体ないのは事実だけど、邪魔なら壊さないとねー」
周囲に幾つもの魔弾を生成する。
『目標確認。スタンバイ』
ゴーレムちゃんから女性的な声が聞こえてきた。
そしてその声に合わせて、ゴーレムはゆっくりと巨大な右腕を振り上げる。
「アハッ。ちょっとだけソーちゃんと遊ぼうか」
『排除開始』
そしてソーちゃん目掛けて、振り下ろされた。




