第7話 「試練、引き続き頑張っています。」
迷宮へ向かう一行。今度は下層まで潜る予定です。
ダンジョンへ向かう道すがら。アーシェラがスキルの練習をしていた。
「女神バステトに請い願い奉る【祈る】」
「そうそう、そんな感じで。声が聞こえたらひとまず成功だよ」
「かすかに返事をお聞きできたような気がするニャ。何度か練習すればいける気がするニャ!」
ルミはといえば慣れない金属鎧と盾に戸惑い気味だった。
「シンジ様。この鎧・・・暑いです・・・」
昼の砂漠の炎天下。鎧の上に羽織らせていたローブを肌蹴て暑そうにしているルミ。
「ああ、ダメだよルミ。鎧に直射日光とか極寒の冷気とかを直接当たらせちゃうとだめだって言ったでしょ! ローブを脱ぐと熱を集めちゃって余計暑いんだよ。一見暑そうだけどローブをちゃんと着ておきなさい」
「承知しました・・・でも暑いです・・・」
犬耳もうなだれるルミ。しょうがないなぁ、とシンジ。
「ちょっとだけ便利スキルを教えるよ、ルミ。そよ風を思い浮かべながら唱えると涼しくなれるスキル魔法だよ。長くて数分しか持たないから時々掛けなおす必要があるけど。そよぐ風よ我に吹きたまえ【春風】」
「そよぐ風よ我に吹きたまえ【春風】・・・あっ、鎧に風が少しだけ吹き込んで涼しくなりましたよ!?」
【春風】のスキル魔法はわりと初級で覚えられる。元々はスカートめくりのいたずらっ子を捕まえるイベントでおまけのように教えてもらえるスキルだったりするのだが。スカートをめくる程度の能力であれば鎧に通せばおよそ問題ないはずと踏んだ結果だった。
もっと効率の良いそのものずばりの【クーラー】というスキル魔法も存在するが、こっちは前提で覚えるスキルが多すぎるため却下した。
「面白そうだニャ・・・そよぐ風よルチアに吹きたまえ【春風】!」
「えっ、ちょ、帳面が、メモが!!」
いたずら好きらしいアーシェラがルチアに【春風】を掛ける。
麻のパンツにチュニックワンピといういでたちのルチアだったため、チュニックワンピの裾がゆれる程度だったのはいいのだが、腰に下げてある帳面はそうは行かなかった。バタバタと風になびき、挿んであるメモが飛ぶ。ふわふわ舞ったメモが街道からはずれ、砂漠のほうに飛んでしまう。追いかけたルチアがもう少しでメモに手が届こうかという瞬間。砂を蹴立てるザッっという音とともにメモが消え去った。
「ん! 砂漠側に何か居る! ルミは前衛、アーシェラとルチアは下がって。シンジはルミの支援を!」
ミカエラがすばやく反応する。今回のフォーメーションの練習としてはもってこい。砂の海から飛び出してきたのは鎧のような鱗を全身に装備した魚の魔物だった。
「サンドシェルフィッシュか・・・堅いから物理攻撃は厳しいな」
サンドシェルフィッシュは砂漠の中でも比較的柔らかい砂に潜む魚の魔物である。魔物だけあって水が無くても問題ないようだ。砂に潜む性質から待ち伏せされてエンカウントすることが多く、堅い鱗に物を言わせた体当たり攻撃と、鋭い牙で噛み付く噛み付き攻撃をやってくる。空中に浮かぶことも可能なので、街道沿いで旅人が襲われることが多い魔物のひとつである。
「ルミはとにかくサンドシェルフィッシュの体当たりを防いで。アーシェラはルミに補助魔法スキルと回復スキルを掛けて。練習ということでね。」
ルミはシンジに言われたとおり盾を構えてサンドシェルフィッシュの体当たりを止めていた。うまく盾を使っていなしている。アーシェラは一生懸命、【祈る】を発動させようと頑張っていた。
「女神バステトに請い願い奉る【祈る】! ルミに加護を!」
<【ブレス1】を獲得しました。対象を選んで詠唱してください>
「!!、なにか聞こえたニャ!?」
「どうやら【ブレス1】を取得できたみたいだね。」
実はVRMMOの名残なのか、スキル・魔法を習得するとアナウンスっぽい声が頭に響くのである。プレイヤーが見ると頭上に取得エフェクトが出ていたりするので丸分かりなのだった。
「じゃあ、最後は盾スキルの伝授をしようかな」
アイテムボックスからヒーターシールドを取り出すシンジ。盾を構えるとサンドシェルフィッシュをいなし続けるルミの隣に並ぶ。
「あっ、シンジ様! 危ないから後ろにいてください!!」
「大丈夫。ちょっと今からスキル技の見本を見せるから覚えるんだよ?」
