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第8話 「試練、達成しました」

モンスターの虫との戦闘があります。

苦手な方は読み飛ばしてください。若干グロです。

第5層は悪の秘密基地のような雰囲気で作られていた。継ぎ目が殆ど無いような石組みで囲われた通路が続いている。扉は鉄と木を組み合わせた頑丈なつくり。小部屋もそこそこあるように見受けられる。


「シンジ様。こんなにつるつるで綺麗な石畳は見たことが無いのです。これはいったい・・・?」


ダンジョンの壁、床を見回しながらルミが質問をした。


「ダンジョンだから、としか言えないなぁ。多分、このフロアには通路に関する罠は無いと思うよ。その代わりドアには気をつけないと。飾りが多い分、細工をしやすいドアみたいだから、うっかり電流とか、うっかり毒針とか。ドアを触るときは僕がやるよ。シーブスツールグローブがあるからね。」


シーブスツールグローブは毒針や電流、場合によっては赤熱など、ドアに仕掛けられる様々な罠が発動してもある程度防御または和らげる効果を持った魔法の布で作られた軍手である。解除は出来ずにアクションすれば必ず発動する罠もあったりするので、こういったツールは欠かせない。


「宜しくお願いします。ルミはこういうのは苦手ですので」


ルミはおとなしく”ドア開け”をシンジに譲った。シンジはシーブスツールグローブをはめると、ドアを開けた。罠などは特になく、素直に開いたドアの向こうは通路が続き、先のほうでT字路になっているようだ。


ところで、ダンジョン左手の法則というものがある。よほど特殊なつくりでなければ左手を常にダンジョンの壁に付けたまま移動をすればダンジョンすべてを巡ることができるという法則である。非常に効率は悪いが、同じような風景ばかり続くダンジョンや、隠し扉も含め隈なく探す場合にはもってこいな手法である。オートマッピング機能を利用できるシンジには不要だが、通常にマッピングをする場合は良く用いられる手法であったりする。

しらみつぶしにダンジョンを探索するときに使う比喩であったりもする。


「先は長そうだ・・・ダンジョン左手の法則でいくしかないのか・・・よし。フォーメーションはさっきと同じで、トラップの有無はボクが判断することにするよ」


油断無く盾を構えるルミ。となりで【サーチ】を使いながら探索を進めるシンジ。しばらくは何事も無かったが、半分ほど探索し終えたところでなにやら羽音が中から聞こえてくる隠し部屋を発見した。


「うーん。このへこみ、隠し扉なんだけど、ぶぶぶ。って音がもれ聞こえてくるんだ。キラービーかなにかでもいるのかな?」


「隠し部屋の中っていうのが微妙よね。あとは・・・この部屋から風が漏れ出てきているところを見ると通風孔か何かがあるのかもしれないし、単なる外から迷い込んだハチらしきなにかが棲んでいるだけかもしれない。」


この砂漠の国にもハチが棲んでいる。オアシスまで遠出すればナツメヤシや比較的低温で咲く花、高温でも咲く花などが入り乱れ、年中花が咲いていることが多いからだ。特にサボテンの花の時期は長く、また蜜もおいしい。養蜂はしていないようだが、巣を見つけると蜂蜜を採取することは行われており、珍しい一品となっている。モンスターである殺人蜂・・・キラービーというものも棲んでいるが。


「ハチがいるなら巣なのかもしれませんね。蜂蜜があれば嬉しいですね」


ルミは故郷で狩猟をしていると時折ハチの巣を見かけ、蜂蜜を頂いていたそうだ。


「じゃあ、警戒しながらだけど、蜂蜜を頂戴してみようか。イチ・ニ・サンで隠し扉を開放するから、ルミは正面で盾を構えて展開。ボクとミカエラで相手を牽制しつつ巣の捕獲。アーシェラは皆に【ブレス】を頼む。」


「「「了解!」」」


「イチ・ニ・サン、それっ」


隠し扉が開かれた。風がどっと押し寄せ吹き抜ける。隠し部屋の4面ある壁の1面に大穴が空き、そこに巨大なハチが1匹巣食っている。そしてその足元にはぐったりと動かない人間のシルエット。


「【ブレス】!!」


(【サーチ】)


<ジャイアント・ジガバチ>

LV:250

属性:昆虫・土属性・BOSS

弱点:炎に弱い

特徴:生き物をさらって巣に持ち帰り食料とする。

   産卵期はその場で食料とせず、毒で仮死状態にさせたまま保存する習性がある。

   獲物の体表に産み付けた卵が孵るとその獲物をエサに大きくなる。

スキル:【フライ】【ベノムスプラッシュ】【麻痺毒】



<アルタ・クリシュナ>

LV:80

種族:ホワイトシープ族

職業:貴族

状態:麻痺・仮死状態

装備:ローブ



「これはまずい。まだ生きてるけどハチに攫われたんだな。ルミ! そのハチものすごく強いから防御に専念して! アーシェラはルミの防御を固めることと回復を重点的にお願い!」


