2、シフトに穴が空いた分もがんばらないと
○オドバシアキバ内休憩室・午後三時
休憩室のドア付近にある姿見に映る安藤。上半身裸で腹に包帯を巻いている。
安藤「ふーぅ(嘆息)」
ベンチにある店員の制服を取って着替えようとする安藤。そこへ伊藤が入ってくる。
伊藤「おつかれ。お互い、午前中は大変だったな。病院で休めたか? (安藤の包帯に気が付いて)おい、帰ったほうがいいんじゃないか?」
腹を押さえてから制服を着る安藤。
安藤「入院している三人に比べたら、ボクはまだ軽症なほうだよ。それにシフトに穴が空いた分もがんばらないと」
伊藤「そうか。(自動販売機の前に立つ)今日のコーヒーは俺がオゴろう」
伊藤、自販機を操作して缶コーヒーを買って缶を安藤に渡し、さらにコインを入れる。
安藤「ありがとう。つっ」
缶を受け取り、座ろうとして腹を押さえる安藤。続いてベンチに座る伊藤。
伊藤「おい……」
安藤「(片手をふり)いや、大丈夫だ。それより何か気を紛らわす話をしてくれ」
伊藤「はぁ? おまえから話せよ」
安藤「……そうだな。先週の……(重たそうに)……休日の水曜日にエロゲの物色をしていたら、警官たちに呼び止められて職質されたよ。所持品検査もされて、特典が没収されちゃってマイッタ、マイッタ」
伊藤「え、今回はどのあたり?」
安藤「ゲハだけど」
伊藤「あそこはやめとけって。今朝の朝礼でも杉山がムショから出て、あのあたりを徘徊しているって話だろ。警察もポイント稼ぎに出張ってんだよ。あと、没収された特典ってなんだ?」
安藤「『イレプイ3』のヒジリちゃんっていうキャラが武器にしてるゴム製の小刀だよ」
伊藤「ハハハハ(苦笑い)。あいっかわらず、ゲハは空気を読まないなー」
安藤「じゃあ次、伊藤さんは?」
伊藤「ああ、俺の休日は夜の渋谷さ。ハハハ(苦笑い)。『犬と女の交尾ショー』ってんで、友達と一緒にストリップ小屋に行ったんだ。『犬』って言ったって、どうせヌイグルミかなんかだろと思って入ったら、ホントにストリップ嬢と犬がヤりはじめてやがったんだよ!」
安藤「ウソだろ?」
伊藤「ウソじゃねーって! マジだって!」
いぶかしがる安藤の顔と真剣な伊藤の顔が交互に映る。
伊藤「いや、ホントに。もう俺はピュアな心でTVのCMを見られないよ! ドリームクラブにも行けないよ!」
ガタガタ震える伊藤。安藤、伊藤の肩に手を乗せる。
安藤「まあ、おちつけ」
伊藤「おちついていられるか! (自分の手を額にあてて、すっくと立つ) 自分で言うのもなんだが、こんな話をしていたらホントに脳裏にあの時の光景が……」
安藤も立ち、慌てて伊藤の口をふさぐ。
安藤「まてまて! それ以上はするな! そのまま回想シーンに入ったらマジ、シャレですまなくなるからな!」
伊藤、黙って頷く、わかったという仕草。安藤ホッとしたように手を離そうとするが、突然、伊藤が大声を出す。
伊藤「ホントにパパとママだった!」
安藤、とっさに伊藤の頭をはたく。頭から出血して倒れこもうとする伊藤。安藤あわてて伊藤の腕をつかんで立たせようとする。
安藤「スマン」
伊藤「いや、こっちこそ毒を吐きすぎた。スマン。痛みは引いたか?」
安藤「おかげさまで完全に引いたよ。もう渋谷に行くのはよせ」
伊藤「ゲハに行こうとするおまえもな」
役所の声で場内放送が入る。
役所「伊藤さん、安藤さん、外線八番をお願いします」
安藤と伊藤、顔を見合わせ。
伊藤「やべっ! レジに応対する人がいないらしい」
安藤「急ごう!」
安藤と伊藤、休憩室から出る。
数秒置いて伊藤が室内に戻りカメラ手前にある救急箱から絆創膏を取り出す。
伊藤「アイツ、力がありあまりすぎだ。最近、抜いてないだろー」