いなし続けるルミのことを諦めたのか、サンドシェルフィッシュがシンジ目掛けて飛び掛ってきた。
「打ち砕け【ベイルアタック】!」
シンジは盾を突き出し、弾き飛ばす力を増加させるスキル【ベイルアタック】を発動させ、サンドシェルフィッシュを吹き飛ばした。強烈な打撃だったようで、サンドシェルフィッシュは吹き飛んだ先で動かなくなった。
「と、まあ盾で攻撃することも出来るのが騎士なんだよ」
ルミはといえば目を輝かせていた。
「シンジ様は騎士だったのですか!? スキルにもお詳しいですっ!!」
「あ・・・いや。いろいろ修行をしたことがあるってだけで、騎士ではないよ・・・ルミだって僕が冒険者でカードを登録してるの知ってるでしょ」
動かなくなったサンドシェルフィッシュが確かに倒せたことを確認しながらシンジが言い訳を言う。実際スキルマスターなので全職業を一度は経験しているのだが。
「【ベイルアタック】はかっこいいですね。是非覚えたいのでご教授ください!」
「おいらはとりあえず【ブレス1】の練習をしながらついていくニャ」
シンジ達はサンドシェルフィッシュの素材をささっと回収するとその場を後にし、スキル談義や雑談、練習などをしつつ、先日見つけたダンジョンの傍までやってきた。
あの野菜ダンジョンには既に預かり所が出来上がっており、ギルド員が詰めているようだ。
「いやはや、ギルドはすばやいね、やっぱり。でもこれで荷物を預けてゆっくり探索できるな」
一行は動物達と予備の物資を積み込んだ馬車を預かり所に預けてダンジョンに潜っていくのだった。
・・・
・・・・・・
1階層は探索が終了しているので、気になる部屋とBOSS部屋だけを確認。
出現したビッグペッパーは本気を出したミカエラの前に轟沈。入り口からちょっとだけ顔を出して詠唱。後は部屋中を荒れ狂うファイアストームが片を付けたのだった。
「こんがりと焼けた後にやっぱり”お徳用コショウ”。沢山ありすぎても余るわね・・・これ。シンジ、あとで小瓶でも【練成】してお店で小売したら?」
「ルチアに相談してみるよ。さて、階段が見えたから次は2層だね。ここからはルミを先頭に僕、アーシェラ、殿をミカエラにお願いしよう。」
「はい」「にゃあ」「了解よ」
「じゃあ気をつけながら行きますか」
第2層はまだだれも足を踏み入れていないらしい。シンジの【オートマッピング】とアーシェラ手書きのMAPを使いながら歩を進めていく。幸い罠等はないようだが、モンスターは結構な数が出てきた。
「この階層は魚介系ドロップモンスターばかりね・・・シェルフィッシュにタコラ、クラーケン、ジェルフィッシュ。1層と合わせて海鮮鍋ができるわね・・・」
シェルフィッシュはサンドシェルフィッシュの水棲版。タコラはたこであり、クラーケンはイカだ。ジェルフィッシュはくらげで、それぞれはそこまで強い魔物でもない。ルミが盾でいなしながら片手剣で軽くいなせる程度である。
歩き回ってほぼ2層を調べきったところで3層への階段が見つかった。2層にはBOSS配置はないようだ。
「ここはBOSSがいないんだね。毎層BOSSがいる鬼畜なダンジョンもあるから、ここはほんとに初心者向けなのかもしれないね」
ドロップアイテムの魚介を沢山拾い、アイテムボックスにしまい込むと、3層への階段を降りていくシンジ。吐く息が微妙に白くなっていくのに気がついた。
「おっ。3層は結構寒いぞ・・・ルミ、炎天下のときと同じように鎧の上に外套を羽織るんだ。寒さで鎧が冷えすぎると肌が張り付いたりするから、それを防ぐんだよ」
「了解です、シンジ様」
ルミの鎧は魔法効果が何も無い金属鎧である。冷えすぎた金属に素手で触ると皮膚が張り付いてしまうのと同じ現象が起きるため、直接冷気に金属鎧を触れさせず、暖めておく必要があるのだ。VRMMOではなかった現象だが、現実の今は普通に起こる。また、肌着を中に着てはいるものの、間接部などでは張り付きの影響を受ける場合もある。
「どうやら3層はエクストラ階層みたいね。雪だるまとかカマクラとかが置いてあるわ。人影というかモンスター影もちらほらしてるけど、あれきっと友好種族だと思うわ」
モンスターの中にも人間に対し友好的な態度で接する種族が存在する。VRMMOだとそんなモンスターの場合は頭上に”握手”のアイコンが浮かんでいるからすぐ分かる。実際シンジの目には”握手”のアイコンが映っていた。