シンジが叫ぶのと同時。ジャイアント・ジガバチの噛み付き攻撃がルミに炸裂。ルミが盾で

かろうじて防ぐものの、体当たりの勢いを殺しきれず、ノックバックダメージを受け数メートルほど吹き飛ばされてしまっていた。


「くっ! 強い!! 剣だと取り落とすか折れるかしていた! おかえしっ! 【ベイルアタック】!」


盾によるラッシュ攻撃。しかしジャイアント・ジガバチはひらりとかわす。レベル差も大きく、簡単にあしらわれている状況だった。ジャイアント・ジガバチはキラービーのひとつであり、まれに人が襲われるケースもあるという。


「狭い部屋での乱戦に魔法は使いにくいわね・・・とりあえずルミに・・・【理力盾(パワーシールド)】!」


理力盾(パワーシールド)】は対象を守るビットを複数浮かべるスキル魔法である。ビットにはHPが付与されていてそれが尽きるまでは対象者への攻撃を肩代わりしようとする。ビットのHPは詠唱者のMPの半分が付与される。ルミの傍にひし形の立方体が浮かび、ジャイアント・ジガバチとの射線上をさえぎる様に動いている。


「アーシェラももう一回【ブレス】をお願い! ルミ、もうひとつ騎士のスキル【カバーリング】を教えるよ! 良く見ててね!」


シンジがカバーリングが出来る位置に走りこみ、アーシェラは【ブレス】の詠唱を行う。


「女神バステトに請い願い奉る【ブレス】!」


「【カバーリング】!」


シンジがルミを背後にかばう。【理力盾(パワーシールド)】とあわせ、ルミへのフォローは万全である。


ところで、100レベル前後のレベル帯でレベル差が100もあるとどうなるのか。能力補正値で言えば軽く10倍近く違い、攻撃力に至っては数十倍になりかねない。武器や防具の補正値でカバーできる場合もあるが、今回はBOSS属性持ちでもある。そんなわけでジャイアント・ジガバチはルミだけに任せるにはには荷が重過ぎるモンスターなのであった。


「いいかい、ルミ。こいつはボクが引付けておくから、あそこで倒れている人をこっちへ連れてきてくれないか。乱戦だし、魔法を使うとあの人まで巻き込んでしまいそうで怖いんだ」


「わかりました、シンジ様。でも、シンジ様よりあのハチのほうがはるかに強そうですが、大丈夫ですか!?」


心配してシンジのほうを見るルミ。心配は要らないとサムズアップで答えるシンジ。


「【ストライキング】【チャージ】【チャージ】【チャージ】」


命中精度を上げるスキル【ストライキング】、力を溜めるスキル【チャージ】を重ねがけした振り(・・・・・)をして剣を構えるシンジ。


隙をうかがいながらじりじりと移動したルミがぐったりした犠牲者を引っ張り出し始めたところを見計らって技を繰り出す。


「全てを断て!【居合斬り】」


キン。


硬質な音が響く。飛行していたジャイアント・ジガバチは羽ばたきを保ったまま縦にずれていき、バランスが取れなくなり落下した。


「すごいニャ! あれだけスキルを重ねればあの強そうなBOSSも一刀両断なのニャ!!」


事実は単にレベル差のなせる業であった。スキル名も適当に言っただけ。1,000以上も差があるレベルでは下手をすると指先ひとつで倒すことも可能である。

出来る限り能力を隠しておきたいシンジとしては無駄にいっぱい知っているスキルのせいにしておきたかったのだ。


「よし。捕らえられていた人を介抱しよう。ルミはドロップが何か無いか探しておいて」


アーシェラを伴って犠牲者の様子を診る。アーシェラに回復系のスキルを覚えてもらうことが目的だ。犠牲者は獣人で、女性だった。これが男性だと体力の問題で既に回復できない域まで衰弱していた可能性が高い。女性はまだそのあたりの耐性があり、生き残りやすいことは良く知られている。


「いいかい、アーシェラ。容態を確認するためには手首の脈を診たり、呼吸の頻度・浅さを診たり、瞼を開けて眼球の動きを見たりしても分かるし、巫女・神官のスキル【検診】を使ってもいい。【検診】は【祈る】の発展系で、対象者の様子を知ろうと思う想いと助けたいという想いを神に捧げると行使できるようになるはずだよ」


「わかりました、やってみます」


【祈る】を覚えたときと同じように獣人の神に祈る。アーシェラの頭に神の声が聞こえる。


<【検診】を獲得しました。対象を選んで詠唱してください>


「!! 女神バステトに請い願い奉る【検診】」


<状態:麻痺・仮死状態、対策:麻痺解除・瀕死回復・寄生解除が必要です>


症状は深刻なようである。シンジは同じ情報を【サーチ】で調べていた。手順としてはまずはどこかにくっついている寄生卵を排除し、仮死状態を回復させてから麻痺の解除、という形になるだろう。この場でシンジが出来るのは寄生卵の排除だけだ。仮死状態の回復から先は看病できる施設が必要になる。【リフレッシュ】というスキル魔法もあるのだが、女性限定で行使できるスキルでありシンジに使うことは出来ない。


「ひとまず連れて帰らないとダメなんだろうけど、最下層の探索も最後まで終わっては居ないんだよね」


囚われの人がほかにも居るのであれば同じような状態であるとすると一刻を争う。


「ジャイアント・ジガバチは縄張り意識が強いはずだから他の固体がそばにいる可能性は低いけど、絶対とは言い切れないからね・・・」


小声でミカエラと相談をした結果、やむを得ずシンジがチート能力を駆使して最下層の状況を見る。ダンジョンマップオープンの特権を行使したのだ。レベルが倍以上違う場合にだけ行使可能で、ダンジョンの状況を丸裸にする。


「・・・財宝の類は残っているようだけど、BOSSと人間のマークはなくなってる。とりあえずこのまま引き上げても人命に影響は無いと思う」


もしもの時は別行動を考えていたミカエラとシンジだったが、どうやら杞憂だったようだ。

獣人の介抱と寄生主を探しているルミ、アーシェラの元に戻り、作業を手伝った。

幸い、産み付けられた卵は孵化をしておらず、組まれた腕に持たされていた状態で見つかった。すぐに取り外して処分し、他にないかを再度【検診】して寄生状態が解除されているのを確認した。


「大事に至らなくてよかったです。後は運搬ですが、吹雪の一休みMAPを越えるのが厳しいかもしれませんね。意識を取り戻してからなら良いと思うのですが」


「そうね。運搬するにしても毛布の予備もないし、あの寒さを乗り越えさせるのは厳しいかもしれないわ」


衰弱し、意識が無いこの状況下、極寒の地を通り過ぎるのは危険を伴う。


「仕方ない、勿体無いけど転移石を使おう。預かり所においてきた馬車に転移ポイントを設置してあるから、そこを目指せば問題ないし。」


転移石であれば負担は少ない。パーティか手を触れている相手であれば一緒に転移が可能な便利なアイテムであるが、その分非常に高価なアイテムでもある。時空魔法の産物と言われ、生産できる場所も限られたアイテムだからだ。

しかし、同じ効果をエクストラスキルで再現できることはあまり知られていない。特殊なスキルで、取得も期間限定だったためだ。

もちろん、シンジはしっかり取得済みのものだった。


「じゃあ転移するから皆集まって。その人の手はボクが握っておこう。じゃあ行くよ」


転移石に良く似た石を握り締めつつエクストラスキル【ワープ】を発動させる。一瞬で景色が変わり、馬車の前に転移できたことが分かる。


「よし、成功」


転移は実は危険が伴う。俗に言う”いしのなかにいる”状態になるとランダムで何処だかわからないポイントに飛ばされてしまうのだ。ロストしないだけましかもしれないのだが。


「お!? 転移石で戻ってくるとか。緊急事態かね!?」


預かり所のギルド員が驚いた顔をしながらこちらに寄ってきた。


「ええ。最下層でキラービーに捕まっている人を救出したんですが、衰弱してしまっていましたので転移で脱出したのです」


「キラービーの犠牲者か。神殿のお世話になるしかないな。必要なら先に伝令を飛ばしておくが、どうするね?」


親切なギルド員なのだろう。先回りで知らせが行っていたほうが後処理は早い。早速伝令をお願いし、犠牲者を荷台に積むと馬車は一路、シュバリクの神殿目指して走り始めたのだった。



・・・

・・・・・・



神殿に到着するとすぐに処置が始まり、状態異常は全て解除された。

まだ意識は戻らないため、治療所に寝かせられているらしい。

ほっと一息ついているとエリナがやってきてシンジに話しかけた。


「どうやら無事に救出が出来たようですね。報告は伺っていますが、かなり危険な魔物を退治していただいたようですね。なんでもギルドのほうから報酬が出るようですよ。助けていただいた彼はギルドに探し人として依頼が出されていたようですから。」


そして、エリナはルミとアーシェラに振り向くと手を頭に置きながら語りかけた。


「良く頑張りましたね、獣人(けものびと)の神の使徒たちよ。試練は合格としますが、まだまだ実力不足です。更なる研鑽のためにシンジ殿に従い、使命を果たすのです。良いですか?」


「「はい!」」


元気良く返事する二人。シンジの都合なんてお構いなし。さすが神。


「ボクの都合はお構いなし、と。まぁ、いいけどね。ルミはどうせ一緒に行くしかないんだし、一人増えても大勢に影響ないもんね」


こうして、それぞれ<見習い巫女><見習い騎士>の称号を得たアーシェラとルミなのであった。



次回は閑話休題の予定です。

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