毛玉の塊にしか見えないこれはスノー・マンという名前の雪の国に現れるマスコットモンスターだ。
「スノー・マンか。真ん中階層だから少し休めるようになっているのかな。視界範囲に敵性反応が無いから、一休みMAPなんだろうね」
「この毛玉は何ニャ? モンスターなら襲ってくるけど、襲ってこないニャ?」
「??」
アーシェラやルミは友好種族に出会ったことが無かったらしい。シンジに説明されて、あらためて挨拶をしたりしている。
「はじめましてです。こちらの街はなんと言う名前なんですか? スノーランド、ですか。カマクラで暖まれるから休んでいくといい? シンジ様、いかがいたしましょう??」
一休みMAPはその名のとおり、一時的な休憩やログアウトのための空間として設定された場所だ。防犯機能つきの宿屋と違って野外でのログアウトはアバターにとって非常に危険な行為だった。アクティブモンスターを配置せず、PKもできない空間として設定された一休みMAPであれば、安心してログアウトすることができた。長丁場のダンジョンではしばしば見掛けられたMAPであり、友好種族は補給の役割を担っていたりした。
「久しぶりだな、一休みMAP。そうだね、ルミ。少し休んでいこう。」
先を急ぐ旅だが、休めるときは少しは休んだほうがいい。そしてスノー・マンからこのダンジョンの先についてなにか情報がもらえるかもしれない。
「こんにちわ」
「イラシャイ・マセ」
片言の挨拶。カマクラに案内されたらそこはこじゃれた喫茶店空間だった。全体的に氷が多めなのでエスキモーの家といったほうが正しいのかもしれない。
「中は暖かいニャ。真ん中に焚き火が・・・氷は溶けないニャ?」
焚き火というか囲炉裏の回りは敷物がしかれ、チャイの準備も出来ている。本格的にアジアな雰囲気の喫茶店と言っても過言ではないだろう。
「外が寒いから溶けないんだよ。さ、チャイでももらって暖まってから次の階層へ行こう」
短く細い手足ながらそつなく器用にチャイを作って渡してくるスノー・マン。立派な喫茶店のマスターを勤めているようだ。猛烈にモフりたい気持ちもあるが、ここは我慢の一手だろう。
その後、しばらく身体を温めた一行はスノー・マンに第4階層への階段まで案内され、そこで彼らと別れたのだった。
・・・
・・・・・・
第4階層は蔦の絡みついた古ぼけたダンジョンだった。所々壁が崩れ落ち、ショートカットも出来そうである。
「この壁、叩いたら崩れそうね。崩れたら向こう側に行けそうだけど。」
「”崩れる壁”だね。モンスターエンカウントもありえるから慎重にやらないといけないんだ。ちなみに。一定時間すると元に戻るから、マッピングの時は気をつけるんだよ。」
「えっ。崩した壁、誰かなおす人が居るんですか?」
「疑問ごもっとも。ダンジョンが生き物、という説があってね。”崩れる壁”はその生き物であるダンジョンの治癒機能だといわれているんだ。正確なところは不明だけど、大体1日くらいで元に戻ってるね。場合によっては30分で戻るところもあって、これがダンジョンの難易度を押し上げる原因にもなったりするんだ。戻るたびに壁の材質が変わったりね」
「ふわ・・・シンジ様は物知りなのですね・・・」
”崩れる壁”を壊しながら第4層を探索する一行。幸い、このフロアにモンスターは居なかったようで、思ったよりも早く探索を終え、最終層、第5層への階段を見つけることが出来た。
「さて、問題の第5層か。モンスターの気配もあるし、エンチャントとか準備を入念に施してから突入しよう。先頭はルミ、僕。僕も盾と片手剣で騎士の動きで対処するからルミはそれを真似して。中衛にアーシェラ。アーシェラはブレスを適度に掛けなおして。殿でミカエラが回復スキルを担当して。数が多かったら前衛が盾で防御体制をとって、範囲魔法で殲滅をお願い。じゃあ、準備はいい?」
「はい!」「ええ。」「ニャい!」
「それじゃ、行きますか!!」
メタリックな輝きを放つ第5層の壁が見える。一行は慎重に第5層へと足を踏み入れた。
次回は最下層の探索です。
ところで休憩MAPはその後通う人が増えたとか。
雪を持ち帰ってかき氷として売り出す人も増えたとか。
他の街には持ち出せはしませんが、特産品が増えそうですね。




